コラム・岩井の好きな映画 vol.42「SING/シング」
シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!
ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.42 「SING/シング」
「シング」を観に行ったでよ。我が娘、我が妻と共に。
「ファインディング・ニモ」でも、海でニモが迷子になるシーンで不安になり、「テレビ消してー!」と叫んでいた我が娘なので、僕が好きなような「人間の隠された恐ろしさ」的なモノは当然ムリなので、ポスターで可愛く動物たちが並んでいる様子だけを見て「これなら当たり障りなくて、いい感じにきっと歌も流れるからいいよね。」と「シング」にしたのでした。なめていました。一番泣いたの僕でした。
あらすじなどはネタバレになっちゃうだろうから省きますけど、主人公のコアラは洗車業を営んでいた父の財産でもって自分の仕事をし、盛大にコケます。そして仕方なく一度夢を諦め、父のやっていた洗車業を自分もやるわけですが、そこでの描写でやられました。どういう描写かは見てもらえればと思うんですけど、胸をザックリえぐられましたわ。他のお客さんたちは笑ってたし、僕も一瞬笑ったんですけど、その描写は「いや、そんな車の洗い方、ありえねーだろ!」とも取れるんですけど、アメリカの多人種な感じがこの映画の中でシマウマ、サル、コアラ達が共存している、って描き写されているとすると、このコアラの車の荒い方は、ものすごく社会的に底辺というか、どうやっても逃げられない経済格差みたいなものまで描かれておったのです。
以前ここにも書いた「インサイド・ヘッド」もそうなんだけど、「子供向け」と思われる様な作品に、恐ろしいほどの奥深さと真理が描かれていて、アメリカの脚本の質って本当に高い。スゲーっすわ。よく聞くのは、脚本もチームで書いているってことなんだけど、それだって相当なコミュ力がないとだめで、日本だとなかなか難しいんですよね。もちろんアニメとか連ドラとか、脚本をチームで書く事ってあるんだけど、全話を通して仕切る「シリーズ構成」っていうリーダー的な立場の人がいて、その下に、そのリーダーの意思通りに書く脚本家がいる、といういわゆるトップダウン形式。あまりフィフティーの関係でディスカッションをする、という感じではない訳です。
僕の浅い経験の上だけで言いますけど、アニメはアニメを、ドラマはドラマを、自らマネしちゃうんですよね。特にプロデューサーって立場の人がそれをやっちゃうから結局「見た事があるつまらないもの」が大量に出来上がってきちゃうんです。本来はドラマは別にドラマをマネする必要なんかなくて、「人間」を描けば良いはずなのにね。でもそれが分からなくてただ「テレビが好き!」で仕事を始めちゃって、過去に見たものに近いものができたら安心する様なヤカラが多過ぎて困る訳です。
「シング」も「インサイド・ヘッド」も、「アニメ」ではあるけど、別にそうカテゴライズする必要もないくらい人間のことが描かれていて、すんげー感心させられます。是非見てね。
●いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。
◎シアタービューフクオカ vol.66掲載(2017.4発行)