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ベストセラー小説が映画化!小説家であり映画プロデューサーである川村元気に、最新刊のビジネス書『仕事。』小説2作目『億男』についてインタビュー。

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小説家、映画プロデューサーなど様々な顔をもつ川村元気。
今彼が思う、小説のこと、映画のこと、そしてもの作りのこと。

デビュー作『世界から猫が消えたなら』は、2013年本屋大賞にノミネートされ、70万部を超え大ベストセラー小説。さらに佐藤健、宮崎あおい出演で映画化も決定した川村元気氏。今回は9月には宮崎駿や坂本龍一ら日本国内外で活躍する12人と対談した『仕事。』、10月には自身の小説2作目となる、「お金をめぐる冒険小説」、『億男(おくおとこ)』をリリース。が、実は彼の本業は、映画プロデューサーなのだ。映画の仕事を“実家”とし、小説家の仕事を“ひとり暮らし”なのだと語る。本業なくしては、小説家としての彼は生まれなかったのかも知れない。そんな川村元気の“今”、実家と一人暮らしをどう行き来しているのか?話を聞いてみた。

■本業である映画の仕事と小説家の仕事、どんなスタンスで取り組んでいますか?

映画は「実家」だと思っているんです。もちろん実家は自分で勝手に変えられない。好きも嫌いも含めて実家ですよね。もちろん大好きな実家ですよ。僕の住んでいる実家には、幸いなことに小説もあるし、アートもあるし音楽もある。本棚に素晴らしい本がたくさん揃っていますが、ずっと実家暮らしをしているとたまに一人暮らしをしたくなることもあるじゃないですか。その感覚で「小説」を書いたりしているというのが、今のスタンスですね。反対に、一人暮らしをしてみると実家の良さを知ったりもする。小説を書いてみることで、映画の良さを改めて知ったり、映画には小説で表現できないこともある。そこを行ったり来たりしながら色んな体験をさせてもらっているという感じです。人間って予想できないものに笑ったり泣いたりする生きものなんです。だから自分自身でも、できるだけ予想できないことを仕事でもやっていきたいという気持ちはありますね。映画を続けるためにも小説を書かせてもらったり、対談をやらせていただいたりして、新しい映画の良さを発見できたらなと思っています。

■まずは『仕事。』のことから。対談者はどうやって決められましたか?

基本的には僕が対談したい方を編集部の方にお伝えして、編集部の方や僕の繋がりからも含めてお願いしていきました。通常ならこの12人(山田洋次・沢木耕太郎・杉本博司・倉本聰・秋元康・宮崎駿・糸井重里・篠山紀信・谷川俊太郎・鈴木敏夫・横尾忠則・坂本龍一)の方々が35歳の若僧と話をすることもあり得ないですよね(笑)でも僕が今、日本で仕事をしていて感じる閉塞感のようなものを、お話を伺った60代、70代の方々もきっと下の世代を見ながら、感じていらっしゃると思うので、そこに対して、何か形に残るものをやりたいということがあったというのも理由のひとつです。そして、今の話ではなく、みなさんの若い頃、僕と同じ歳の頃の話を聞きたいのです、ということに対して、主旨を汲み取っていただけたのだと思います。だから説教臭くなく、成功した話だけでなく、失敗談も含めて、お話しいただけたのだと思っています。

■すごい方ばかりですね。

今思えば、若気の至りというか、失礼なことも言っていますし……。でもこの対談をさせていただいて感じたことは、やはり思った通りになること、自分で見えている道なんて大して面白くないということ。確かに自分でわかって選んでいることは、安全かもしれませんが、面白くはないですよね。その“安全”だというチョイスはゆるやかに、その人を良くない方向へ進ませたりもする。そういうことは教わりました。どうしても僕は世代的にか、僕の性格かはわからないですけど、できるだけ失敗したくないとか、近道を行きたいと思う気持ちが強い。実際、今の時代は昔ほどお気楽ではないので、一回の失敗を大らかに許してくれる時代だとは思ってはいないですが、そこから逃げるだけでも、ゆるやかな挫折は待っている。逆に言うとその方が泥沼なんじゃないかと思ったりもさせられました。

 

■新刊『億男(おくおとこ)』について

僕にとって、苦手意識が強いもののひとつとして「死」というものがありました。なので、その苦手なものをきちんと考えてみようと思って書いたのが、デビュー作『世界から猫が消えたなら』でした。そして、もうひとつ苦手なことがあって、それがお金だったんです。毎日触っていて馴染んでいるはずのものなのに、僕自身、お金の話題をする人が嫌いだったし、あってもなくてもお金で人生が破壊されていく人も見たし、なるべく遠ざけて生きていこうと思っていたのですが、そうもいかないよなとも思っていて。だったら思い切って、書くという行為の中でクエストしながらお金の正体を見つけていく作業を小説という形でやりたいと。僕は日常の違和感探し、というのを(例えば赤いポストの上に、ずっとぬぐるみが置いてある。みんなそれに気づいていて、気になっているんだけど何もしない。それを一番に手に取って、誰のですか?って聞くなり、交番に持っていくなりをしたいんです)よくしますが、そういうことがとにかく気になる人間で、僕の言った「死」の話とか「お金」の話とか、ポストの上の人形とか、みんながどこかで持ってる感覚だと思っているんです。僕はなるべくそれを物語という形にして伝えたいなと。だからこそ、自分が持っている感覚が、スペシャルなものなのか、みんなが思っているものなのか、ということは気にしますね。で、きっとぼくと同じことを100万人なり、1000万人なりが思っているのだと思えたら、始めますね。それが外れるとコケてしまいますけどね(笑)

■映画や小説のモチーフの見つけ方は?

僕はスペシャルなことを考えつく人間ではないんだと思います。ただ僕は思いつく、というよりも気づく、ということなのかなと思っていますけどね。もし自分の能力があるのだとしたら。みんな思っているけど口に出していないだけなんじゃないのかな?ということに気づくんだと思います。

 ■みんなが思っているだろう、ということを発見した!というはどういう時ですか?

僕自身もそうですが、意外に自分の事を自分が一番わかってなかったりすると思うんです。だからどこかで、絶えず自分を相対化して見るようにしていますね。小説を書くことで映画の良さに気付けたりします。同じように、生を見つめるには、死のことを考えるのが一番いい。お金のことを考えるなら、僕たちは市井のお金のことは知っているけど、大金持ちのお金の世界は知らないわけだから、じゃあとてつもなくお金があったら世界はどう変わるのか?と考えた方が市井のお金の感覚というのが見えてくる。割と僕自身は、相対化するとか、もしくは有るものが無くなったら、という考え方からその存在を確認したいというのが強いんだと思います。たまたまこういう越境の仕方をしている人が、ストーリーというものを作っている人の中に少ないので、ちょっと変な位置に僕は今いるんだと思うんですけどね。

■原作を探すことも、川村さんの仕事のひとつだし、原作を書くことも、仕事のひとつですよね?バランスがとれているようで取れていないようにもみえますが……

どうでしょうね。例えば『仕事。』でお会いした12人の人って、例えば横尾忠則さんって、グラフィックデザイナーなわけですよね。だけど画家もやって俳優もやって、小説も書いて。それだけやっているからこそ、作り続けて来られた、ということもある。それって難しいですよね。必ずしも全部が主体的であることが美しいのかといったら、俳優って実は主体的ではない。演出家とか脚本の中でやる行為じゃないですか。坂本龍一さんもお芝居をやりましたよね?坂本さんはYMOでは主体的だったんだけど、映画においては監督のもとで、音楽を作るわけですよね。だから、必ずしも主体的にものを作らなければならないという風には考えていないんです。なので人の原作で映画を作るという行為が価値が低いかというとそうではなく等価値だと思っているんです。逆に自分が主体的に書いた小説を映画化した場合に、原作者の自分が偉いかというと全然そんなことはない。映画という創作物においては、原作者も脚本家も監督も俳優もイーブンだと思うんです。横尾さんも坂本さんも、様々なクリエイターと交わりながらものを作り続けていくことでとてつもない高みまで到達した。だからこそ、自分だけが絶えずオリジナリティーがあるとか、絶えず自分主体のものづくりでないとダメだとか思っている人はきっと終っちゃうと思います。人は上手く出来てるなと思いますよ。どこかで頼ったりとか、頼られたりしながらできているんだなと。だから僕は、映画作ったり小説を書いたりして、なるべく多くの人と関わりながらものづくりをしているのだと思います。

 

 

『仕事。』(川村元気著/集英社)定価:本体1400円+税
『億男』(川村元気著/マガジンハウス)定価:本体1400円+税

【川村元気プロフィール】

1979年、横浜生まれ。映画プロデューサーとして『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』などを製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。2012年には、ルイ・ヴィトン・プレゼンツのCGムービー『LOUIS VUITTON -BEYOND-』のクリエイティブ・ディレクターを務める。同年に初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、70万部突破の大ベストセラーとなり、佐藤健、宮崎あおい出演での映画化が決定した。2013年にはアートディレクター佐野研二郎と共著の絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでのアニメ化が決定している。その他の著書として、イラストレーター益子悠紀と共著の絵本『ムーム』、宮崎駿や坂本龍一など12人に聞いた仕事の対話集『仕事。』、BRUTUS誌に連載された小説第二作『億男』がある。

 

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