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「もろびとこぞりて Ver.2,3」芹川藍さんインタビュー

今年で劇団結成32年を迎える「劇団青い鳥」。今回は北村想(劇作家・演出家・小説家)が青い鳥の3人の役者にあてて書いた作品を芹川藍が演出。彼女たちの“今”とリンクしていく「もろびとこぞりてVer.2,3」は、現代を生きる全ての人に向けた“今を生きぬく”ためのメッセージ。

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芹川藍(演出・出演)

■今なぜ、北村さんの作品で芝居を作ろうと思ったんですか?

この作品には前身があって、10年前に彼が自分の劇団のために書いて上演したんです。私は名古屋まで見に行った時、涙が止まらなかったんです。哀しくて、ではなくて理由もなくしゃくり上げるくらい涙が止まりませんでした。生きる人への応援歌のような気がしたんです。その印象が強く残っていて10年後になって、こんな感じの作品が書けない?と北村さんに聞きました。私たちの生き様を芝居で見せたかったんです。実際、彼がこの作品を「芹川さんに観せたくて」書いたと聞かされ、もちろん私はそんなこと全く知らなかったんですけど。全然違うこと考えている人でも、この一部だけが一緒だなって思う時があるように、そんな部分があったんですね。北村さんと私に。

■芹川さんが「いつかやってみたい」と思っていた作品を、実際にやる事になって今どんな気持ちですか?

その頃、青い鳥はしばらく休業しようと思っていた時期で、少し落ち込んでいたんです。その時に思いついて観に行ったのが「もろびとこぞりて」で、最後の台詞、「バミった後のテープが」を聞いて、私の心にガチッとはまった芝居でした。その後も公演は続けていたけど、3年くらい前、この仕事をいつまで続けられるんだろうと考えた時、フワッと頭に浮かんで来たのが、この作品でした。何かはわからないけど、琴線に触れるものがあったんです。ここまで芝居をやり続けてきた自分たちの姿と重なり合う作品だと感じています。

■この作品は当時とは少し変えて、青い鳥用に書き下ろされているんですよね。

そうです。もとの作品は1/5くらいしか残ってないくらい書き換えられてますね。だから前の作品とは全然違います。

■ 北村さんに頼んで良かった、と思う部分は何でしょうか。

うまく表現できないけど、彼の生きていく様の“何か”が信頼できるんです。今の私たちの状況をわかってくれていると感じられて、すーっと馴染めました。作家の要望もあって、青い鳥には珍しく座っている場面が多いんですが、場面転換、衣装転換も一つの見せ方として作って来た私たちにとってはひとつの挑戦でした。北村さんとは何か、運めと縁のようなものが続いている感じがしています。名古屋公演の前日、私たち役者は交通事故に遭ってしまったんですが、なんとか公演をやり終えました。その時、青い鳥の4人の若衆たちがスタッフとして裏で支えてくれたんですが、その仕事ぶりを見た北村さんは、あっという間に次の作品を彼女たちのために書き上げてくれたんです。

■劇団結成から32年。普通の仕事でも大変だと思いますが、女性だけで作品を作り上げるというのは、ある種、特殊な作業ですよね。

「市堂令」の名前で全員で作品を作ったのは10数年くらいで、その後、役者兼作家になったり、役者兼演出家になったりしていきました。作品が複雑、高度になっていくほど他人の目が必要になってくるんです。全員で作品作りをすることが「青い鳥方式」と言われたこともありましたが、それは芝居作りのすべてにみんなが口を出す、責任を持つということなんです。そのスタイルは現在、私が演出をしていても続いています。年齢差が20、30とあっても、それぞれが思っていることをちゃんと聞いてあげられるかどうかが大事なのです。劇団を立ち上げた頃、演技のテクニックがわからない時、よりどころだったのは、それぞれが「何を思っているか」「何を感じているか」を素直に出せるかどうかでした。癖もあるし、見栄もプライドもある、それを取っ払うことから取り組みました。登校拒否じゃなくて劇団拒否になるくらい大変でした。家庭の事情から心の奥を探るようなこと。そういうことの積み重ねの上に作品を作っていきましたけど、「青い鳥方式」というのは実はそんな苦しい部分がかなりあったんです。

■最初に、そういう大変なことをやったことで32年間も続けられたんですね。

それをやらなければ、もしかしたらここまで来ていなかったかもしれません。小さな「?」をそのままにしておくと塵のように積もっていくんです。いい人を演じなくちゃならない、愛想よくしとかなきゃならない、そんな事をやめることから始めるんです。だから稽古を始める前に、「さあ、芝居はやめましょう」って言うんです。15年くらい前、ふと思ったんです。「世間の人たちはなんでこんなに“演技”をして生活しているんだろう」って。“母親らしく”“父親らしく”と演技していくうちに自分の芯の部分からどんどん距離が出てくるのではないかと思います。表現するためには、作品を作って行く段階で“演技”をしてはいけないと思っています。

■普段の生活から芝居をしてると、本当の意味で演技ができないんですね。

芝居を作品の中でゆっくり自分とリンクさせていく。半分ドキュメントみたいなものです。だからこそ、観ている人の心に届くのではないかと思うんです。作り物、空想みたいな芝居もあっていいんですよ。でもそれは、それ。私は売れるとか売れないとかは関係なく、何か自分の生き様をみせる方法論としての芝居を観せたいんです。仕事でも人間関係でも行き詰まっている人が、私たちの芝居を観ながら過ごしている時間に、なにか気づいたりもするだろうし、心が震える瞬間があればいいなと思ってます。そんな時間をお客さんと一緒に過ごしたくて芝居を作っているような気がするんです。

■ この作品で、観る人に伝えたいことって何ですか?

若い人であろうが、歳をとっていようが、人の生き様って格好良くないものだと思うんですよ。格好良くしたくても歳をとればシワもよるし、体も衰えていくだろうし、有名だった人も無名になるかもしれないし。生きてると色んな事があるでしょ。青い鳥の役者だって観ているお客さんだって“生きている”ってことはみんな同じなんだから、ちょっと頑張って生き続けてみようよ、歩いてみようよ、というのがメッセージだと思いますね。いつ、何がどうなるかわからない。わからないからこそちょっと頑張ってみたほうが“いいかもしれない”ねってことです。

 

 

【北九州芸術劇場/小劇場】
劇団青い鳥+北村想
「もろびとこぞりて ver.2,3」

■公演日/11月4日(土)14:00・18:00、5日(日)14:00
■作/北村想 ■演出/芹川藍
■出演/天光眞弓、芹川藍、葛西佐紀
■料金/3,500円(全席指定)※当日500円増
〈チケットぴあ Pコード〉371-699〈ローソンチケット Lコード〉89107

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