ハイバイ「ある女」岩井秀人インタビュー

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ギリギリの選択をした先に、本当の面白さが待ってる。

ハイバイの2年ぶりの新作「ある女」が、東京、名古屋公演を終えいよいよツアーの最終地、福岡へやってくる。
本誌でインタビューを紹介した時点では、作品の輪郭がようやく見えた頃。それから東京、名古屋公演を終え、好評だったと風の噂で聞いていましたが、福岡公演を前に、その作品の手応えや今の実感を語っていただきました。

 

■ まずは東京公演、名古屋公演を終えて、お客さんの反応も含めどんな手応えを感じていますか?

お客さんの反応はよかったですよ。
今作は、物語とはすごく遠いところから始めて、だんだん入っていって、ちゃんと深いところまでいけるようにはしてるんですけど、それが全部伝わらなくてもいいのかなとは思いました。僕が女の人の役をやってるので、例えばすごくシリアスな場面で、女の人の話だと思って観てたけど、“やべ、おっさんがやってたんだ”ってふと現実に帰ってしまって笑っている人もいれば、ホントに最初から最後まで女の人の話として、すごく深刻に受け止めて、でもなんだか可笑しいって笑ってる人もいるし、物語をそのまま受け取ってキツイ話だなと感じていた人もいたみたいです。

実を言うと僕が一番怖かったのは女の人を主軸に物語を描くということだったんです。これまでに30歳前後の女の人が軸になっている作品ってなかったので。おばさんを主軸にしている作品だったらあるんだけど、僕はおばさんはおじさんと一緒だと思ってるんで、ってことは僕が書いちゃって大丈夫ってことだから(笑)だけどやっぱり30歳前後の女の人って感覚が独特だと思うんです(笑)特に“そんなの違う!”っていうことに厳しそうなんでね。そこは本谷有希子さんや江本純子さんに面白がってもらえたので大丈夫かなと。なのでその辺を違和感なく観てもらえてたようなので、ホントに良かったなと思いますね。

■ 今回はこれまでとは違う作り方をされていたじゃないですか?取材したり、あらすじ書いて、段取りを踏んで作っていきましたよね。それをやってみてどうでしたか?

やってみて感じたのは、キッツイなーってこと(笑)一応、台本が出来上がってから稽古に入ったんですけど、もう直しても直しても終わらないみたいな感じで。たぶん台本の刷り直し回数が過去最高だったと思います。その後も作品中での順番を変えたりしたのでなかなか大変でした。

■ 方法としては、これまでの一気に書き上げるのと今回の創作方法とでは結果は違ってましたか?

いや、やっぱり一気に書き上げたものの方が、そのままストンと舞台になりやすいと思いましたね。今回のは、やっぱり書くのに時間を掛けた分、台本が読み物になってたんですよ。冒頭のモノローグの部分なんて完全に読み物ですからね。でもその部分って、実際に稽古に入るまではまったく気づいてなかったんです。

■ 書いている時は、岩井さんの中で画としては浮かんでたんですよね?

結果的に映像を使ったりもしているけど、でも書いている時は僕の中でも曖昧でした。映像と実際の役者の台詞とかを一緒に使ったりしたかったんですよ。さっきも話したように物語の核心とは全然離れたところから始めたかったので、その前段部分はモノローグとして、さっと説明するべきだと思っていたんです。それで映像にしました。映像凄いです。初顔合わせのムーチョって人に頼んだんですけど、「来たー!!」と思いました。

作品自体を“いけない不倫”から始めるのは嫌だったんですよ。そうするとどうしても修羅場集みたいになっちゃうから。不倫は自分の恋愛の視野に入っていなかった人が、だんだん不倫にいっちゃうっていう方が、誰の日常からも地続きになるし。だから最初の部分は、そこはどうしても映像でまとめて表現したかったんです。あとは、物語に入ってからの部分も、台本を相当カットしました。もちろん台本を覚えてもらって稽古していくんですけど、「あ、ここは台詞いらないや」ってなったら切っていって。結局で出来上がってみたら、今までで一番薄い台本になってた(笑)

■ これまでと違うやり方に役者さんは戸惑ったりはしなかったんですか?

どうなんでしょうね?「この方法しかないので、切るかもしれないけど覚えて来てください」って言いましたね。
なので僕自身も結構苦しかったんです。その苦しかった感覚というのは、人を取材して書いたからかもしれないですね。これまでの作品だと僕自身の話なので、僕が勝手に注釈を付けてよかったし、注釈をつけることが僕はおもしろかったんですね。

例えば怯える芝居の時には、こんな風に怯える、みたいなイメージが僕自身にあるから、それを俳優に伝えれば済むことだったし、そんなミクロなことに楽しみを見つけていく感じはあったんですけど。今回のは他人ですから。細かく「ここでどう感じた」ということは、本人にしか分からないわけだし。

今回脚本を書いている時に、僕が一番興味を持ったのは、取材をして話を聞いていて、なんというか、その人が生きて来た中での軌跡、みたいなものを純粋に感じたんですよ。今現在は「不倫している」、「していない」という風に大きな隔たりがあるけど、過去に遡って辿って行ったときに、すごーくうすーい角度の分かれ道で、小さな選択でそうなったんだなと感じたんです。例えばその人にとって不倫をすることはギリギリ許せないけど、今は一人になるのはちょっとキツイっすっていう、たったそれだけの小さな選択から、ぶわーーっとその先が広がっていった、みたいな感じが、僕にはすごくおもしろい。

単純にね、ギリギリだったり、なんの意識もなく、なにかの選択したとして、それが選択した時点では今後の人生にどれだけ左右する、なんて分かりっこないし、でも、それを眺められるのが物語だし、そういうモノを僕は見たいので。その人はどうなっていったんだ、っていうのを単純に観たいし観せたい。いつもより説明は省いてますね。人が何かした動機なんて,端からは分かりませんから。
シックなんです、今回の芝居は。すね毛生えてるけどシックなんですよ(笑)

キャスティングもすごくうまくいきました。女の相手役の小河原さんが、さっきの「結果大きく隔たることになる分かれ道」の、うすーい角度の分かれ道を作る役をやってるんですけど、「この人にしかこの雰囲気は出せないな、、」と思いました。特に何かの確信があるわけじゃなく、ある誠実さと、ある欲望をキープしていたら、そうなっていた。という感じはすごくでてましたね。

■ こないだ話を聞いたときは、不倫って「不 倫」、「つまり倫理はおよばん」的な話をしましたが、実際演じてみて、それに対する考えって変わりました?

なんなんでしょうね、是か非かってことは思ってないんですけど、やっぱり独特な面白さはすげーあるんだなと思いましたね。やっぱり社会からは隔離されて、二人だけの世界にいる訳だから。その、社会と隔離された、独特なルールだったり価値観だったり、逆に社会と交わることで生まれる面白さも。例えば会社の仲間や友達とかと一緒にいて、その中で他の人達は全然知らないけど、この二人は実はそんな関係を持っているみたいな時に、ホントに、二人だけの秘密みたいなことがプラスに働くことって絶対あるんじゃないかと思ったんです。コーフンしてたりすると思うんです絶対。それは演出をしていても、絶対面白いだろうなって思いましたね。その後二人で会う約束をしていたとしたら、とか考えると絶対面白いなって。後は、そのどちらかが心変わりしたときのリスクみたいなこともあるんですが、それはもう普通の恋愛と一緒だなって。完全に。

■ この創り方って次回からもやりますか?

「取材ありきで」ってのはやっていきたいですね。今回は取材した対象を自分が演じたわけじゃないですか。東京では菅原栄二君にもやってもらったんですけど。作っている段階で、結局、それを自分の話にしようとしているというか、人の話をね自分にすり替えたりしてるんですよ(笑)でも、今までは自分の話を他人に伝えるために、段々他人のモノにしていく、ってことをやってたので、これからそういうこともやっていかないとバランスが悪過ぎることな気がするときはありましたね。演じていてどう演じたらいいのかわからなくなって、辛いんですけど、自分じゃないからわっかんねーよ!とか思いながら(笑)それはそれで面白いことでもあったんです。
ただでさえ僕らは発信する側なのに、自分の話ばっかりやってると、あんまりこれを続けるのやばい気がするんですよ。オレオレになりすぎるというか、オレの話をみんなが聞きたがってるとか思っちゃうんじゃないかとかね。
そういう風になっていくのが、コワいですよ、やっぱり。人の体験を自分の身に落とし込むみたいなこともしてかないと、僕は人生にもブランクがあるので(笑)人として、そっちにも行っておかないとマズい気はするんですよ。被写体との距離感みたいなものがおかしくなるんで。だからこれはやっていこうと思いますね。

■ では改めて福岡公演への意気込みを。

何度かやらせてもらってるんですけど、福岡公演ではホントにアンケートの回答がすごい多いんですよ。福岡で一回公演をやる方が、東京、神奈川でやった時よりも多かったし、なんか、わかる!わかる!みたいは感想もたくさんもらったんです。人間の仕方なさに対しての寛容さも、僕は、東京より福岡の方がフィット感が高い感じがしているので、また観に来ていただきたいですね。

 

【西鉄ホール】
■ 2012 年 3 月 24 日(土)18:00、25 日(日)14:00

■ 作・演出/岩井秀人
■ 出演/上田遥、坂口辰平、永井若葉、平原テツ、吉田亮、岩井秀人(以上ハイバイ)
小河原康二(青年団)、猪股俊明
■ 料金/3,000円 当日 3,300円(全席自由 整理番号付)
〈チケットぴあ Pコード〉416-241 〈ローソンチケット Lコード〉83058
e+(イープラス)(パソコン・携帯)
※未就学児童入場不可

 

 

 

 

 

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