舞台「インヘリタンス-継承-」多様な愛の形を、6時間半の舞台へ

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2019年にローレンス・オリヴィエ賞4部門、2020年にトニー賞4部門を受賞した「インヘリタンス-継承-」。2015年から2018年までのアメリカ・ニューヨークを舞台に、3世代(六十代、三十代、二十代)のゲイコミュニティの人々が、愛と自由を求めて生きる姿が描かれ、上演時間は前後編で約6時間30分に及ぶ。
本作の出演を自ら希望したという福士誠治は、この時代のセクシュアリティに対する世の中の空気感を肌で感じて覚えているという。演出は福士とは三度目のタッグとなる熊林弘高が担当。本作についての思いや覚悟などを福士誠治が語ってくれた。

本作は福士誠治さんが自ら出演を希望されたそうですね。

福士誠治:演出家が熊林弘高さんであることもあって、また一緒に作品を作りたいと思いました。これまで同じ演出家さんと繰り返しご一緒することはあまりなかったのですが、熊林さんとは今回で3回目。熊林さんはとにかく演出の引き出しが多くて毎回驚きます。それに表現がとても繊細です。台詞の裏にあるサブテキストを深く読み解き、本の核心をしっかり捉えるので、稽古中も常に新しい発見があります。今回は特に考え方や表現方法などアイディアをたくさんくださって、改めて底知れなさを感じました。
同じ演出家さんと作品づくりを重ねていくと、クリエイティブな共通言語や相互の感覚の理解の速度が速くて深いので、とても楽しいです。

稽古中の今、改めてこの作品をどのように捉えていますか?

福士誠治:「愛」という言葉には多様な形がある。それは恋愛だけでなく家族愛や憎しみも含まれると感じています。この作品は、実際に起こった出来事と、その物語を小説に書き残すという二つの話で構成されています。稽古を重ねるうちに「インヘリタンス」には人間のさまざまな愛が溢れていると感じました。
小説を書き上げることから得られる喜び、その過程で死に接近していること、愛で幸せを感じる人がいる一方で、愛ゆえに不幸を味わう人もいる。必ずしも「愛=良いこと」だけになっていないことが、残酷であり、またリアルだと感じています。
もうひとつ、HIVとの関わりは避けて通れないと思っています。HIVと聞くと、どうしても1980年代にアメリカで多くの人が亡くなった時代を連想します。今回の作品に臨むにあたって、医療従事者と対話を重ね、HIV/AIDS患者の現状をこの舞台の中で描くことができました。このような話を、作品から発信できることも、素晴らしいことだと感じています。

撮影:引地信彦

福士さんと世代が近いエリック役を演じるにあたって

福士誠治:稽古前にはテーブルワークで本読みを行い、言葉の意味や世界観、歴史的な言葉、ゲイ・コミュニティー用語などを学びました。また、「ノーマル・ハート」「ブロークバック・マウンテン」などの映画を観たり、メリル・ストリープの演技を研究をして、エリックの演技に役立てられるかも、など考えました。ですが稽古場で熊林さんと話し合いながら、背景にある思いを深めることが最も大切だったと感じています。
エリックと自分には多くの共通点があると感じます。友人を自宅に招き、食事を共にし音楽や映画を楽しむことが好きな点は、特に似ています。エリックは人とのバランスを取る能力に長けていて、異なる人々が居心地良く過ごせる空間を作り出すことは、僕も心がけている点です。劇中のエリックは自分の話をあまりせず、聞き役に徹することが多く、自分の意見を積極的には話さない。これはエリックの魅力の一つではありますが、物語の後半で自己決定を迫られる場面では、その性格が苦悩を生む原因になります。
エリックはいい意味で凡庸で、雰囲気に流されやすい。それが人間らしさであり、彼のピュアな部分や愛の深さだと思います。30代半ばのエリックが自分の人生を真剣に考え始めることは、きっと多くの方々にとってリアリティを感じるものになるかなと。

世代間で物語が「継承」される作品ですが、ご自身が「継承」していきたいと思うことは?

福士誠治:この作品を通じて、そして俳優やミュージシャンとしての経験から強く感じているのは「多様性」と「寛容さ」です。現代は多様性が認められ求められるものの、SNSなどでの誹謗中傷が絶えないことからも分かるように、寛容さに欠ける面があると思います。人それぞれ異なる存在であることを認識し、それぞれが認め合うことが重要です。全員が全員を好きになる必要はなく、苦手な人がいてもそれは自然なことですが、異なる存在を許容する「寛容さ」がなければ、社会は争いに満ちてしまいますよね。この「寛容さ」を、僕は作品を通して、そして自身の生き方を通しても「継承」していきたいと思っています。




 

「インヘリタンス-継承-」

【J:COM北九州芸術劇場 中劇場】
3月 9日(土)13:0016:05(前篇)9日(土)18:0021:30(後篇)
■作/マシュー・ロペス
E・M・フォースターの小説「ハワーズ・エンド」に着想を得る
■演出/熊林弘高
■出演/福士誠治、田中俊介、新原泰佑
柾木玲弥、百瀬 朔、野村祐希、佐藤峻輔
久具巨林、山本直寛、山森大輔、岩瀬 亮 /篠井英介 /山路和弘 /麻実れい*
*麻実れいは後篇のみ
■料金/全席指定
前後篇セットチケット
一般 13,000円、ユース 7,000円(25歳以下、要身分証提示)、ティーンズ 2,700円(15~19歳、要身分証提示、枚数限定)
前篇/後篇シングルチケット
一般 8,000円、ユース 4,500円(25歳以下、要身分証提示)、ティーンズ 1,500円(15~19歳、要身分証提示、枚数限定)
※本公演はR-15指定のため、15歳未満の方の入場、チケットのご購入はご遠慮いただいております。

■問合せ/J:COM北九州芸術劇場
TEL 093-562-2655(10:00~18:00)

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