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左・栗山民也氏/右・古河耕史氏

2月24日に大野城まどかぴあでの公演を控えた新国立劇場演劇研修所 第1回修了公演「リハーサルルーム」。日本初の国立俳優養成機関として2005年に設立された演劇研修所が、初めての修了生を世に送りだすための最初の公演となる。新国立劇場の前芸術監督であり、所長を務める栗山民也氏と地元福岡出身で、第一期修了生の古河耕史氏に今回の公演や俳優養成所についてお話を伺いました。

■まず、新国立劇場演劇研修所について教えてください。

栗山
東京芸大ってありますよね。よく演劇を始めたころの人と話すと、なんで芸大に演劇科がないのっていう話になるんですが、実は東京芸大というのは明治時代に出来ているんですよ。芸術師範学校みたいな感じでね。それはどうして作られたかというと、音楽は軍楽隊を育てるため、美術科は地図を作るため、つまり戦争のために芸術あるいは音楽一般が利用されたわけです。だから、そんなとこで俳優を育てても、一番弱い兵隊ですよ、俳優なんて(笑)それから大正になった時に、俳優養成禁止令というのが出たんです。つまり思想と一体化されたっていう歴史がずっとあって。だから日本の場合は、ある意味で芸術全般がアンダーグラウンドなわけですよ。そういう歴史の中から、国が俳優を育てるなんてもってのほかだというようなモットーがあったんです。しかし10年前に新国立劇場が出来た時、演劇部門をどうするかって話があって、それは実は大変な問題でした。一方では国立で現代演劇の劇場を作るのはいかがなものか、という考え方もあったんです。でも世間の常識からいえば演劇の方がオペラやバレエよりも市民権を得ているわけでしょ。そうすると当然作るしかない。そういう経緯の中で、国が認めて演劇部門のある劇場が初めて成立したんです。しかし日本の場合、多分に箱を作った時点ですべての機能が停止しちゃうんですよ。だけど絶対にそうであってはいけないんです。ルソーの言葉に「一本の杭を立てよ。そこに人が集まればそこは劇場になる」って言葉があるんです。
それは劇場の箱がまず用意されるのではなくて、人が集まることによって、劇場というのは創り上げられるということなんですよね。たとえば、この大野城まどかぴあの正面の広場が「劇場」だってこともあり得るわけなんですよ。そのためには、価値変換をしないとちょっとダメでね。僕が芸術監督になった時に、箱が出来たのならば、そこには人材育成も必要だと話をしたんです。だから人から人へ何をリレーしていくのかっていうシステムをゼロから作らなくてはならないっていうのが、僕の一番の仕事だと思ったんですね。
新国立でいろんなソフトを作るのは芸術監督の当然の仕事なんだけど、それ以上に、僕らが死んだ後にどの世代に渡していくのかっていう、そのシステムさえ作れば、色んな新しい人たちがそこを歩んでいける。

ヨーロッパなんかは、新しいひとつの才能が生まれた時、もの凄く大事にしますよね。日本はすごく大事にしないでしょ。暴いて突き落とすでしょ(笑)社会全体が落ちこぼれを生む社会になってきているんですよ。それしか刺激がなくなってしまっている。だけど舞台の仕事っていうのはそんなにたやすくはできないわけで。俳優の仕事も演劇の仕事も、ある時間の中で自分を見つけるという作業が必要なことですからね。だからそういうことを考えなくてはいけないし、色んな体験をしなくてはいけない。新国立劇場の演劇研修所は、その為の時間を確保できるシステムですね。それを15人で3年間ということなんですが。これくらいの人数が限度かなと思いますね。それもヨーロッパのシステムや色んな中から割り出して、やっと出来たわけです。ほんとにやっとですよ。

■ではその3年間の間も、色んな新しいやり方を取り入れながらやっていらっしゃったんですか?それともある程度のシステムに新しいものを追加していったんですか?

栗山
そうですね。初めは理想的なカリキュラムっていうのを基本にして、そこから出発しているんですけど。これがね、ロンドンのそういう機関で、今、一番新しいあるいは一番適したメソッドって何ですか?って聞くと、風のようにメソッドは変わるんだと。それが私たちのメソッドです、という答え方を必ずロンドンの人はしますね。だから私はスタニフラフスキーをやりますとか、それに則ってやっています、などと言う人は誰もいないですよ。その代わり、自分の体内の中に色んなメソッドが棲んでるんですよね。それは、何年間かの間に色んなことを学んでいるからなんです。その中から、じゃあ自分はどうなんだっていうのを見せるのがプロの俳優だっていうことですよね。それは見事ですよね。それに、絶対新しい作品と出会った時につまずくことはありますよね。その時に昔学んだ“あ、あの方法が役に立つかな”と思って、それを記憶から引き戻して使ってみて、うーん、違うっていって、そしたらまた他のものを出してきてね。でもそんなことは今の日本の俳優には無いですよね(笑)ちょっと有名になると自分はこれだ、と思って保守になっちゃうわけでしょ。向こうの俳優なんかはね、役作りのために歯を抜くとか、髪の毛を抜くとか、それくらい一本の作品に運命を、自分の生涯を賭けるわけですよ。もう次の作品のことなんか考えてない。
日本の俳優もそんなふうに考えられるように、これからもっと理想的なカリキュラムを見つけていかなくちゃならないんだけども、少なくとも俳優には芝居の基礎を体内に植え込む時間が必要なんです。そのためにはどういう機関があるのか、それをひとつでも作っておけば、もう少し日本が文化的に豊かになっていけば、ひとつじゃ間に合わないよ、じゃあ3つ作ろう、5つ作ろうってなって、全国に広がっていくっていう。そういう場所になれることが理想ですね。

■古河さんは、その研修所に40倍の難関を突破して入られて3年間勉強をされたわけですが、どんな勉強をされたんですか?元々は俳優をされていたんですか?

古河
元々は大学を出て、文学座の養成所に一年間在籍して、この研修所ができたので、こちらに入れていただいたんです。研修所では舞台に立つために必要な“種”をもらうような感じかな(笑)例えば、ピエロがずっと舞台上でずっと面白いピエロでいられるためには、実はこんな秘密の種を持っているんだよとか、舞台上で常に相手役といられるためには、実はこんな種があるんだよ、とかそういうようなことを勉強させてもらったんですよ。まあこれは例えですけど。

■前例のない所で学んでいくわけですから、その新しいシステムの中で不安に思うことや戸惑ったようなことはありましたか?

古河
いやー。それはしょっちゅうでしたね(笑)先生でありコーディネイトしてくれる事務局の人に対する意見は始終ありましたね(笑)でも段々わかってきたのは、僕たちが不満を言うということは同じように僕らもそう言われるということだし、それって舞台を作り上げていくのにとても似ているな、と感じましたね。そういうのって一期生の特典のような気もします。僕たちがこの研修所を作っていく行程というのは、芝居を作り上げていく行程にすごく似ているな、と感じていますね。

■それは素晴らしい体験ですよね。ところで、その研修所での3年間という期間は、芝居の基礎を学んでいく上で、短かったですか?長かったですか?

古河
いや〜。出来ることならずっと学んでいたいですけど、でも逆にずっとお客さんの前に出ていたいんです。だから、これまでの3年間がどうだったかというのは、これからお客さんの前で芝居をしてからじゃないとわからないんじゃないかなと思っています。

■今回の修了公演の演目についてお伺いしたいんですが。

栗山
まあ一期生という事もありますし、海外戯曲あるいは日本の古い作品の中に15人がうまく配分された戯曲って無いんですよね。そこに無理矢理はめ込んでやるっていうのは、ちょっと生徒にもかわいそうだなと思って、15人をキャラクターとした新作を書いていただいて、書き下ろしでいこうと思ったんですね。じゃあ何をやるかって事になった時に、やっぱり稽古場っていうものが僕たちの核だと思ったんです。ここから全てが生まれていくんですね。それで何となく何にもないところで、つまり装置で見せるわけではなく、音楽をガンガンかけて何かやるわけでもないし、もう俳優の声と身体性だけで作れる芝居が成立する場所ってどこかなって考えた時に、やっぱりそれは稽古場だったんです。じゃあ場所を稽古場に持っていこうと。そこに色んな人が入ってきて、色んなことをやってね。ストーリーは劇作家が考えるわけですけどね(笑)そういうものを書いて欲しいとリクエストしたんです。で、タイトルも「リハーサルルーム」っていうふうになったわけなんですけど。

■そこで栗山さんが演出をされるそうですけど、何か考えていらっしゃることはありますか?

栗山
特に研修所の公演だからっていう気持ちは僕の中には全然無いですね。毎月やっている普通の公演と同じようなスタンスでやるつもりです。そして修了公演というけれど、なにが修了なんだろうか?というのが僕の中にはいつもあって、よくあるでしょ、卒業公演とか。そういうのって観るたびに、なんだ?この人たちは俳優を卒業するのか?って思っちゃうんですよ(笑)まあ、それは学校のシステムなんですけど、すごくそぐわない感じがしてね。だって彼らにとってはデビューなわけでしょ。そうすると修了する時に行う公演はデビュー公演だと思うんですよ。そういう意味合いも含めての演出をしようかなと考えていますね。だからホントに僕が毎月やっている芝居の稽古場と同じ段取りでこの公演の稽古もやろうと思っています。基本的には初日に向けてお芝居がどのように作られていくかという流れに参加させようと思っていますので、修了公演だからってワークショップみたいなことをやったりは一切しないつもりですね。

■そうですね、そういう場にこれからどんどん出ていかれるわけですからまさにデビュー作ですね。

栗山
一期生の修了公演だから頑張らなくちゃいけないという考えはとてもおかしいことで、どこの集団だって公演のために命賭けてやっているわけでしょ。それと同じ事なんだっていうみたいなことはわかって欲しいし、それを学んで欲しいですね。

■そのデビュー公演が、一期生の方の礎になる公演となるわけですが、古河さん今の心境はいかがですか?

古河
いや、死ぬ気でがんばります!この公演でデビューさせてもらえるわけですけど、この公演を観てくださった方に、お前を使いたいっていってもらいたいですし、でも一本やるからにはそこで死んでも後悔しないようにしたいです。今できる全てを出し切ってやりたいですね。

■これからはどんな役者さんになっていきたいと思われますか?

古河
いつ死んでも悔いのないような役者になりたいですね(笑)あとは、ご飯が食べられれば・・・(笑)

■古河さんは福岡のご出身なんですよね。つまり凱旋公演ということですね。

古河
はい。うちの母親が楽しみにしてるんですよ(笑)

■どんな心境ですか?

古河
すごく楽しみですね。地元に帰ってくると、どこか変なところで気持ちが緩んだりとか不思議な感覚や帰ってきたなっていう感覚があるんです。だから僕は福岡に帰ってきた上に、芝居をやるとどういう感じがするんだろうっていうのはすごく感じるんです。ホントに地元に帰ってきて芝居を観てもらうっていうのは初めてなので、すごく楽しみです。

■ご家族のみなさんもドキドキしながら観られるのかもしれませんね(笑)

古河
福岡だけボロがでたって言われないようにしないと(笑)

■最後に栗山さんへ、演劇研修所のこれからはどんな風にされていきたいですか?

栗山
本当は日本全国にこういう研修所がもっとできるといいなと思いますけど、それが実現するにはあと何十年、何百年かかるかわからないですから(笑)それが出来ないのであればアウトリーチでこちらから持っていこうとは考えていますね。その地域にいる若い人たちが、俳優になりたいんだけどどういう手立てを経れば俳優になれるの?って思っている若者って絶対いっぱいいるわけです。だからこそ、今は、うちで3年間勉強した人たちと地域の若者とシンポジウムをやって接する機会を作ってあげようとは考えています。そういうことをこれから徐々に広げながら、演劇ってもっと力があるんだぞっていうことを伝えていかないといけないと思っています。

 

 

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新国立劇場演劇研修所 第1回修了公演「リハーサルルーム」
■公演日/2月24日(日)14:00 ※終演後アフタートークあり
■作/篠原久美子
■演出/栗山民也
■出演/内田亜希子、岡野真那美、河合杏奈、小泉真希、高島令子、二木咲子、眞中幸子、北川響、窪田壮史、野口俊丞、古河耕史、古川龍太、前田一世、三原秀俊、山本悠一
■料金/2,500円 高校生以下/1,000円 ※当日300円増
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