映画『マゴーネ 土田康彦「運命の交差点」についての研究』

CINEMA

何気なく出逢ったふたりが、友となり、ここに辿りついた——

美しき水の都ヴェネチアで約1000年に渡り受け継がれてきたヴェネチアンガラス。ガラス加工で世界の頂点を極めたと言われ、その自由奔放なフォルム、舞い上がるような軽やかさ、精緻で華麗な美しさをたたえた姿は、幻想的な小宇宙と呼んでも過言ではない。そんな熟練のガラス職人だけが集うムラーノ島に、唯一スタジオを構える日本人がいる。彼の名前は土田康彦 ── 多様な色彩と高い装飾性で知られるイタリアの伝統的なガラス工芸に、独自の哲学と日本の美を吹き込んだ作品で世界中から注目を浴びている。本作はその作品と創作の秘密を8年間に渡って記録した。

公開後に福岡を訪れたふたりに出逢いから創作までの物語をインタビュー

2人の出会いから映画製作に至るまで、どのような経緯があったのでしょう?

土田康彦:(以下:土田)2012年に山口市のイベントにお招きいただいて2週間ほど滞在していました。その時にスチールと映像のカメラマンとして参加していたのが田邊さんでした。山口市内を移動する時に彼の運転する車に同乗させていただいたんです。その時、1日24時間のうち20時間くらいは喋っていたと思います。20時間×2週間ですよね(笑)。そこでお互いの夢や好きなものについて語り合ううちに共通点が見えてきて、お互いに映画が好きだという話になり、僕の小説が出版されたら映画化したいというような将来のことを話したりしました。その時に、これって友達みたいな感覚だなと感じていました。

映画の中で中原中也が好きだという話をされていて。これは完全な個人の嗜好ですが「中原中也が好きな人=陰な部分を強く持っている人」というイメージがありました。ですが劇中の土田さんはとても人懐っこくて、コミュニケーションも自分から取りに行く。明るい姿が多かったので、とても意外に感じました。

土田:新・中也ファンが現れたと思いました?(笑)でも人間って両面性がありますよね。おそらく僕が中也を好きだった頃は、陰の部分を強く持っていた時期だと思います。

やはりそういう時期に中原中也は力になるんですね…。
土田さんは、小説を書かれる文才があり、お料理もプロで、そして芸術家でもある。そんなに何もかも持っていることがすごいなと感じていました。

土田:昔のアーティストってそういったものでしたよ。レオナルド・ダ・ビンチは画家でありながらも、様々な学問に精通していましたし、千利休は料理と建築と文学と音楽と陶器などを融合させていましたよね。100年前の北大路魯山人は、料理家でもありましたが、文学、画家、陶芸家、書道家などまさにマルチな才能を持ち合わせた人でした。だから、僕が文章を書いたり料理をしたりすることは、そんなに変わったことでもめずらしいことでもないんです。僕はそこにガラスの要素を入れて、アート、音楽、文学、そして食。今回の映画ではそれらをうまくまとめて頂いたと思っています。

この映画はアーティストのドキュメンタリーであると同時に、土田さんの人となりが見えて、物語を見てるような気持ちにもなりました。

土田:でも決して、陽の部分ばかりではなかったと思います。陰の部分があり、そこにな中原中也に影響された部分もね。

劇中では、スポーツ選手、ミュージシャン、料理家との交流などが入っていましたが、監督は土田さんの魅力をどんな感じで表現したいというプランや構成はあったのですか?

田邊アツシ:(以下:田邊)最初はノープランでした。直感でこの人物をもっと追いかけたと思いました。その先に何の計画性もなくて、ただ勢いで土田さんの映画作らせてください、と言ってしまったんです。こういう作品を作ろうとか、こんな感じの仕上がりにしたいとか想像していたわけではなく、僕の中では、これは土田さんの物語であり、僕の物語でもある。僕の一人称で映画は進んでいくんですけど、土田さんと過ごした僕の40代を振り返ったときに、走馬灯のように浮かんでくるそのままを、あの作品にしました。だから時系列もバラバラなるそういう構成にしています。

撮影は何年くらいかかったのですか?

土田:彼の40代まるまる10年間。僕の小説も10年かかりましたし。

田邊:僕がベネチアに通い始めたのは2015年からですが、2012年の暮れに出会って13年には土田さんの作品を撮りたいと話していました。山口でのイベントの様子や彼の来日中の姿とかも追いながら2015年にベネチアに行って本格的に撮り始めました。最後に撮影したのが2018年で、そこから編集を始めたのですがコロナ禍だったので2020年にリモートで撮影したものを入れました。

土田さんはかなり長期間カメラと一緒に暮らしていたんですね。出来上がった作品をご覧になられていかがでしたか?

土田:なかなか客観的には観られないですよね。でも映像の美しさには感激しましたし、最後まで監督が悩まれていたのは、自分でナレーションすべきか否かでした。
自分が実際に見てきたものを、自分の声で、大衆に伝えたいという気持ち強いというのも知っていましたし、物づくりをしている人間が一番最後に悩んでる=一番最後のパズルのピースで、それが一番大切なんですよ。なので、監督のナレーションで正解だったんじゃないかなと思います。僕自身も撮影中はどんなものを作ろうとしているのかも探ろうともしませんでしたし、演じることなく普通に日々を生きてきただけでした。だから、チャプターが別れていたり、僕の小説が引用されていたりしたのは思いがけないことでした。

作品に対する誠実さが、監督が語られるからこそ伝わってきた気がします。

土田:映画をご覧になった方が、プロのナレーターがそれっぽく語っているのかと思われていたそうです。資料を見て監督のナレーションだと気づいて驚かれていた方がたくさんいらっしゃいましたよ。それくらい作品にマッチしていたんだと思います。

田邊:この作品自体が、自分の主観の話ですから、それを別の方にナレーションをしてもらっても、上手くやってくださるのはわかっていますが、濃度が一段薄まってしまう気がしたんです。撮ってきたものは土田康彦という人間であって、そこにこだわったのも自分なので、綺麗に仕上げるよりも伝えたいことが、観た方により伝わるように最終的にはそういう判断をしました。

最初はノープランで撮り始めて、最終的にどのように構成しようと考えられたのですか?

渡邉:全部素材を撮り終わってから、どういうテーマで編集をするか考えましたが、物語のような起承転結の構成でもいいけれど、僕自身が作品をカテゴライズすることが好きではないのでドキュメンタリーのメソッドにも縛られたく無かったんです。土田さんの中に文学というキーワードがあると言われていましたが、僕もどちらかというと文学的な要素は自分を作品の中に置きたかったので、私小説のようなイメージは意識していました。

共通する部分が多いお二人ですが、一番の共通点は?

土田:映画かな……?とにかく映画の好みの共通点はかなりあります。でも一番というと何だろう……(本気で悩む)
田邊:僕も映画かなと思っていましたけど、何か他にもあるような……逆に何が共通点だと感じられました?

映画を拝見していてやはり「文学」がお二人のベースにあるのかなと感じていました。

田邊:確かに、映画にしても根底には文学というものがあるのかもしれないですね。僕も中原中也は好きですし(笑)。
土田:共通は中原中也?(笑)映画も音楽も食文化も文学も、そして芸術も。共感したり出来なかったりあるかもしれませんが、ぜひ観ていただけたらうれしいですね。

 

 

 

 


映画『マゴーネ 土田康彦「運命の交差点」についての研究』

【監督・脚本】田邊アツシ
【出演】土田康彦、宮脇花綸、臺 佳彦、403 architecture[dajiba] 、大友香里、TERU

https://magone-film.com/

 

 

 

 

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