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2010年日本アカデミー賞を受賞、また海外でも高く評価された究極のヒューマンドラマ『悪人』を生み出した監督・脚本:李相日×原作:吉田修一タッグに世界的音楽家坂本龍一が参戦!さらに主演には、今や世界に活躍の場を広げた渡辺謙。その他森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、宮﨑あおい、妻夫木聡と いった人気・実力ともにトップクラスの俳優陣が集結。愛する人でさえ簡単に疑ってしまう不信の時代に“信じるとは?”とい う根源的な問いを投げかける衝撃の群像ミステリー。

『怒り』の監督を務めた李相日氏にインタビュー

■原作の長編小説の映画化にあたって、脚本を作る際にご苦労されたことは?

大変すぎて言葉に出来ないですね(笑)。脚本も、撮影も大変でしたが、一番大変だったのは編集作業でした。脚本の段階で、ある程度の計算はしていましたが、実際の撮影でそれが計算通りにはいかないので、編集で色々試しながら改めて組み立てていきました。3つの物語を、それぞれ一本の映画として成立するくらいの質量とクオリティーを保とうと考えて撮影しました。ですが、編集の段階でどうすれば3つの別の物語を完全に一つの作品として観ている人に受け止めてもらえるか、ということは苦しんだところです。俳優のみなさんにあれだけ素晴らしい演技をしていただいているのですが、泣く泣くカットしたシーンもたくさんあります。

■監督にとって「怒り」というイメージはどういったものでしたか?

「怒り」の解釈は多様です。拳を振り上げて怒るということもあれば、この映画の中では特に信じられなかった自分に対する怒りというものもある。原作から脚本にする時に、残しておきたかった台詞のひとつに、沖縄の少年が言う「本気って目に見えないから」という台詞があります。本気で何かを思っている、怒っていることが伝わらないことへの「怒り」。それは今、一番世の中で軽視されていることではないかと捉えて、映画の中では必ず残しておきたかったことです。その伝わらない「怒り」から、だからこそ人は人を信頼しようとするものなのだということを描きたかった。「怒り」が何なのか、ということだけをずっと考えていると、答えが出ない。でもどうして怒るんだろう?と考えると、それは「不安」なんです。「不安」や「恐れ」があるから、それが表に出るときに「怒り」になる。例えば、見知らぬ相手を理解して受け入れるより先に、不安を感じると排除してしまうでしょう。人間ってそんなことの繰り返しをしているんだろうなと。だから、怒りというのは人に話せば話すほど広がっていくんです。

■キャスティングされる際に、決め手にされたことはどういったことですか?

この作品に限らず、キャスティングする時に、できるだけ大事にしたいなと思っているのは、本人の資質ですね。それは事実とは違うかもしれません。普段見えている、その俳優のパブリックイメージとか自分たちが思っている印象の、そうではない部分を、自分なりに一所懸命想像するんです。その俳優の表に出ていない奥にある部分と、役の一番核になる部分がどこか繋がる人を捜しています。

■俳優さんたちにリクエストされたことはありますか?

直接そうは言っていないんですけど、とにかく腑を見せて欲しいということですよね(笑)。心を開くとかそういうレベルの話ではなくて、さらけ出すというか……臓物を撒き散らせ、的な(笑)そういうことをずっと求め続けたんだと思います。

■原作の印象は?この作品に込めたメッセージはありますか?

原作を読む時は、できるだけ何も考えずに吉田さんの顔が浮かばないように読もうとしました(笑)。犯人は誰なのか?と、ミステリーを楽しもうと思っていましたけど、結局吉田さんの作品だったなと。それは犯人が三人のうちの誰か、ということを追いかけて読むつもりだったのですが、途中から三人の内の誰が犯人でも嫌だなと思うようになって。誰も犯人であって欲しくない、そう思って読んでいました。
気がつくと自分を見ているような、自分の話を書かれているような気がして来たんです。それは自分の中にある他人に見せたくない部分や、自分が気付いている自分自身の汚いところを提示されているような感覚というか気味の悪さみたいなものを感じるけど、それだけでは終わらせてくれない。そういう汚い部分も引っくるめて、自分がいかに欠点が多い人間か、そして人はそういうことを含めて愛していいんだなと改めて思ったんです。普段は忘れているけど、人を想うという強い気持ちが自分にもあるんだなということに気付かされました。

信頼することの難しさと大切さ、それは自分が他人を信頼するということだけではく、自分も信頼してもらえると感じられないと辛いですよね。ただ人が人を信頼することが大切だということは、当たり前のことです。その綺麗事の先に映画は行きたいなと思っていました。信じることで逆に失ってしまうものもある、もちろん疑うことで失うこともあるし、でもそういう全てのことを引っくるめて、人は人を信じて行くんだと。

■編集をするにあたって、気をつけられたことは?

映画の序盤では、生活や生きている空間そのものが繋がっているように工夫をしています。それに慣れてきたところで、もっと観念的な感情で後半は繋げていく。細かいことで言うとシーンの終わりに次のシーンのカットを少しだけ入れ込んだりしているんです。本当に僅かなカットです。無意識に次を予感させておいて、次に、また次に、とビートが途切れないようにしています。

■犯人の写真はどれもが似ているようでどれも違うようにも思えました。

実は、そこにも観念的な仕掛けがあって、その写真を誰が誰をイメージしながら見ているかということを具現化した写真になっているんです。ぜひそれは映画を観ながら確認していただきたいですね。

■坂本龍一さんにポジティブなシーンにもネガティブなシーンにも使えるような音楽を、とリクエストされたそうですが。

映画全体の大きな音楽のテーマの柱が「怒り」と「信頼」という二つのテーマを持って作っていただきました。「怒り」に関しては、どちらかというと目に見えない「怒り」。人の心の奥に潜んでいるもの、それがどう個人の中で、巡っているか滾っているか、という内面を「怒り」として表現して欲しいということ。もう一つの「信頼」という音楽には、「信頼」と真逆の「不審」ということを併せ持つ音楽にして欲しいとお願いしました。同じメロディーで「不審」として聴いていたものが、最後は「信頼」に転換する。それは物語の流れと俳優の演技だけでなく、音楽でも表現して欲しかったことなので、そういうオーダーをしました。なので全く同じメロディーなのに、シーンによっては真逆の聞こえ方をするんです。勝手なお願いですよね(笑)。でもとても素晴らしい音楽を作っていただけたのでうれしかったです。

■この作品を作り上げられての感想はいかがですか?

出発点はあくまでも吉田さんの小説でしたが、小説を忠実に映画化しようということではなくて、原作と全く同じ思いをどこかで持つことが出来たんです。それは多分、劇中に出てくる「本気って目に見えないから」とか、いくつかの台詞に象徴されるように、どこか自分たちがたくさん見失っているものの集積だったのだと思います。坂本さんの音楽の流れで言うと、「怒り」があって「信頼」があって、最後のエンドロールにかかるのが「赦し」という曲なんです。それと犯人をただの殺人鬼にして終わらせたくなかった。怒りというものに全て囚われてしまった人間の帰結と、同じ怒りを抱えていても、愛情で浄化できた人間と、それぞれの帰結を見せたときに(観る人には)何が見えるかなと思っています。

 

 

 

『怒り』 (PG12) 9/17(土)TOHOシネマズ天神、ほかにて全国ロードショー

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【監督・脚本】李 相日
【原作】吉田修一(「怒り」中央公論新社刊)
【出演】渡辺謙 森山未來 松山ケンイチ 綾野剛
広瀬すず 佐久本宝 ピエール瀧 三浦貴大 高畑充希 原日出子 池脇千鶴
宮﨑あおい 妻夫木聡

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Ⓒ2016映画「怒り」製作委員会