竹井亮介の人生ドリル vol.4

舞台をはじめTVやCM等でも活躍中の竹井亮介さんのコラム。本誌と併せてお楽しみください!


vol.4
その日は、夕方から雨の予報でした。私は念のため、折りたたみ傘をカバンに入れ、稽古場に向かいました。5月に出演した舞台「+GOLD FISH」の稽古期間中のことです。

稽古をしていると、雲行きはどんどん怪しくなり、気付けば窓の外は濡れる景色に変わっていました。稽古が終わった頃には、完全な土砂降り。早く帰ろう!折りたたみ傘という心強い味方と共に!

そこへ、共演者の大村わたる氏が現れます。たまたま帰るタイミングが一緒になった彼は、傘を持っていないようでした。それならふたりで傘に入ればいいと思い、しのばせていた折りたたみ傘を、誇らしげに取り出そうしていたその時です。同じく共演者の高柳明音氏もやって来ました。聞けば、やはり傘は持ってこなかったとのこと。高柳氏は女優さんであり、SKE48のメンバーという現役アイドル。彼女を雨に濡らすわけにはいきません。でも、今ここには3人いるわけです。アイドル高柳、若めのおじさん大村、そして太ったアラフィフ竹井。できることなら3人全員で傘に収まればいいのですが、小さな折りたたみ傘では到底無理。

ここで、私の中の悪魔が囁きます。「おい竹井。現役アイドルとの相合傘チャンスじゃないか。大村をなんとかしちゃえよ」と。彼をどうする?なんとか言いくるめてトイレに向かわせようか、忘れ物があるんじゃないかと稽古場に戻そうか、はたまた、稽古場から君を呼ぶ声が聞こえるよって嘘をついてしまおうか。

大村氏には申し訳ないが、そりゃそうでしょ!アイドルとして名古屋と東京を行き来しながら活動している高柳氏。風邪を引かせてしまったら、アウト!そんな彼女と、傘の持ち主である私が濡れずに帰るのが当然の流れ!空気を読んで、大村氏がどこかに行ってくれたらいいのに!
そんなよからぬ、まるで今日の空模様のような私の頭の中を、一瞬で晴れ渡らせてしまうような爽やかな声が響きます。「私走って行っちゃおっかな!お疲れさまでした〜!」と。雨の中へ駆け出す高柳氏。「あーっ!待ってー!相合傘で!俺と相合傘でー!」心の中でいくら叫ぼうと、彼女に届くはずもなく。

結局、30代と40代のおじさんふたり、小さな傘でランデブー。そもそも大村氏を入れてあげるつもりだったので、元の鞘に収まったといえばそうなのですが、何やってんだ俺は!というやり場のない気持ちがふつふつと湧き上がってきたのは言うまでもありません。
そして、高柳氏に傘を貸しておじさんふたり濡れて帰るというのが正解だと気づいたのは、帰宅した後でした。
あぁ、人生って難しいですね…。

●たけい りょうすけ/早稲田大学在学中は、劇団「木霊」で活動。卒業後は様々な舞台を経験し、1999年、コントユニット親族代表を結成。ぽっちゃりとした見ためを活かした朗らかなキャラクターを演じると、場を和ませ、画面が一気にあたたか味を帯びる。その安定感は、各方面の監督からも信頼が厚い。ニュースタイルアニメ「ビジネスフィッシュ」TOKYO MX、BS11、Hulu(蛸山八男 役) http://businessfish.jp/

◎シアタービューフクオカvol.79掲載(2019.6発行)

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