コラム・池谷のぶえ めずらしく体調のいい日に vol.39

舞台をはじめTVドラマ等でも活躍中の女優・池谷のぶえさんのコラム。本誌と併せてお楽しみください!

vol.39

シス・カンパニー公演「帰ってきたマイ・ブラザー」の公演中です。九州方面にも、5/26(金)~29(月)まで福岡キャナルシティ劇場にまいります。なんと今回の座組では、もうすぐ52歳になろうという私が最年少です。こんなことってありますか? いいえ、今後はほぼないと言えましょう。後輩気分を味わう最後のチャンスです。なんなら、「池谷、学食言って牛乳と菓子パン買ってこいよ!」などと、使い走りを頼まれたいものですが、みなさまお優しいのでそんなことは絶対に言ってもらえません。私への呼び方も「池谷!」と呼び捨てにしていただきたいのですが、みなさまお優しいので「のぶえちゃん」です。いや、それだって充分貴重ですね。今後、「のぶえちゃん」と呼ばれる機会など、歳をとるほどになくなっていくのですから。以前、白石加代子さんと共演させていただいた際、「かよちゃんって呼んでね」とおっしゃってくださって、おこがましいながらもみんなで「かよちゃん」と呼ばせていただきましたが、なんだか通常よりも緊張がとける時間も短く、一気に距離が近くなる気がしてよいものだな…と感じました。

「この扉に入ってもらっていいのですよ」とオープンにしていただいてる感覚。私も将来、自分よりも若い方々に対しても「のぶえちゃんって呼んでね」と言いたいものですが、はたして受け入れてもらえるでしょうか。「みんな、のぶえちゃんって呼んでくれない…」とSNSなどで夜な夜な愚痴っている未来が想像できます。いまでこそ「のぶえ」という名前も受け入れておりますが、そもそも本名の「伸枝」という字体も、濁音の入っている響きもあまり気に入っていない人生でした。「伸びる枝」とは書くものの、特になんにも伸びやしねぇなぁ…と思っていましたが、ある日、「はっ! 伸ばす枝…自分で伸ばさなきゃいけないってことか!」と、自分の名前に隠されたメッセージを理解してからは、名前が戒めのようになっております。とはいえ、お仕事をする際の名前を「のぶえ」とひらがな表記にしただけなのはミスりました。もっといろいろ憧れの名前があったでしょうに…。

大学時代の演劇サークルで初めて「芸名は何にする?」と先輩から聞かれ「芸名!」と浮足立ったものの特に良い名前も浮かばなかったのと、とんがった芸名をつけるのも恥ずかしいのとで、その頃気に入っていなかった「伸枝」という漢字を「のぶえ」にしただけで申請してしまったのでした。まさかその名前とこんなにも長く付き合うことになるとは思ってもみませんでしたし、最近では「池谷のぶえ」の方が見慣れてしまって、自宅への配達物に書いてある「池谷伸枝」という文字を見る度に、最近この人に会ってないな…という、不思議な感覚になります。毎日基本は、池谷伸枝なのですけれども。妹の名前は湖面に浮かぶ帆かけ舟に揺られながら詩を綴る様を現した、情緒あふれるとても素敵な字面なのですが、どこにも情緒を感じない私以上にダークな性格に育ちました。名前なんて、ただのご縁なのかもですね。

 

いけたにのぶえ/1971年生まれ、茨城県出身。俳優。幻の劇団「猫ニャー」出身。舞台のみならず映像作品へも活躍の場を広げている。

◎シアタービューフクオカvol.100掲載(2023.4月発行)

 

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