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北九州芸術劇場がプロデュースする「ハコブネ」の稽古場へちょっとお邪魔してきました。前作の「風街」の時も稽古場へ見学に行ったのだけれど・・・。何かが違う。立ち稽古をしている役者もいれば、改訂された台本を読み込んでいるものもいる。稽古場の外で作業をする役者もいる。一風変わった稽古場の風景だった。
作・演出の松井さんは、ものすごくフランクに「このシーンは、こんな風にしたいんだけど、どうがいいかな?」と言いながら立ち上がり、役者たちに混ざって「そりゃ、ないよ」などと言って笑っている。役者たちから出たアイディアをひとつずつ検証しながら、そこから派生した松井さんのアイディアをプラスしてシーンを作り上げているようだ。私がこれまで見てきた稽古場って、演出家が役者に対して、文字通り演出をつけている姿が多く見られていたのだけど、不思議な空気感がそこに出来上がっていた。
役者たちは、それぞれに自分がやるべき作業をしているのだけど、稽古場全体に一体感、というか、みんなが同じ方向を向いて芝居を“作っている”姿があった。稽古の進捗状況を言えば、スローテンポなようにも感じるのだけど、松井さんには焦った様子もない。というよりそれを楽しんでいるように見えた。本番までまだ大分あるというのに、安定感すら見えるのは何故だろう?
私の頭の中には「?」がぐるぐる回っている。なので、食事休憩の合間に、松井さんにその真意を確かめてみることにした。

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松井周(作・演出/サンプル主宰)

■お稽古を拝見させていただいて、すごく不思議な感じだったんですよ。最初から地元の役者さんたちの声を聞きながら作っていくとは言われていましたが、どうしてそういう手法をとろうと思ったんですか?

色々考えたんですけど、地元の役者さんたちと一緒に作品を作るということと、この地方の物語を作るということは決まっていたので、それを僕が取材して考えても多分そんなに大したものは出来ないなと思っていたんですよ。じゃあ、俳優がこの町で暮らしているということ、この町での仕事や俳優自身のエピソードを借りてそのまま題材にしてみようと思ったんです。

■試しながら稽古をやっているというか、俳優と一緒に作っている感じが、珍しいなと思いつつ、もしかしたら松井さんは普段からそういう作り方をされているのかな、と思ったんです。

普段よりは完全に「どうする?」って聞いちゃってますね(笑)自分にはネタが無いっていうのを先に言っちゃおうと。ただ、こういうイメージなんです、っていうのはちゃんと言いますけどね。

■稽古が始まって時間も経っているので、俳優さんたちが発言もしやすくなっているんじゃないかとは感じましたけど、意外とダイレクトに「どうする?」って聞いちゃうんだと思ってびっくりしたんです(笑)
今回の作品のあらすじってどんなですか?台本を少し読ませていただいて、オムニバスのような感じなのかな?と感じたんですけど。

何かひとつの大きなアトラクションを劇場という空間でやっている感じです。元々は実際に何かを生産する工場であったり、その工場で使われていた道具であったり、労働者の働き方とか、そういったもの次々と見せていく。そこに出てくる人々は実際の人間なのか、ホログラフィーなのかわからない。そういうアトラクション的な物の中に観客は参加しているというか見せられているというのが、コンセプトとしてあるんです。ちょっと博物館的な作りになっているんです。

■時代設定は、現代なんですか?

一応、現在ですね。だけど、逆に今現在が過去として想定されているという感覚でもあるんです。未来から見ると、今現在は過去になるし。大きな設定を言えば、大きなアトラクションの最初から終わりまで、という感じですね。

■これまでに、まったく縁のない土地で、ゼロから作品づくりを始められた訳ですけど、それって初めてのことですよね?やってみていかがですか?

すごい刺激的ですね。自分でも挑戦しているというか、どちらかというと僕は台本をかなり自分の妄想で書いていくタイプなんです。もちろん俳優がその作品をどう料理するのかな、というのは考えますけど、ここまで自分の妄想よりも俳優が出してくるものを利用して書いている台本はないし、どちらかと言うと、これまでに比べて穴ぼこだらけ、という感じなんですよね(笑)その穴ぼこをどうやって俳優が楽しんで遊べるかっていうことが大事になってくる。その穴ぼこが埋まってきたとか、山になってきたとか、その面白さを別のところに持って行くためには、また別の所に穴を掘ってみようとか。かなり継ぎ接ぎのように作品を作っている感じがしているんですが、その継ぎ接ぎの感じが今、すごくいいというか、熟成されているような手応えもあるんです。もちろんたくさん切り捨てていることもあるんですけど、その中で残ってきているものはかなり面白いものになっていると思いますね。

■サンプルのお芝居とは全く違っているな、と思って拝見していたんですよ。ここまで変えてしまうんだというのが、一番驚いた部分でもあったんです。

全く変えたかったという意識もあるんですけどね。変えるというか、挑戦するからには先が見える状態で作るよりは先が見えない状態で作りたかったんです。これまで僕がサンプルでやってきた方法と近いことでもありますね。稽古場で出てきたものとか空間を利用したり、俳優が持ってきたものを利用して稽古をしていたので、そういう稽古のスタイルのスキルは少しは自分の中に持っているんです。だからこそ、今回は台本を決め決めでやらないで、何とかなるだろうって思いながら始めたら・・・何とかなってるんですね(笑)

■同じようなことを東京でやると意味合いが全然違ってくると思うんですね。それを北九州でやるというのは、松井さんにとってはどういう意味がありますか?

多分全然違うでしょうね。東京だと構えてしまったり、こんなにじっくり作品を作る時間もないかもしれません。でも僕の考え方は基本的に変わりません。演劇の作られ方というのは多分、色んな試行錯誤があったと思うんです。即興がいいとか、いや一人の妄想が結局は強いんだとか。色んな試行錯誤がある中で、僕は自分の妄想もつぎ込むんですけど、それプラス、俳優がどのネタで、どの根拠で動いているのか分からない方がおもしろいなと思うんです。
俳優はその舞台に立つときに、そのシーンでの行動が根拠を持たないといけないと思うんですよ。それが台詞から持ってきたのか、その空間の環境から持ってきたのか、つまり音とか自分自身のコンディションとか自分自身の昔の記憶から持ってきているのか。それがぐちゃぐちゃに混じっているの方が好きなんです。
今回は、自分の妄想で作品を作るというこれまで自分がやってきた方法を、少し減らしてみようと思ったんですよ。もちろん自分が戯曲を書く時に、今起きていることを利用したりとか、自分自身の妄想という物も入れるんですけど、この作品では、それを凌駕するような、空間性とか身体性みたいなものと、格闘したいんです。その集合知に身をまかせた方が意外といいものが出てくるし、それが自分の妄想にも跳ね返って来ている感じはありますね。

■それが今、北九州で出来つつある感じなんですね。

そうですね。でも、それは僕にとってであって、北九州にとってそれがどうなのかは、まだわかんないですね。というかあんまりそこは考えてはいないですね。

■北九州にとってというよりは、俳優さんがそういう芝居の作り方をしたことがないんじゃないかと思うんですよね。だからかわかんないですけど、チームワークのようなものが稽古をみていて感じたので、すごいなと思いました。

あ〜、それはありますね。僕以外で今回サンプルから来ている古舘寛治という俳優が、僕の稽古の前に色んなワークショップをやっているんです。人と会話を交わす時にどうするとか、自分が昨日帰ってから5分以内にやった行動を稽古場で新鮮に再現する、というような稽古をみんなが見たりやったりしてるんですね。
自分たちが何をおもしろいと思えば、この作品に貢献できるのかとか、どういうものがダメなのかというジャッジを自然に出来はじめています。つまり僕と一緒に芝居を作っていたサンプルの俳優である古舘さんと意識を共有することで、少しずつみんなが統一されてきているんです。それは窮屈な統一じゃなくて、すごく自由であるということを、理解してきているという感じはあると思います。

■稽古を見ていて、役者さんたちの見ている画が同じだなって感じたんですよ。役者と松井さんがこうしたいねっていう、イメージみたいなものが近似値なんだなと。

それはすごいうれしいですね。それはそうしたかったし、そうなってきたからか僕自身は少し楽になってきました。

■それって最近ですか?

いや、もうここんとこずっとそうですね。最初の2週間くらいはどう作っていくんだろうって感じはみんなにあったと思うんですけど。あと今回、芝居づくりというよりも集団づくりというのもあって、ブログをやってたり、ツイッターを始めたりとか、カタログっていうのを作っていたりするんです。それぞれ係を決めてね。この作品をどう宣伝していくかとか、芝居で本編以外に二次創作的にカタログを作ったりしているので、色んな仕事があって、全体で動いている感じはあるんですね。だからその部分も含めて、自分たちがこれをどういう形で作品を提出していくか、宣伝も含め制作的なことも含めて、全部じゃないですけど、みんなが芝居以外のこの作品についてのことを意識していると思うんです。そのことに自覚的だということが俳優の自発的な発言にも繋がってるのかなと思うんですけどね。

■福岡・北九州の役者さんたちといっしょにやってみられていかがですか?

ホントに思っていた以上で、ちょっとびっくりしているんですよ。オーディションをした時点のでは、実は不安な要素もたくさんあったんですけど。演劇っていうのはこういう形です、というか、こういうふうなものがいいとされるものです、というような見せ方をしてくる俳優さんもたくさんいて、でもその中でも、白紙に戻れる人を選んだんです。もちろん他にもよかった方もたくさんいらっしゃって、ただキャスティングで違ったっていう人もいるんですけど、やっぱり今までやってきた演劇のやりかたっていうのは、台詞を読んだときにでてくるというのがあるので。

■そうなんですか!?

そうなんですよ(笑)フリーでしゃべってもらっているときはいいんですけど、台詞に戻った時に自分の演劇のやり方に戻っちゃうんですよ。それは台詞を根拠にしようとしている、台詞をはっきり言わなきゃいけないとか、台詞のために身体を動かさなきゃいけないとか、つまり台本至上主義みたいなのがあって、それを崩すのが大変だったんですけど、でも今はそんなに崩さないで欲しいっていう所まで崩しちゃうんですよ(笑)逆にそれを修正していくっていうのもあるんですけど。みんな活き活きとしていて、それは僕としては一番俳優に求めているものなんです。そういう生々しさは。でもやっぱり必要なのは、それを台詞として定着させた時にも、その生々しさを何度も再現できないと芝居は成立しないので、だからどれだけ自分で脱線させながらも同じ言葉を言えるか。そこは空間のちょっとしたことを餌にして、新鮮さを作っていくんです。それが出来てきているのでいいんじゃないかと思います。ただ心配なのは、本番になったら緊張で、すごい変なとこまで戻っちゃうというか。緊張ってホント怖いんですよ(笑)今はリラックスして稽古場の雰囲気の中で出来ているんですけどね。お客さんの前に出たときに、台詞キレイに言った方がいいんじゃないかとか思ってしまって、変な方向へ流れてしまった時に、怖いんですけどね(笑)

■今の状態で板の上に上がることがベストなんですよね。

そうなんですよ。そしたら、今までみたことないし、自分たちもやったことのないものが、今できつつあるので、それがやっぱりうれしいですしね。いやだから今のコンディションはすごいと思いましたね。
自分でも予想していないものができそうな感じはありますね。不安もありますけどね(笑)

※注・古舘寛治さんの「舘」の字は旧字体の「舎官」です。

 

 

【北九州芸術劇場・小劇場】
北九州芸術劇場プロデュース 「ハコブネ」

■公演日/2月23日(火)19:00、24日(水)19:00*、25日(木)14:00☆・19:00、26日(金)19:00、27日(土)13:00・18:00*、28日(日)13:00
☆=平日昼ちょい得料金・各500円割引
*=アフタートーク有
■作・演出/松井周(サンプル)
■出演/今村妙子、加賀田浩二(飛ぶ劇場)、木村健二(飛ぶ劇場)、古賀陽子(のこされ劇場≡)、篠原美貴(のこされ劇場≡)、白石萌(下関市立大学演劇部)、上瀧征宏、高野桂子(village80%)、田口美穂、田中克美、谷村純一、寺田剛史(飛ぶ劇場)、中嶋さと(劇団爆走蝸牛)、波田尚志(劇団夜劇)、藤尾加代子(飛ぶ劇場)、細木直子(劇団びっくり箱)、宮脇にじ
/古舘寛治(サンプル、青年団) 古屋隆太(サンプル、青年団)
■料金/3,000円   学生2,500円(小〜大学生・要学生証提示)
 ※当日は各500円増 (日時指定・全席自由)
〈電子チケットぴあ Pコード〉398-122 ★Pコードクリックでチケット購入できます
〈ローソンチケット Lコード〉84929
 北九州芸術劇場プレイガイド(店頭販売のみ)
 ※未就学児童のご入場はお断り致します。