竹井亮介の人生ドリル vol.12
舞台をはじめTVやCM等でも活躍中の竹井亮介さんのコラム。本誌と併せてお楽しみください!
vol.12
最近、人の名前が思い出せない現象が頻繁に起こります。喉元を通ろうとする瞬間に、言おうとしていた名前を見失うのです。老化ということで済ましていいのか、ちょっと不安です。国民全員常に名札をつける法律って、できないものでしょうか。思い出せなくてチラッと名札を見たなって悟られないくらい大きな名札を。もし私が政治家になったら、法案を提出したいと思いますので、皆さん清き一票を。
さて、映像の現場では、その現場に初めて入ったキャストを、そのシーンの撮影前に紹介することが通例のようなんです。「◯◯役・竹井亮介さんです!!」と、大きな声で現場にいらっしゃる皆さんに紹介してくださいます。
先日のこと。とある現場でこんな風に紹介されました。「それではご紹介します!◯◯役、タケダリョウス、ん?、あ、いや、竹井亮介さんです!」と。思わず私も呼応するかのように、「ん?あ、いや、竹井です、よろしくお願いします!」と応えてしまいました。
よくあるんです、名前を間違えられること。タケダさんの他にも、タケウチさん、タケナカさん、タケモトさんなど。でも「タケ」の印象はあるんだなということで、むしろありがたいくらいなのです。まあ、今見てた手元の台本の名前の欄は何だったんだとは思いますけど。
こんなのもあります。「マツイさん、こちらにお願いします!」これも松竹梅のどれかだろってくらいの印象はあるんだなってことで、どちらかと言えばありがたいです。まあ、心は泣いてるよ。泣いてるけど、名前があやふやなだけで、そこにいるってことは把握してくれてるので、まだいいんですよ。
ところがね、存在すら感じてもらえない時もあって、これはさすがにヘコみます。ある現場で、迷惑をかけまいと撮影場所に早く入っていると、やがてやって来た監督さんが、近くのスタッフさんと軽く打ち合わせをしつつ何かを待ってらっしゃいました。すると、ややイライラした声のトーンで助監督さんに「竹井さんはー?」と。えーーーっ!いますいます!ここにいますーー!と思いつつ、怒られるの嫌だなって思ってるうちに、助監督さんは辺りを見回し「あれ?」と探しに行こうとするので、だからここにいますーー!と心の中で叫びながら「た、竹井ですぅ」と名乗り出ましたよ。たぶん自分が思ってるより小さな声になってたと思いますけど。
他にもだいぶ前ですが、ある舞台を観に行って終演後の飲みの席で初対面の方と話してて、出自やら、その時の直前に関わっていた「ロールシャッハ」という舞台のことを話していたら、その舞台をつい先日観たところだって言うんです。でも、一向にピンと来ない様子で。その後フワッとしたまま会話が途切れたことは、言うまでもありません。
私、俳優として、大丈夫なのでしょうか?
あぁ、人生って難しいですね…。
●たけい りょうすけ/早稲田大学在学中は、劇団「木霊」で活動。卒業後は様々な舞台を経験し、1999年、コントユニット親族代表を結成。ぽっちゃりとした見ためを活かした朗らかなキャラクターを演じると、場を和ませ、画面が一気にあたたか味を帯びる。その安定感は、各方面の監督からも信頼が厚い。
◎シアタービューフクオカvol.89掲載(2021.3発行)