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“幽霊が移民する!?”神里雄大/岡崎藝術座が、どこかの幽霊を連れてやって来る!

INTERVIEW

幽霊が移民する!?
見えないもの、見えなくなってしまったもの、見たかったものについて語る”怪談”
―――あなたが今いる場所と時間は、「見えない隣人」によって揺さぶられる

移動し、越境する人々をテーマにした作品を発表している劇作家・演出家の神里雄大/岡崎藝術座。
本作ではラオス、タイ、ブラジル、ボリビア、そして沖縄を舞台に、それぞれの土地にまつわるエピソードが語られる。海を渡り移動する人々の物語と記憶、その土地の歴史がいつの間にか混ざり合い、重なりあっていく登場人物の語りは、私たちが依って立つ現実の不確かさを感じさせると共に、時間と空間を飛び越える自由な感覚と体験をもたらしてくれる。
人、土地、動物、虫、植物……生きとし生けるものの「声」に耳を傾け、観客ひとりひとりの想像の彼方に見えてくる「見えない隣人」=幽霊と出会う旅へ————

久留米シティプラザ公演を控えた、神里雄大にインタビュー

「イミグレ怪談」は今回再演ですが、最初の制作はコロナ禍でした。その時に、どういう思いでこの作品を創られたのでしょう?

神里雄大:(以下:神里)あまりコロナ禍であることは考えていなくて、新しい作品の創作に向き合うことに集中していました。
その前の年に那覇に滞在していたことがあって、それこそコロナ禍でなにも出来ない状況だったので、沖縄の書店で見つけた「琉球怪談」という本をもとに、怪談公演をやってみたんです。
沖縄の怪談って、島という空間が舞台だと、話に出てくる場所があそこだなってわかるんです。例えば本土にいると地名が出てきても、どんな場所かはわからない場合も多いですよね。でも沖縄の怪談って具体的な場所もイメージできるので、おもしろいと思ったんです。
僕自身、怪談そのものにも、そこまで関心は無かったのですが、読んでみると面白い。怪談って目の前でなにかが起こっているわけではなくて、話を聞いて想像して、それで怖かったり薄寒くなったりする。その時だけじゃなくて、家に帰っても、ふとした時に思い出しても恐くなる。そういうことを考えると怪談を聞いたり聞かせたりするのもおもしろいなと思ったのが、公演で怪談をやってみようと思った始まりでした。
同時に日本の幽霊って、日本独特の幽霊ですよね。沖縄の幽霊も沖縄独特のものだと思うんですけど、じゃあその人(幽霊)たちが外国に行ったらどうなるんだろうな?って。例えば、僕のイメージだと典型的な日本の幽霊は、寒いところにいるイメージです。あと髪の毛が長い女性とか恨みを持っているとか、定番的なものがあると思うんですが、それがタイとかに行ったら違和感があるなと。そこで仮に幽霊が移動したら、どうなるのかな?ということからタイトルを考えました。


神里雄大/岡崎藝術座『イミグレ怪談』 (2022年 那覇文化芸術劇場なはーと 小劇場) 撮影:大城亘

創作される時に、どのようなことを考えていらっしゃったのでしょう?

神里:「演劇に何が(社会のために)できるか?」みたいな議論があると思いますが、自分もそういうことを一生懸命考えていたときがありますが、最近では、社会に対して自分からそのように考えてしまうことは、逆にそもそも社会との繋がりが持てていないんじゃないかと思うようになりました。それに、これは世の中にとっていいだろう、とか、これはあまり意味がないかも、とかいうふうに考えてしまうと、創作が狭く小さくなっていくようにも思えてきました。僕の作品は、「よくわからない」と言われることも多かったので、みんなにわかるようにしなきゃと思いながら、気にしながら作品を創っていたところもありました。
でも今回は、そういう色んなところに気を遣わずにやってみようという気持ちになったんです。自由にやってみようと。だから、わかりやすいとかわかりにくいとか、意味があるとかないとか、そういうふうに考えてしまいそうになるとき、どうでもいいやって思うように努めて、手が動くまま、あるいは物語が動くままに任せて書きました。
そうやっていたら、なんだかいつもより直接的な表現が増えていったようにも感じています。

劇作家で俳優でもあるサンプルの松井周さんも参加されていますが、俳優さんとしてはいかがでしたか?

神里:俳優として……真面目な方ですね(笑)一見、クールそうに見えるんですが、本番前は結構緊張してるし、終わってからも出来に対してもちゃんとリアクションするので、真面目で演劇が大好きな人なんだなというイメージです。
僕は意見を言ってくれたり、理由というか根拠を聞かれたりしながら、立ち上げていくのが好きなのですが、松井さんに限らず今作に出演している俳優たちは、自分から率直な意見を言ってくれますし、関わり方が能動的だと感じています。

神里さんは、海外での公演もたくさんされていますが、いつも同じところにいない人、というイメージです。同じところに留まらない理由がありますか?

神里:生まれも外国だし初期から色んな土地に行っていたというのもありますが、僕個人としてずっと同じところにいると精神的にまいってしまうことがあるんです。日本語がネイティブなので、日本にいるとどこにいってもその音から逃れられないじゃないですか。そうすると、しんどくなるというか、too muchな感じになってしまうんです。昨年、久しぶりにタイに行ったんですが、空港に着いたときに、知らない言語とかが入ってくるのが心地よかったんです。
例えば、自分が日本語をしばらく喋らないでいて、戻って来た時に日本語を喋ろうとする時に、なんとも言えない感覚になるんです。そういう感覚がたまにないと、自分が内に内に入っていく負のスパイラルに陥ってしまうんです。

作品では「焼酎」のことを紐解いていくところから色んな方向(国)に話が進んでいきますが、どのように構成を考えられていたのでしょう?

神里:お芝居全体としていつも1時間20分くらいを目指して作るのですが「怪談」というテーマひとつで80分の芝居をつくるのは厳しいなと(笑)。かといって、色んな怪談を出していくのも違うなと思っていて。怪談とはなんぞやということを考えている時に、たまたまタイにいたんです。そういえばコロナ前にタイに焼酎のルーツを辿る取材をしていたなと思って、それが最終的に演劇には落とし込めて無かったのもありますが、タイからラオスに行った帰りの飛行機に乗ろうとした時に、「怪談」を場所で分けようというアイディアがふと浮かびました。タイの幽霊、ボリビアの幽霊、沖縄の幽霊、というのが思いついたので、そういう構成はおもしろいなと。あと沖縄が貿易のハブだったというのもあって、この作品は「那覇文化芸術劇場なはーと」との共同制作でもあったので、何かしら沖縄を絡めた作品にしたいという思いもありました。
もともとの想定は沖縄の幽霊が外国に移住するというものでしたが、貿易のハブであることから他の話にも繋げていくということにしました。ラオスで知ったラオスの歴史が沖縄と通じるものもあったので、なんとなく気持ちのままに作っていたら、戦争のことになり、とても直接的な作品になっていきました。

福岡には2015年に公演されて以来ですよね

神里:かなり久しぶりです。どんな反応があるかとても楽しみにしています!

 

 

《神里雄大/岡崎藝術座 HP》

 

あらすじ

同窓会があるからと集った3人。焼酎のルーツを求めてタイに渡り、そこで出会った女に魅せられた話をする者、遠くの地に移住した人たちの物語を話す者、沖縄の幽霊について語り出す者。酒、年金、お祭り、戦争、未来、死、バーベキュー、前世、話は多岐に渡り・・・どうも3人の会話は噛み合わない。それどころか、どうやらお互いに見えているのか、見えていないのかさえ怪しい。
頭上に輝くのは満天の星空か爆弾の光かーー、彼らの語りから見えてくるものとは?

ノート/神里雄大

見えない隣人──幽霊や妖怪は日常に潜んでいる。わたしたちの隣人と言ってもいい。存在するかしないか、そんな議論は不要だ。見える人にしか見えない存在。見たくない人は見えない、とも言い換えることができる。ちなみにわたしは見たことはないが見たい。見えないものがいたっていい。そういう「見えない隣人」が、もしも国や地域を飛び越えたらどうなるだろう? と考えたのが今作の構想のきっかけだ。戦争や地震などのあとには、幽霊の目撃談が増えるらしい。死者を思うことが、幽霊の誕生につながる。だとすれば、その存在はわたしたちの生活にとってなくてはならないもののようである。なお、イミグレは英語で移民を意味するイミグレーションから採っているが、出入国管理のことでもある。見えないのは隣人なのか、あるいはその存在を受け入れたくない側の人間か。時が経ち、幽霊の誕生理由が忘れ去られてしまったころ、幽霊は出自不明の妖怪になるんじゃないか、そんなことも考えている。

神里雄大



神里雄大/岡崎藝術座『イミグレ怪談』

【久留米シティプラザ】
■9月2日(土) 17:00 ★、3日(日) 13:30 ☆
★9月2日(土)の終演後、アフタートークを開催
お客さまの感想や意見をもとに、多様なものの見方を共有します。(20分間程度)
進行:長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院准教授)
☆9月3日(日)の終演後、シアターカフェを開催
作品を鑑賞して思ったこと、考えたことをシェアします。(2時間程度)
進行:柴山麻妃(演劇評論家)
久留米シティプラザHP

■作・演出/神里雄大
■出演/上門みき、大村わたる、ビアトリス・サノ、松井周
■料金/一般:3,500円   U25(25歳以下):2,000円   高校生以下:1,000円
※U25および高校生以下チケットは入場時要証明書提示。
■問合せ/久留米シティプラザ 0942-36-3000
※未就学児入場不可

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