「錦鯉」土田英生×鈴木一真 インタビュー

爪の先までいっぱいいっぱい!
ルールに縛られた男たちの哀しくも可笑しいサガを
コミカルに描く傑作コメディー「錦鯉」が
新たなカタチで甦る。

今やその活動の幅は演劇界にとどまらず、映画やドラマなどの脚本でも活躍中の土田英生さん(劇作・演出家/劇団MONO主宰)と舞台や映画でも個性的な演技が光る鈴木一真さん。北九州芸術劇場プロデュースによる舞台「錦鯉」が11月3日〜5日に行われます。今回このお二人に作品や芝居について熱く、そして面白く語っていただきました。

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左・土田英生、右・鈴木一真

■今回公演の「錦鯉」って再演ですよね。この作品を再演に選ばれたきっかけは?

土田
小劇場が好きでその世界観を中心に作品を作ってきたんですけれども、今回はいつも自分たちでやっている所より劇場が大きいんですよ。それで自分の作品の中で劇場を広げて成立する作品はどれか、ということと、僕の作品の中でも「錦鯉」はエンターテイメントとしての評価が高かった作品だったので、その二つがこの作品を再演に選んだ大きな理由ですね。

■今回のキャスティングで、自身の劇団で作った時と何か違ってくると思いますか?

土田
一番大きな違いっていうのは、たかお鷹さんという文学座の役者さんに出演していただことですね。僕らの劇団というと同世代が多いですから、ヤクザを演じても同世代のヤクザになっちゃうんですよ。ところが、チラシをみても分かると思うんですけど、やはりたかおさんみたいな方が一人いると芝居自体のリアリティがグッと増すわけですよ。そういう意味では、前はずいぶんマンガチックなヤクザだったんですけど、今回ヤクザ度が増してるというかリアリティが増すだろう(笑)とは思いますね。たかおさんの存在が加わることで以前とは随分、芝居全体のトーンが変わるだろうな、というふうに僕は践んでますけど。

■ヤクザのリアリティを出すために取材はされたんですか?

土田
取材はしてないんですけど、僕、学生時代から京都ですから、わりと間近でそういう人たちを見てたんです。

■じゃあ、この芝居のテーマになっている「ルールとは?」ってこともそんな中から見つけたとか?

土田
あ、それはありますね。今の世の中ってすごく保守的になっていると感じているんです。「爪の先までいっぱいになりたい」っていうのは、結局ルールに縛られたいってことなんですよ(笑)人間っていうのは悲しいもので、どうしてもルールに縛られてしまうよ、みたいな。メッセージというのはあまりないんですけど、あるとすれば「いっぱいにならないように、だらだら生きようよ」ってこと。ある種の封建的な、保守的な社会って非常にキモチイイものなんですよ。内側からみれば、ルールがしっかりしていて、守っていれば可愛がってもらえる。ただ、そうすると外に敵を生んだり、過激なことになっちゃう。そういう内側と外側との間にある悲哀みたいなものと、人はルールを求めだすとそうならざるを得ないんだということを考えますね。狭いところに自分を置くと、外の世界と接するのに自分自身のアイデンティティは介さない。ここは俺の持ち場だ!みたいな考えだと、カルト教みたいになっちゃうんで「そうならないでいてね」ということを言いたい訳ですよ。僕としては。

■お二人それぞれ、自身のルールは?

土田
僕はキャスティングのルールはハッキリしていて、「全ての人に優しい人」ですね(笑)舞台をやる時に作品にキチンと奉仕できる人というか、キッチリ物事が分かっている人とやりたいですよね。だから常に性格重視でキャスティングしてます。自分の劇団員に求めることも人間性ですからね。演技なんかは二の次三の次で(笑)人間的に電車ではちゃんと人に席譲ってね、みたいな。それが僕のルールですねー。

鈴木
僕は、遅刻をしない、セリフを覚える、かな。それと役者業って団体行動なので、協調性を持つこと。子供の頃協調性が無いって散々言われたので(笑)気をつけてますね。協調性はホントに大事。それは僕が映画を撮ってみて、すごく身にしみたんですよ。役者だけやってる時は気づかなかったけど、実はスタッフの人って、常に役者の事を頭に置いて作業をしているので、体はそこの場にいなくても、準備段階から役者のこともちゃんとインプットしているんだなって気づいたんです。そしたら役者であっても物作りにちゃんと参加していけるって感じたんです。それに僕も土田さんと一緒で、みんなで楽しくやろうとしていることのペースを乱されるのがダメなんですよ。ルールとはちょっと違うかもしれませんが、どの現場でも、楽しく仕事をしていたいですね。

■土田さんと鈴木さんは年齢が近いですけど、初めて同じ舞台に関わられることについての印象を教えてください。

鈴木
僕は、こんなに歳の近い演出家の方とご一緒させていただくのは、初めてなんですが、立派だなーと思って(笑)僕と近い年齢でここまでやられている、というのは立派というかスゴイな、って思いますね。
土田
いやー立派とかじゃないっすよ(笑)
鈴木さんとちゃんとお会いするのは、今日で二回目なんですけど、僕の印象はすごい繊細な印象だったんですよね。ずっと。ま、テレビとかで拝見させていただいてた時には。で、その繊細な印象がどっち側に出る人なのかな?ということに興味があったんです。繊細でもうダメだっていうほうに行くか、繊細だから頑張ろうっていう人と2種類いるじゃないですか。鈴木さんにね、写真撮影の時、初対面で「土田さん、あそこのシーンどうしたらいいですか?」って言われてびっくりしたんですよ。でもそれで安心しましたね。
鈴木
今日も会見の後、本読みするんですか?って聞いちゃいましたもんね(笑)土田さんすごく慌ててて(笑)
土田
いや、いいんですよ。ただね、ビックリするだけ(笑)ビックリするだけなんですけどね、え?え?本読みって今日?聞いてない!とか思って。会見の場で、ちょっとセリフを言ってみる、なんてことはありますけど。それですか?って聞いたら、違う違う稽古をって言われるから、ええぇぇ!そりゃ聞いてないやって思って(笑)。要は鈴木さん、真面目な方だと思うんですよ。だからそれしか見えなくなっちゃうんですよ。でも舞台って集中できないといいものができないんで、だから、その点では安心しましたね。

■じゃあ相乗効果でよりいいものができそうですね。

土田
できたら、そのモチベーションを失わずに、僕が「まあ、こんなもんで‥」とか言ったとしても、もうちょっとやりましょうよ、とか言って欲しいですよね(笑)そんな現場になればいいと思いますね。

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■鈴木さんは「錦鯉」を読まれた時の印象は?

鈴木
“間”という部分を大切にしていらっしゃるとは聞いていたので、脚本を読んだだけでは、どこで、どういう“間”になるのかわからない部分もたくさんあったんですけど(笑)あと、きっとこのセリフは誰かがアドリブで言ったものを気に入って書いたんだろうな、って思えるセリフとかあるんですよ。誰かの置き土産が。普通のセリフではないようなリアリティのあるセリフとかがあって楽しいですね。
土田
あのね、ちなみにね、そんなセリフ無いですよ(笑)
鈴木
え!?ないんですか?
土田
一応、アドリブ禁止なんですよ。たとえば、稽古場で役者がセリフを言い間違えて、それを拾うことはありますけど。あ、じゃあ、そっちにしようかって。割に最初から決め込んでますね。実は。
鈴木
僕ね、絶対誰かのアドリブの置き土産だと思ってましたよ。でも、ホントにそれほどリアルなんですよ。セリフの方言も独特ですよね。
土田
僕の出身の愛知県の言葉をベースに作った方言なんですよ。一人称のことを「わち」って言うんですけど、その響きが好きなんですよね。
鈴木
もともとは、愛知県では言わない表現なんですか?
土田
言わないですよ(笑)初演の稽古の時に色々試してみたんですよ。一人称の表現をね。でも「わち」がいちばんよかったんですよ。

■そういえば土田さんは、趣味が盗み聞きだっておっしゃってましたけど(笑)台詞に反映されてたりして。

土田
結構、そのまま使ってたりするのもありますね。日常で笑える会話だったりね。さっき鈴木さんがリアルな台詞って言ってくださったのも、そんなにリアルかどうかはわからないですけど、頭で笑わそうとだけ考えると、どうしても作りが構造的になっちゃうんですよ。日常会話のおもしろさって、聞いてたら意外に笑えてくるんですよ。だからあまり分析せずに、そのまま台詞にしちゃうみたいなね。そうすると、実際面白いんですけど、ギャグという感じじゃ無くなるんです。なんで笑えるのかはわかんないけど、普通の人の会話の間っていうのが面白かったりするんで。いただいたりします(笑)
鈴木
土田さん脚本を書かれる時は、自分で声出して言ってみるんですか?
土田
言ってみますよ。でもほとんどの劇作家の人はそうだと思いますよ。やっぱり、字で書いてみるのと、音で聞くのと違いますからね。だから一度声に出してみて、自分で笑ったりもして、端から見たらすごい気持ち悪いと思うんですけど、やってみて自分で笑ってますね。

■土田さんは脚本を書く時は感情移入しながら、なんですね。

土田
笑えるところは笑いながら書いてますし、笑いばっかりじゃ無いんで、時々泣きながら書いてみたりね(笑)こないだ永井愛さんっていう劇作家の方に聞いたら、やっぱり、書きながら笑ってるって言ってましたね。だからみなさんやっぱり笑っているんだなと思って。

■そういう風に書いた作品を役者さんたちに最初にみせる時ってやっぱり緊張します?

土田
今回は脚本が最初からあるのでいいんですけど、新作の時はホントにイヤなんですよ。あのね、初日とかに顔合わせで本が配られる時があるじゃないですか。脚本を役者さんが黙って読んでる時間があると、気になってしょうがないんですよ、反応が。それで、だれかクスって笑ったりすると、乗り出して、どこ?どこ?いま、どこで笑ったの?って聞きたくなりますよね。そういう気持ちはどの作家さんにもあるんじゃないですかね。

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■鈴木さんも映画で脚本を書かれてますよね。

鈴木
その時は僕も書いたんですけど、ホントに難しいなって思いましたね。やっぱり本を書くのが得意な人というのは、僕が何ヶ月も悩んで少ししかできなかったものをササッとできるんで、やっぱり、餅は餅屋だなと思いましたね(笑)実は、別の仕事で友人が舞台でやった作品を映像用の脚本に書き直したんですよね。で、無駄なものを切っていったりとか、足したいアイディアはあるんだけど、それを台詞に直すと堅いんですよ。全然笑えないの。頭の中では面白かったのに、書くと笑えないんで、やっぱり脚本を書く作業というのは、僕には向いてないんですよ(笑)
土田
いやいや、それはね、よくありますよ。書くと笑えないっていうのは。その気持ちわかりますね。

■今回の改訂された脚本はどうですか?

鈴木
今回、新しく出来た組員役のセリフ、サイコーに面白いじゃないですか。ずるいなーと思って(笑)
土田
えぇ?そうっすか〜?(照笑)僕、今、とたんに気が楽になりましたよ(笑)
だから今日ね、新しく作った組員役の有門くんに会った時に、開口一番、ちゃんと稽古場でセリフ直すからって、何も言われてないのに自分から言い訳しましたもんね。ビビッちゃってるから(笑)でも、今の一言で急に強気にでれるかなって思っちゃった。
鈴木
いや〜、ほんと、おいしいなあと思いましたね。登場の仕方とかね。クライマックスもいいし。
土田
こりゃもう、毎回鈴木さん横にいて欲しいですね。鈴木さんの言葉だけでしばらくやって行けそうな気がする(笑)

■でも、さすがですね。脚本を読んだだけで映像がすぐ浮かんじゃうって。

鈴木
浮かぶだけでは‥‥それをかたちにするっていうのとは違うんですよね。
土田
いや、でもね、面白がれるっていいですよ。それしか手がかりがないはずだから。これは感覚ですけど、面白がってもらえる箇所が近ければ近いほど、作品の印象も伝わりやすいはずだし。

■お二人とも舞台も映像のお仕事もやっていらっしゃいますよね。何か違いますか?

鈴木
お客さんと同じ時間にそこにいるっていうのが一番違ところかな。演じ方も、ドラマや映画の場合と舞台って、違う部分もあるんですけど、ホントに舞台はお客さんが目の前にいて、いい時は拍手をくれるし、悪い時も反応がダイレクトだから怖いですよね。でも普通に生活している中で、目の前でたくさんの人に拍手をもらえることって無いじゃないですか。あれはホントに嬉しいですね。頑張って良かったなっていつも思えるんです。アンケートも正直に書かれていますからね。これも怖いですけど。
土田
僕、前にね、アンケートに裏を見ろって書かれてて、裏をみたら大きく「バカ!」って書かれてたことがあって、正直へこみましたねー。小学生のような書きっぷりですけど、へこみますよ。

■アンケートはお二人とも、ちゃんと読まれるんですね。

鈴木
1回気になり出すと、止まらなくなるんですよ(笑)反対に全く見ない時もありますけど。
土田
僕はね、全部は読んでいられないんですよ。だからたくさんの中から5枚くらい取って、もうそれしか見ない。でもね、役者さんはホントはあんまり見ない方がいいんですけどね。舞台の良さって、自分の事が見えないからいいんですよ。自分で美しいと思っていることと、人が美しいと思うことって違うじゃないですか。例えば職人が作品を一生懸命作っている姿はとてもカッコイイな、と思うんですけど、よく観たら変な顔してるんですよ(笑)その姿は他人が見ると格好いいんですけど、自分で見たら、こんな顔して仕事してたのか!?って思うじゃないですか。舞台ってみんな必死でやってるから、その時の無防備な表情が出るからいいんです。それがアンケートを読んじゃうと意識するんですよ。それを意識し出すと、人が美しく無くなっていくような気がしますね。だからアンケートの結果は、スタッフの人からまとめて聞くのがいいですよ。
鈴木
確かに舞台でも収録をする時がたまーにあるじゃないですか。安全パイでいくというか、思い切ってやれないというか。これって、一生残るんだろうか?とか考えちゃいますからね。
土田
そうすると、なんか置きに行く芝居するんですよ。段取りはちゃんとしてるんですけど、全然芝居が弾まないんですよ。で、変に格好つけるからセリフ噛んじゃったりしてね。いいこと無しですよ。

■今回のお芝居で何か新たにチャレンジしてみようと思うことは何かありますか?

鈴木
僕は土田さんのいう“間”をマスターしたいですね。僕は自分で、間が悪いと思っているので、自然とそんな“間”が作れるようになれれば、それを意識してその技を身につけたいと思いますね。
土田
今回は力だけじゃなく、たとえば映像の世界で活躍されている、ヒロシさんなんかはお笑いでね、そういう方に集まっていただいてやるわけですよね。わりにそういう仕事で、もうひとつこう、何かクリアしきってない感じがするんですよ。演出っていっても、僕はプロデュース公演の演出ってあんまりやったことないんですけど、どうしても苦い思いを残してきている気がするんですよね。今まで。だからこれを機にちょっと、それをクリアしてですね、自信をつけたいですよね。どういう空間でも、新しいメンバーと組んでも、いいお芝居を作れるという、その証明にしたいと思ってますね。

 

 

【北九州芸術劇場/中劇場】好評発売中
「錦鯉(にしきごい)」
■公演日/11月3日(金・祝)13:00、
     4日(土)13:00、18:00*終演後アフタートーク有、
     5日(日)13:00
■作・演出/土田英生
■出演/鈴木一真、田中美里、ヒロシ、笠原浩夫、木南晴夏、水沼健、有門正太郎、たかお鷹
■料金/5,000円(全席指定)※当日500円増
〈電子チケットぴあ Pコード〉368-168〈ローソンチケット Lコード〉86066

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