コラム・池谷のぶえ めずらしく体調のいい日に vol.32

舞台をはじめTVドラマ等でも活躍中の女優・池谷のぶえさんのコラム。本誌と併せてお楽しみください!

vol.32

前回のコラムの際に、「まだまだ睡眠導入剤を卒業できそうにありません」と書いたのですが、その直後から急に自力で眠れるようになってしまいました…いや、眠れるようになってくれて大歓迎なのですが、半年も患っていたものがそんなすぐ治るものなのだろうかと、逆に不信感さえあります。ですが、治ってしまったものは治ってしまったので…いや、治ってくれて大歓迎なのですが、あまりに急すぎて不眠にさよならも言えないまま、不眠にありがとうも言えないまま…
ま、言いたかありませんが、とにもかくにも、あっけない回復でした。

不眠も含め、昨年春の体調不良からずっとお世話になっている漢方の先生がいるのですが、その先生曰く「自力で睡眠できる身体の基盤が戻ってきたのでしょう」とのことですが、寝ることにも健康な身体ありきなのだというのは、目から鱗です。人は弱るからこそ寝るのだと思ってましたが、寝るにもパワーが必要なのですね。体調不良のぼんやりした時期に、なぜ漢方に頼ってみようと判断したのか今や思い出せませんが、私には合っていたようです。3週間に1度くらいの割合で、体調の変化について小一時間ほどじっくりヒヤリングしていただき、原因を探り、経過を判断したうえで漢方薬の調整をしてくれます。原因を探るために、生活習慣、食生活、排泄、身体の微々たる異変など、赤裸々といえば赤裸々なことも全てお伝えする必要があるため、もはや母親より漢方の先生の方が私をよく知っているはずです。なんならもう、家の中で鍵とか失くしたとしても、「池谷さんの場合、あそこにあるんじゃないですか?」と当ててくれそうなくらい、私をよく知っているはずです。生きることに関わるちょっとしたエピソードを聞くのも楽しく、先日などは「スーパーには狩りの気持ちで行くように」と言われました。かつて日本人が狩猟民族の時は、目の前にある狩ったものをランダムに食べていたわけですが、農耕民族になって安定して食物が食べられる生活になった方が寿命が縮んだのだとか。

現在は医療なども発展したので、再び寿命も長くなっていますが、健康に生きるには狩りの気持ちも大切なんだそうです。というわけで早速、スーパーで目に入った買ったことのない生たらこを狩りの気持ちで購入し、煮てみましたが、いまの世でこそたらこは美味しいという前情報があるものの、これを初めて食べようと思った人たちは、いったいどんなドラマがあったのでしょう。何にも知らなかったらなかなかのビジュアルと触感ですよね。初めて明太子にした人も胴上げしたいなぁ…「漬けよう!」とある時思ったんですよね。「漬けよう!」と思ってくれなかったら我々人類は、明太子に出会えてないんですものね。「漬けよう!」って思う気持ちを大切にしていきたいと思います。

 

いけたにのぶえ/1971年生まれ、茨城県出身。俳優。幻の劇団「猫ニャー」出身。舞台のみならず映像作品へも活躍の場を広げている。

◎シアタービューフクオカvol.93掲載(2022.4月発行)

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