コラム・野間口徹 舌の根も乾かぬうちに… eps.17

シアタービューフクオカで絶賛連載中「舌の根も乾かぬうちに…」福岡県出身、TVや映画等で活躍中の俳優・野間口徹さんのコラム。本誌と併せてお楽しみください!

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eps.17

生まれてこの方「賞」というものにほぼ縁がありませんでした。貰いたいとか、獲得したいとか、そういう考えすらも起きない程に。

記憶にあるのは、小学校の中学年で貰った「道徳作文コンクール」の佳作くらいです。子供ながらに「よくこんな心から思っていないことを、さも大層深く考えていましたという内容で書けたものだ」と、冷めきった感情が湧いて来る程の内容でした。
後日、賞状をみんなの前で授与されても、特に何も感じず、給食の残りのサツマイモと一緒にランドセルに放り込んで帰ったら、見事に天然の芋判がド真ん中に押されておりました。食べ残しのサツマイモをダイレクトに入れると、紙にシミが付くということを学習した瞬間でした。そしてそれが賞状だと両親が非常に怒るということも。

順位をつけるタイプの賞は、他にもらったことがありません。順位をつけない方は、いわゆる「努力賞」というものを一度だけ。中学の時に。当時、水泳の選手クラスに在籍していて、特に結果を残すこともなく、遅くも早くもない中庸な選手だった僕が、ある大会で、なぜか努力賞をもらったのです。両親はトロフィーを見て喜んでいた気がします。しかし僕は全くそんな感情ではありませんでした。むしろ怒りと悲しみで満ちあふれていました。と言うのも、選考委員と呼ばれる大人達の話し合いの内容を、偶然にも少し離れた場所で聞いてしまっていたからなのです。
「野間口くんは長く続けているけど全く結果が出てないから、ここらで一度、何か賞をあげてやってよ」「そうですねー、じゃあ努力賞で」「はい、じゃあそういうことで」
実際はそういう会話ではなかったのでしょうが、幼稚な僕にはそう聞こえ、反抗期真っ只中だったのも手伝って「大人め!」と、脳内が傾いたのでした。数少ない賞の内容がそれですから、どうしたって、そこから遠く離れた所に身を置こうとしていたのかも知れません。「そんなもんいらねーよ」と。ひねくれてました。

そんな僕が、その一報を聞いたとき、これまでに無い感情が吹き出し、飛び上がって喜びました。
KERA・MAP『グッドバイ』が、読売演劇大賞の最優秀作品賞、主演の小池栄子さんが最優秀女優賞、ケラさんが優秀演出家賞を獲得したのです。稽古から本番終了までの毎日が非常に楽しく刺激的で、チームとしても素晴らしく、これで演劇人生を終えても良いとさえ思う毎日でした。抜群に美味しい寿司屋を知ったあと、他の寿司屋に行けないような。燃え尽きた感覚。同時に恍惚感。満足感。そして喪失感。しばらく「グッドバイ・ロス」になっていた僕に、この賞が新しい風を送り込んでくれたのです。

また素晴らしいメンバーに出会い、賞を獲得できるものを創りたい。ここから先は、そういう欲求があっても良いんじゃないかと。そこから産まれる何かもあるはずだと。

のまぐちとおる/1973年生まれ、福岡出身。俳優。コントユニット「親族代表」と、劇団「ピチチ5」に所属。2016 3/26放送予定『となりのシムラ』(NHK)、3/28放送予定『のんびりゆったり路線バスの旅スペシャル』(NHK)など。

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