らしくない作り方だからこそ、面白い。

北九州芸術劇場がプロデュースする新作『テトラポット』。今回、作・演出を手掛けるのは、2010年『わが星』で岸田國士戯曲賞を受賞し、新たな演劇の可能性を提示した柴幸男(ままごと主宰)。1月末から北九州に滞在し、オーディションによって選出された地元の役者と作り上げる作品は、柴自身にとって、創作環境を含め作品づくりそのものも新たな挑戦ばかりだという。現地入りして3週間を経過した今、新作『テトラポット』について、自身の心境の変化などをインタビュー。

■完全に新作を北九州という土地で、今までに無い環境で作っていますね。初めての場所で創作活動をするって、どういう感じでしょうか?

作品作りは東京で大体やってますけど、何をもってホームとするかですよね。役割というかやりやすい場所がそれぞれにあるんですよね。例えば、ずっと一緒にやっているスタッフは東京だし、作品を実際に作ることでいえば、同じ人に常に僕の作品でてもらうということが今まで無かったんです。ままごとの劇団員もいますけど、必ず出てもらうというわけではないんです。実際に今回「テトラポット」に出演してもらう大石くんも劇団員なんですが僕の芝居に出てもらうのは1年振りくらいだし。あと、稽古場も横浜の急な坂スタジオであったりとか、そういう“いつもの”場所がもうすでにあって、何作品か作ってきた環境があるという意味では、東京がホームなんですけど。実は今、あんまり東京にはホーム感は無くて。一番落ち着かないというか、演劇をやってもちょっと手応えを感じにくいというか。作品を作るにはすごくいい環境が今あるんですけど、見せる場所として、そんなに今どうしても東京で見せたいと思えるものが少ないのかな。僕自身、東京で作った作品を東京の人に見せることにあんまり意味を感じづらいと思っている部分もあるかもしれないですね。僕は名古屋が実家なんですけど、逆に名古屋には、いつも一緒に「あゆみ」という作品を作っている俳優たちがいて、今年でもう3年目になるんですけど、そこで(名古屋)で作ったものを東京で見せるっていうのは面白いですね。
今回の作品作りでいえば、劇場の方々と以前から繋がりがあって「わが星」のリーディング公演とかでやらせていただいたんですが、一緒に組んで作品を作るっていうのは初めてなんです。最初は不安もあったんですけど、色んなことを進めて行くうちにその心配はなくなってきていますね。俳優に関しても、もう3週間ほぼ毎日お昼から夜まで稽古しているので、だいぶ一緒にやってきた感じは実感としてあります。だんだん環境に慣れてきたというか。僕の中で割とホーム感が強くなってきました(笑)あと、創作の時間を充分にくださるので、純粋に作品作りに没頭できる環境ですね。時間が僕には何よりも大事かなって感じるので。純粋に今ある時間を作品作りだけに使っているので、芝居だけに集中できるという意味ではホーム的な感じに必然となってきました。充実してやってる感があります。

■実際に役者さんたちとも一緒にやり始めて、新たなテーマみたいなものが出てきたりしたんでしょうか?

テーマ自体はそんなに変わってないですね。海に沈んでいる人達が時間の行き来する話です。
何か変わったといえば、僕はこれまでの台本は誰が演じても役に差がないように書いていたんです。まあ差がない中で個性が出てきたらいいなとは思ったんですけど、今回は結構役者さんありきで台本を書いてるんですよ。あて書きというものを、もしかしたら初めてしているかもしないなって。そうやって台本を作っている感覚はこれまでにはなかったので、それはすごく面白いですね。台詞も役者さんたちが言いやすいように、僕が書いた台詞を方言に変えてもらったりもしてるんです。

■それは読ませていただいてちょっと不思議な感じでした。

僕が書いてきた台詞を役者さんに言ってもらって、言いにくそうだなと思ったらその場で変えたりしてるんですよ。役者さんにはまだ伝えていないシーンも、僕が口頭で説明しながら、この台詞言ってみてくださいとか言ってちょこちょこ加えて行く。シーンを1個ずつ作っているんですけど、そんな作り方を今までにはしたことないんです。それにハマっちゃって、その作業が今すごい面白いんですよ。

■あらかじめ用意していたシーン以外でも、その場で出たアイディアが生かされているんですね。

はい。それを同時に作業している感じです。どのシーンも役者の演じ方や雰囲気も含めて、その人を見ながらその場で書いているんです。

■今この段階で台本を読ませていただいた印象としては、なんとなく表面はポップな感じで、だけど切なさとか、儚さみたいなものがちょっと見えてくる。今を生きている大人の、深い部分での悲しみではなく、もっと浅瀬にある感じがしたんですよね。いつもは忘れてるけど、ふとした瞬間に思い出すみたいな。

今回、作りながらもそうだったんですけど、語り口やシーンの1つ1つは軽く扱いたいっていうのがあったんです。もともとコメディーが好きだっていうのもあるかもしれませんが長い台詞を言い合うというよりは、短いやり取りをいっぱいやる方が好きなんです。
あと今回はボレロをメインの曲にしたんですが、最初はずっと聴きながら台本書いてたんですよ。重厚なんだけどメロディーライン的には明るいというか、それこそちょっと寂しいのか深いのか。笑っていいんだか、真面目なのか分かんないような、そういう感覚が繰り返されるんですけど、後半になるにしたがって、だんだんとパワフルになってくのはすごくいいなと思って。それを芝居の中の空気感として入れたいっていうのはあったんですよ。軽いんだか重いんだか分かんないみたいなね。軽さの中で観客をリズミカルに巻き込んでいって、どんどん比重を重たくしながら力をもってラストに向かうっていうのが、この作品でやっていきたいと思っている部分ではあるんですよね。

■なぜ「ボレロ」だったんですか?

繰り返しをモチーフにしているので、海にある波のように、同じフレーズを繰り返しているような曲がいいなって思って。例えば「カノン」とかもそうだったんですけど。「カノン」はかなり計算されている、輪唱なんですよ。ずれていきながら和音になるように計算されてワンフレーズが作られている。重なれば重なるほど新しい展開が生まれるんですけど、「ボレロ」はただ楽器が増えていくだけっていう。スピードと音の音量と楽器が増えてるだけななんですよ。それって面白いなって思って。その愚直に繰り返してるだけっていう感じがイメージしているものに近かったんです。ボレロにしたことで、この作品の方向性が決まったんです。

■では、曲は結構キーポイントになるっていうことでしょうか?

相当なると思います。今回はかなりそうやって音楽に絡みつかせて作れないかなって考えてます。

■今回はテーマのひとつに「繰り返す」ということもあるんですが、1つの固定の「時間」があって、前後の空間を描いていますよね。これはとても私見なんですが、その時間軸みたいなものを置くって私にとっては柴さんっぽいなという感じでもあるんです。柴さんの作品で「時間」って重要なキーワードなのかなって思うんですけど。時間と、その前後にある空間と事象。時間を意識される理由ってあるんですか?

演劇自体が、どうしても時間を伴うものだったので、そこから考え始めたと思うんですよ。15分、20分の舞台で流れてる時間は果たして、時計で見る20分と同じでいいのかとか、20分ってどういう事なのかとか。90分てどういう時間なのかって考えだしてから、だんだん時間というものを扱いたいとか、触れてみたいとか感じたんです。こんな風に時間を見てみたいとか、取り扱ってみたいっていう欲求がすごく湧いてくるんですよね。例えば『記憶」を書く時に、人間よりもその記憶された時間が描きたいと思う。事象が好きなんですよね。それを描くために人とか海とか星がある。

「わが星」で描きたかったのは、人と星の時間だったし。「時間」というものに本当に興味があったんですよね。時間ほど常にあるのに目に見えなかったり、捉え方が理解できてないものってないなって。全くないとは思ってはないんですけど、それ位すごい可能性というか、まだまだ色々表現があるんじゃないかなって思ってるんです。

■初演までにあと3週間弱。作劇の方法も新たな手法で、初のあて書きですし、もちろん役者さんも初めて。新しいことずくめでの創作の手ごたえはいかがですか?

僕はすごい面白いんですけど、どうなんでしょうかね。いや、いい感じですよ。今芝居をつくることがすごく楽しいし、面白い。特に、俳優さんに台詞を渡して喋ってもらって、また直してという作業が本当に面白くて。会話の作り方ひとつにしても色んな発想が生まれてくる、そうすると新しい発見もあるのでホント楽しいです(笑)

■今回は役名がちゃんとついてますね。

はい、つけました。役を交換しないぞっていう意志の現れです(笑)時間をごちゃごちゃするのも本当は止めても良かったっていうか、封印したいくらいだったんですけど。ちょっとそれは無理だったので。あと、12人出てきて、観ている人たちも出て来た12人をちゃんと思い出せる芝居にしたいなって思ったんです。
今までの僕の作品って役名がなかったりするんです。「あゆみ」なんていうのは、8人の女の人がいて、全役をみんなで回しながらやるから、まず誰が誰なのか特定できないっていう問題ががあったんです。登場人物が12人って、僕の中では結構多いんですよ。でも12人いて、キャラが1人ずつ、ちゃんと観終わった後に、過不足なく思い出せる。この役の人いらないなとか、この役の人なんだっけ?とかが起こらない事にしたいなというのを、今回の僕のミッションというか命題としてあるんです。芝居の中で関係性のラインがあって人を把握するって少ないので。今回それが出来るのが面白いし、それが出来たら一幕物をかけるような自信が出来るような気がするんですよね。

■新しい柴さんの作品が観れるのを楽しみにしてます。

あと2週間ちょっとかな。僕自身も楽しみながら、頑張ります。

 

 

 


撮影:木寺一路

【北九州芸術劇場】〈小劇場〉
■ 2月20日(月)〜26日(日)
20日(月)19:00☆、21日(火)19:00、22日(水)19:00◎、
23日(木)14:00・19:00、24日(金)19:00◎、25日(土)13:00・18:00、26日(日)13:00
☆=プレビュー公演 ◎=アフタートーク有

■ 作・演出/柴幸男(ままごと)
■ 出演/大石将弘(ままごと)、寺田剛史(飛ぶ劇場)、荒巻百合、折元沙亜耶、古賀菜々絵、高野由紀子(演劇関係いすと校舎)、多田香織(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)、谷村純一、原岡梨絵子(劇団ショーマンシップ)、ヒガシユキコ、藤井俊輔(劇団ルアーノデルモーズ)、米津知実(劇団コギト)
■ 料金/一般3,000円 学生2,500円 (全席指定)
北九州プレビュー公演 一般 2,000円 学生 1,500円
※学生(小〜大学生・要学生証提示)※当日各500円増
〈チケットぴあ Pコード〉410-759〈ローソンチケット Lコード〉86762
e+(イープラス)(パソコン・携帯)北九州芸術劇場オンラインチケット
※未就学児入場不可