竹井亮介の人生ドリル vol.15

舞台をはじめTVやCM等でも活躍中の竹井亮介さんのコラム。本誌と併せてお楽しみください!


vol.15

明けましておめでとうございます!
2022年が皆さんにとって素晴らしい年となりますよう、願っております。みたいなことを、心から言えるようになりたいものですが、まずは自分の幸せを願っているのが正直なところです。でも、人のために何かしたいという気持ちはあるんです。
先日も電車で座っていると、妊婦さんが乗って来ました。車内は少し混んでいて、席は空いていません。これは席を譲らねば!と思いました。誰かのためになりたいんですよ、やっぱり。しかしそこには問題があって。それは、妊婦さんと私の位置関係です。私は7人掛けのベンチシートの左端でドアの隣。妊婦さんは私の隣のとは対面にあるドアの、私から見ると左側の脇。混み合ってなければサッと立ち上がり、近寄って声を掛けるところですが、私の真ん前には若いスーツの男性が吊り革につかまり立っています。私が席を離れようものなら、即座に席を取られてもおかしくない状況。妊婦さんに近寄り声をかける、「ありがとうございます!」となるが振り返るとスーツ男性が座ってる、私が妊婦さんに謝る、妊婦さんが恐縮する、それを見たスーツ男性が気まずい思いをする。ほらね!これでは誰も得をしない!とはいえ、大きなで呼びかけたら、同じ車両の人たちの迷惑になるばかりか、妊婦さんにも恥ずかしい思いをさせてしまう。どうしたらいいんだ!ないアタマをフル回転させて考えました。その結論がこれです。脚をなんとなく席の近くに残しつつ、身体をなるべく妊婦さんの近くまで伸ばして、普通のボリュームで声掛け。これならサラリーマンに席を取られることもなく、妊婦さんに恥ずかしい思いをさせずに済みます。我ながら完璧な計画じゃないの!
さあ、勇気を出して、いざ実践!良いことをする前の高揚感で、自分が無敵になったような気さえしてきます。喜んでもらえる嬉しさがフライング気味に私を包み、自然と笑顔がこぼれます。ところが…。妊婦さんは「すぐ降りるので大丈夫です!」と、さわかな笑顔であっさり遠慮。私は伸ばした身体を元に戻しながら、満面の笑顔で「あ、そうなんですね〜」って言うのが精一杯でした。再び元の席に着いた私は気づきました。自分も次で降りるんだったと。そして次の駅では自分の隣のドアが開くんだったと。これは、妊婦さんが降りる際、ドア横に座る私に何かしらの挨拶をしてくれるパターンになるのではなかろうか。はい、予感的中!私が「いえいえ〜」と言いながら、降りていく妊婦さんと目が合わなくなるのを待って、妊婦さんに気付かれないようにささーっと電車を降りたのは言うまでもありません。
あぁ、人生って難しいですね…。

 

●たけい りょうすけ/早稲田大学在学中は、劇団「木霊」で活動。卒業後は様々な舞台を経験し、1999年、コントユニット親族代表を結成。ぽっちゃりとした見ためを活かした朗らかなキャラクターを演じると、場を和ませ、画面が一気にあたたか味を帯びる。その安定感は、各方面の監督からも信頼が厚い。

◎シアタービューフクオカvol.92掲載(2022.1発行)

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