コラム・池谷のぶえ めずらしく体調のいい日に vol.27

舞台をはじめTVドラマ等でも活躍中の女優・池谷のぶえさんのコラム。本誌と併せてお楽しみください!

vol.27

引っ越しの契約をしてから1年が経ちました。いやいや、引っ越してから1年が経ちましたじゃないんかい!というご指摘、ごもっともです。契約はしたものの、その直後にコロナの騒ぎが始まり、自粛期間が始まり、夏前になってやっと引っ越しをすることができました。なので昨年の1月~6月は、以前の家にそのまま住むべきか、現在の家に引っ越すべきか、ずーっと迷い続けていた時期なのです。だってこのご時世、いつお仕事がなくなるかわかりません。家賃の安い家に住み続けた方が安心です。

本来わりと慎重で、とても腰が重い性質なので、こうした場合、以前の家を選択するのが流れなのですが、時として大きな博打に出てしまうことがあるのです。もうどうにもこうにも安定した道じゃない方の道を選択したくなってしまうのです。なんなのでしょう…何かの病気なのでしょうか。この性質が吉と出るか凶と出るかは、確率的にトントンな感じなので、スピリチュアル的な何かに導かれて…みたいな素敵な決断でも何でもありません。ただの衝動です。この性質が災いして、「よくない噂を聞くけど大丈夫…?」と言われていたにも関わらず、「そのよくない噂を実体験したいっ!」という気持ちが沸々とわいてきてしまい、とにかく、経験してみなきゃ!という、キラキラした商品の広告かのようなキャッチフレーズが、私を衝動的に動かし、時に「しまった…」となったり、「よかった…」となったりするわけです。

そういう意味では私の引っ越しは、これといってマイナスなこともないので、どちらかというと「よかった…」のだと思いますが、毎夜寝しなに物件情報を眺めてしまうのはなぜですか…?君のことは嫌いじゃないんだ…でも、君という人に出会ってしまったら、もっといい人が僕を待ってるんじゃないかって…毎夜思うんだ…例えたらこんな状況ですよね、最低です。こんなことを繰り返していたら、いずれ「家を建てたい」と思い始めるにきまっていますが、そう思ったらそう思ったで、持ち家だとゴミ収集がマンションのように24時間じゃない…だの、結局何かが叶わないままです。そうこうしているうちに、「ゴミ収集の心配なんて必要ないお嬢様になりたい」「魔法使いになってゴミ収集を魔法でなんとかしたい」と、全く現実的じゃない方向へ舵が切られはじめ、いつの間にかウトウトと眠りにつき、目覚めるとゴミを出しに行く日々なわけです。

今日は、引っ越してきてはじめて、パーカーが風に飛ばされて行ってしまいました。幸い階下に落ちているのを見つけましたが、今夜はきっと「パーカーが飛んでいかない家」を探して物件情報を眺めるのでしょう。

 

いけたにのぶえ/1971年生まれ、茨城県出身。俳優。幻の劇団「猫ニャー」出身。舞台のみならず映像作品へも活躍の場を広げている。

◎シアタービューフクオカvol.89掲載(2021.3発行)

 

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