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現在博多座で公演中の「レ・ミゼラブル」。今回からジャン・バルジャン役で登場するのは、劇団☆新感線出身で小劇場界ではその名を知らない人はいないという橋本さとしさん。前作「ミスサイゴン」に続き、不朽の名作、ミュージカル「レ・ミゼラブル」に挑む。日本公演20周年であり、初の博多座ロングラン作品である今作にかける意気込みなど、博多座での初日を迎えた直後にお話を伺いました。

■まずは、博多座初日おめでとうございます。

ありがとうございます。一人初日を迎えましたよ(笑)僕以外の出演者の方々はみなさん博多座の舞台に立たれた経験のある方々なんで。博多座初日は、山口祐一郎さん、二日目が別所哲也さん、そして僕は博多座の「レ・ミゼラブル」4公演目でやっとお顔を出すことができました。僕自身博多座は初めてでしたし、博多のお客様に自分が表現するジャン・バルジャンというのが、どれだけ伝わるかというのが正直まったく見当がつかなくて不安でしたけど、今日はホントに純粋に拍手を送っていただいて嬉しかったです。カーテンコールももう・・・自由ですね!博多のお客様は。「あ、もういいや」と思う人は帰っていかれますけど、「まだ見ていたい」という方は余韻に浸りながら拍手を送ってくれているっていう、そういう開放的な劇場の空気があって。でも、まさにカーテンコールっていうのはそういうことなんだろうなって感じました。カーテンコールで拍手がおさまらないからステージに残っていなくちゃいけないっていうルールはないんですよね。カーテンコールでは僕ももうジャン・バルジャンの魂が抜けて、橋本さとしにやっと帰ってくる瞬間なんで、ざっくばらんに“本当にありがとうございました”という気持ちと、無事にステージが終わったという安心と、そしてまだまだ油断ができないっていう次へのコンディションのこととか、完全にそこで考えているのは橋本さとしの脳みそであって、ジャン・バルジャンは飛んでますよね(笑)。だからそこでやっと博多のお客様と裸の付き合いというか、心のふれあいというのがカーテンコールで生まれるんですよ。そこには帝国劇場では経験できなかったような空気感がありましたね。なるほど、博多はこれかぁぁ!って。その自由なカーテンコールの雰囲気が僕はすごく好きでした。

僕個人としても、すごくいい初日を迎えられたな、と実感していますね。帝国劇場の初日はホントにガチガチで、ジャン・バルジャンという役は僕の器に合っているのかどうか、自分自身を超越しないと行き着けない役だとかって、ずっと自分にプレッシャーをかけていたんで。帝国劇場の初日は、まさに無我夢中という感じでした。役者というのは舞台の上で、どこか客観的に自分を観ているものなんですけど、それができないくらい無我夢中だったんです。無我夢中過ぎてセリフまで飛びましたからね。セリフというか歌ですね。そこで歌が出てこないから、とにかく間を繋ぐために普通に喋ってしまって、おしゃべりバルジャンって言われて。だから帝国劇場の初日はおしゃべりバルジャンだったんですよ。それが僕の「レ・ミゼラブル」での初日だったんですけど(笑)。やはり帝国劇場で、自分なりの修羅場をくぐって来てやっとジャン・バルジャンの魂というものがガン!とこう自分の心の中に根太く出来上がって、そして博多に乗り込むことが出来たんで、自分の中にあるジャン・バルジャンに対する迷いは全然なかったんです。ただやっぱり、劇場の雰囲気とか、お客さんのカラーというのも、公演する場所によって違いますので、その辺の不安や緊張っていうのはあります。さすがに今日は博多座初日という独特の緊張感はありましたが、ただ今回は出演者の中で、僕一人がそんな緊張感に包まれている状態の舞台だったので、すごく不思議な感じではありましたね(笑)。カーテンコールも一番僕一人ではしゃいでしまいました(笑)。

■博多座で橋本さんの初日をご覧になったお客さまはラッキーでしたね。

博多のお客さんはすごく正直だなって思いましたし、素直で自然なカーテンコールを僕に送ってくれたのと同時に、僕自身も自然な橋本さとしを見せてしまいました。そういうコミュニケーションというのが、お客さんととれた第一日目だっていうことが、僕にとってすごく嬉しかったです。自分でいうのもなんですけど、いい初日でした(笑)。

■橋本さとしさんと言えばストレートプレイというイメージがまだまだ強いようですが、この作品で橋本さんの印象が変わったというような感想はなにかありましたか?

僕は劇団☆新感線出身で、座長を始め博多っ子がけっこう多いんです。一番うれしかったのは、僕がずっと心から尊敬する劇団☆新感線の座長である、いのうえひでのりさんから「すっかり小劇場の匂いが取れて、ミュージカルを背負っている役者のオーラがでてきたな」って帝国劇場の「レ・ミゼラブル」を観に来てくれた時に言ってくれたんですね。それまではとにかく僕がちゃんと「ミス・サイゴン」や、そういう大きな公演で帝国劇場に立たせていただいた時には「大丈夫かな?」と心配する親心で観ていてくれたんですけど、僕のガキの頃からの恩師であるいのうえさんがそう言ってくれたことは、大人の役者として、今、やっと認めていただけたかな、っていうのが、今回僕にとってすごく大きかったですね。もちろん、他の色んな方々も、最初は「おい、さとし、大丈夫か?ジャン・バルジャンってホントに?東宝も冒険するなー」(笑)、みたいな感じで不安げに観てくれていたみたいですけど(笑)。大体僕がやるならジャベールじゃないかって予測をたてていたみたいですね。そこはね、いい意味で裏切りというか、ジャン・バルジャンだったっていうことは、レミゼファンの方に対しても、ちょっとしたサプライズにもなるのかなっていう存在だったんで。でもサプライズどころか、ガッカリなサプライズになったらどうしようというプレッシャーは、かなりありましたね。作品が大きいですし、しかも今回は20周年という記念の作品だし。それに博多座は2ヶ月のロングランって初めてなんですってね?そんなすごい舞台に参加させていただいて。きっと博多のお客さんは僕のことなんかあんまり知らないでしょうしね(笑)。僕は博多でやるというと、小劇場的な公演でやらせていただいていたんで、ついに博多座にきたか!という感じですね。

■博多座の舞台に立たれて、劇場の印象はいかがでしたか?

博多座は何年か前から一度は来てみたいなと思っていた劇場なんですよ。僕の先輩役者の方々もね、「オレは次は博多座行ってみたいんや」、「博多座いったら、もうオレは役者引退する。それぐらいい劇場だから」とか「オレの最終地点やねん」って言ってる先輩役者もいるくらい。それを聞いていて、そんなにええとこなんかなーって、来る前から思ったいたんですけど、今日、博多座の舞台に初めて立って、思いましたね、素晴らしい劇場だなと。山口祐一郎さんも以前、ここは世界一の劇場だって言われていましたけど、なるほどなって。もうね、役者はすごく気持ちいいんですよ。自分の声もすごく響いているように聞こえますしね。そして音がいい。ミュージカルやるのに、音がいいのは最高ですからね。そして自分の伝えたい感情というのは、時には大きな声ではなく、小さなウィスパーで伝えたい感情もあるんですけど、そういう小さな音でもしっかり伝わる劇場ですね。それはですね、間口がしっかり舞台を囲むように出来ていて、三階席もちゃんと舞台を近くで観ることができる作りになっているので、僕らが細かい小さな感情を吐き出しても、しっかり隅々までお客様に伝わる劇場だなっていうのを感じました。そのかわり、役者にとっては逃げ場がない(笑)。お客様に囲まれていますからね。お客様が舞台のどこを観ているかわからないっていう状態なんで、役者もこの3時間ちょっとの集中力が、かなり問われる劇場だなとも感じました。集中力のない僕でも(笑)、お客様の空気感というのが舞台の上に押し寄せて来ているんで、そのおかげでお客様にケツを叩かれながら、集中力を維持できるっていう(笑)。で、これだけ気持ちよく芝居が出来て、集中力も持続できるっていう経験が出来たっていうのは、まあ、役者冥利に尽きるなって思いますね。お客様のあたたかい反応もいただいて、うれしかったですね。今日はホンットに気持ちよかったです。

■博多の街の印象はいかがですか?

博多は食べ物が美味しいのが危険ですね、役者にとっては。そういう意味ではデンジャラスゾーンです(笑)。衣裳の都合もありますしね。体が重くなったら動きのキレもね、悪くなりますし(笑)。僕ね、東京の公演の時にジャン・バルジャンをやっている間にベスト体重から5kg痩せたんですよ。で、博多に来て、ちょうどベスト体重に戻りつつあるんです(笑)。だから自分のベスト体重を大幅に超えないようにしないといけないですね。役者としてのプロ意識は死守しないと。千穐楽あたりになってくると、ジャン・バルジャンのシルエットが変わってたりして。どんな19年間の牢獄生活だったんだ?ってことになりますからね(笑)。そんなことにならないようにちゃんとジャン・バルジャンのシルエットはキープしようと思ってますね(笑)。

■「レ・ミゼラブル」という作品について橋本さんはどんなふうに感じていらっしゃいますか?

僕も最初は「レ・ミゼラブル」のお客さんでしたから、観る方も集中力が必要ですし、色んな感情を揺さぶられますし、観た後はお腹いっぱい!っていう感じで劇場をでたのを覚えています。ところがお腹一杯でも、このお芝居は残像が残るんですよ。だから家に帰ってからも余韻に浸れるんですね。で、余韻に浸ったところで、なにかまだ焼き付けたい何かがあるような気がしてくるんですよ。このお芝居の大きなテーマである普遍的なもの、それは愛というものであったり、命というものであったりするんですけど、観る人によってメインテーマっていうのが変わる芝居なんですよね。そして世代によっても感情移入していただく場所が違うし見どころも違います。また逆に世代だけじゃなくて人間のその時の感情によっても見え方、感じ方が変わってくる。だからこの物語は、そういう世代や性別などという大きな枠でなくても、その時々の自分にあわせて、日々一秒一秒、観る度に変わってくる作品だと思いますね。

■4人ジャン・バルジャンがいらっしゃる中で、橋本さん以外のみなさんは何度もこの役を経験されている方々ですが、その中でプレッシャーや難しさを聞かせてください。

今回のようなクワトロキャストというのは、やはり他の方を意識してしまいますしね、で、他の人がやったことと同じことはやらないでおこうというような、役者の卑しい気持ちっていうのがやっぱり出て来たりするんです。でも、それは「ミス・サイゴン」の時に感じたことなんですけど、仮に全く同じことをやったとしても、役者が違えば全然違うエネルギーというものを発散するもんなんだって。今回は、もちろん偉大な作品で、偉大なジャン・バルジャンという役の歴代の先輩方がいらっしゃいます。だからそのジャン・バルジャンという役柄の伝統とか大きさというものを絶対に折らないようにしようっていうプレッシャーはとにかくありました。だから他のジャン・バルジャンの方を意識して、というよりも、その先輩方が築いて来られた歴史というものに、自分がしっかりと入って行けるようにという意識のほうが、大きかったですね。稽古場でも、僕一人が一から作り出しているジャン・バルジャンで、他の方々は、一緒に稽古している時はもう、稽古初日からジャン・バルジャンという役が出来上がっているんです。そういう中での焦りっていうのは正直言ってありましたけど、山口さん、別所さん、今井さん、それぞれに素晴らしくて。僕、新人ネオバルジャンとしては、この偉大な先輩たちと、肩を並べられるくらいのものをみせるっていうのがプロの役者だと思いますし、お客様も「今回はね、まあ、初めてだからね、しょうがないよね」っていう目では絶対に観ないと思うんですね。だから、それこそ歴代のジャン・バルジャンと同じステージに立った“橋本さとしバルジャン”っていうものが期待されているっていう感じはあったし、その期待には絶対に応えたいなと思っていたので気合いはスゴく入りましたね。
また、3人の先輩バルジャンを見せていただいた時に感じたのは、確かに同じ役をやっているんですけど、全く違うんですね。それを観た時に、「あー、なるほどな、答えは無いな」と。これが正解だというのはないんだと。じゃあ、自分の気持ちの中から自然に湧き出てくるものを、バーン!とお客さんに、音符に乗せたバルジャンの肉声を届けたいなって思いましたね。ジャン・バルジャンが、ここでどう感じて、次にどう動くんだというのが、ストレートにお客さんに伝わるような、僕の中から湧いてきたものを、とにかくストレートに伝えたい。そういうことで言うなら、これはストレートプレイですね、ミュージカルですけど。とにかくストレートに伝えていこうと。そう思ったら、僕なりのジャン・バルジャンが出来たんじゃないかという気はしました。

■橋本さんのネオバルジャンを観られた先輩方から感想など聞かれましたか?

これが意外とね、お互いがお互いのことを言わないんですよ。よかったよ、というのはすごく言っていただきましたけど、始まってからはやはりみなさん、それぞれ自分のジャン・バルジャンのことしか観ていないですから。他の方々をみて、あーここはこうしてるんだな、とか、あんなふうにしているんだとは思いますけど、お互いがジャン・バルジャンの役柄について語り合うというのは、始まってからは全くないですね。ただ、僕が帝国劇場で初日を迎えるまで、色んなことを、ジャン・バルジャンという役のことではなく、「レ・ミゼラブル」という舞台のテクニカル的なこと、例えばここは暗いから気をつけなよとか、ここは音が聞こえづらくなるから前もってカウント取っていたほうがいいよとか、すごくアドバイスいただきました。一番思い出深いのは、芝居には“場当たり”というのがあって役者に照明を当てるために必要な事なんですが、今回僕が始めてなもので、一日、8時間9時間くらいジャン・バルジャンの格好で何度もやるんです。で、かなり体力的にも精神的にも疲れ果ててきたところで、山口祐一郎さんが気持ちをわかってくれて、冷えたお茶を差し出してくれたんです。その時僕は、お茶なんか取りに行く暇も買いに行く暇もなかったんですよ。それを祐一郎さん自らが、お茶を持ってきていただいて、疲れたでしょう、飲みなって言って出してくれたペットボトルのお茶は、ホントに忘れられないですね。そのペットボトルは記念にちゃんと家にとってありますね(笑)。そういう気持ちっていうのは忘れないでいようと思って。そうやって先輩バルジャンたちに支えられて、僕のネオ・バルジャンが帝国劇場で初日を迎えたんです。そして、今回博多座へやってきました。これから先も新しいジャン・バルジャン役の人が生まれるかもしれません。その時もし、僕が先輩バルジャンになっていたとしたら、そうやって僕が守られた、支えられたことを忘れないでいられたら、いいんじゃないかな、と。僕自身の人間的にもですね。そういう意味ではジャン・バルジャンには、橋本さとしも人間的に成長させていただいた気がします。色んなものをみて、感じて、そして舞台に立ったので。

■最近の橋本さんはとても大きな作品、例えば名作といわれる作品に出演されることが増えていらっしゃるようですが、小劇場の時では得られなかった、またそういう大きな作品によって新たに得られたものってありますか?

かかるエネルギーとか、自分の中の心がけとか、魂の部分では小劇場も大劇場も名作も、書き下ろしも全然関係ないんですね。どの作品でも毎回、最高のものを出したい、それは毎回毎回、一回一回のステージで常に最高のものを出したいんですね。だからやっている最中というのは明日のことは考えずに、今の瞬間瞬間をやっています。でも蜷川幸雄さんのストレートプレイの舞台に出させていただいた時、まず思ったのが、こんな長いセリフ喋ったことがない!っていうことでしたね。でもこのような体験をさせていただけるっていうのはね、小劇場にはない経験です。これは単純に僕の脳みそのキャパとの戦いですけど(笑)。その間、一人でがーって喋っているあいだっていうのを、どれだけ集中力を絶やさずに、お客さんに伝えていくかっていうスリル感というかね。これは小劇場では味わえないですね。小劇場ではリズミカルなセリフのやり取りが多かったので。でも劇団☆新感線で得たことっていうのは、「レ・ミゼラブル」では全然生かされてませんけど(笑)。あそこで教えられたことを生かしていたらおもしろバルジャンになってしまいますから(笑)。でも、劇団☆新感線で叩き込まれた精神という部分では、やっぱりあの時のスピリッツは叩き込まれましたね。あの時自分たちで小道具を徹夜で作って、自分たちの立つ舞台を自分たちで作った経験があるからこそ、いま、こんな素晴らしい舞台に立たせてもらっているっていうありがたみも僕はすごく感じますし、それは若い頃に小劇場で培ったスピリッツがあるからじゃないかなと思いますね。それを、この博多の地でも生かしたいと思っていますので、みなさんぜひ、僕のネオ・バルジャンを観に来てください!

 

 

【博多座】
レ・ミゼラブル
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■公演日/9月4日(火)〜10月24日(水)
■作/アラン・ブーブリル クロード=ミッシェル・シェーンベルク
■原作/ヴィクトル・ユゴー ■翻訳/酒井洋子 
■演出・潤色/ジョン・ケアード トレバー・ナン
■音楽/クロード=ミッシェル・シェーンベルク ■訳詞/岩谷時子
■出演/山口祐一郎、別所哲也、今井清隆、橋本さとし、阿部裕、石川禅、岡幸二郎、今拓哉 他
 ※出演者は各回替り。詳しくはこちらをご覧ください。
■料金/A席15,500円 特B席12,500円 B席9,500円 C席5,000円
〈電子チケットぴあ Pコード〉372-255 ★Pコードクリックでチケット購入できます
〈ローソンチケット Lコード〉87550(9/4〜9/30) 87551(10/2〜10/24)
 博多座電話予約センター 092-263-5555
 ※3歳以上有料。2歳以下のお子様のご入場はお断りいたします。