「EUREKA ユリイカ」の青山真治監督が7年ぶりに長編映画のメガホンをとり、多部未華子と初タッグを組んだ人間ドラマ。作詞家・小竹正人の同名小説と、原作とともに誕生した「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」の楽曲「空に住む Living in your sky」の世界観を基に、現実と夢の間で葛藤しながらも新たな人生を見いだしていく女性たちを描く。主人公で郊外の小さな出版社に勤める直実を多部未華子、直実と同じマンションに住む人気俳優・時戸森則役を岩田剛典、直実の後輩・愛子に岸井ゆきの、直実の叔母・明日子を美村里江など、魅力的な俳優が揃った。

本作で監督を務めた福岡県出身である青山真治にインタビュー。

◆原作のどういった部分を抽出して映画にしようと思われたのでしょう?

青山真治監督:原作者の小竹正人さんとお会いして話をした時に、彼自身も大事にしているし僕も印象に残っていて痛烈に刺さった部分が共通していて、それが「猫の死」でした。猫が死んでいくというのを、克明に描写して、尚且つご本人も一番大事にしている部分であると。そのことがこの小説にとって何であるか、ということを中心に描いたつもりです。人が死ぬということ、人が生まれるということ、一人の人間の人生が続いていく中で、中心に猫の死を据えて、その両側を描いていくというか。かけがえの無いものが亡くなっていくことに関しては人間でも猫でも同じだという感覚を持って、むしろ猫が死ぬということに、重きを置くことによって、見えてくる何かがあるだと、この物語は言っているような気がするんです。それがやれたことについて非常に満足しています。

◆確かに直実の中で猫のハルちゃんの存在がとても大きなものだったんだと、じわじわと感じてきました。撮影や編集をされる中で、どのようにして作品の中心を猫に持って行こうと考えられていましたか?

青山真治監督:それは、自分の経験も含めてなのですが、たとえ猫であろうと、この猫と自分の間には誰も入れないという感覚、その関係性を理解しようとしてもたぶん無理なんです。そういうことが自分の経験からもあったです直美とハルの間には絶対に入れない、人と何かの関係ってそういうものでしょ、という気持ちが僕自身にあるですそれは生き物に限らず、物と持っている本人の間には誰も入ることができない、そういう感覚ってあると思うんです。もしかすると表現というもの自体もそういう関係性だと思うんです。せめて撮影している僕らができることは、例えば直美がハルに最後に「ハルは、私だったよ」という台詞があるんですが、それを言わせてあげることくらいしか、僕らにできることはないんです。そういうことを最大限に伝えられるようにやったつもりではあります。
だからこの作品と僕との関係も直美とはるのような特異な関係ではあるのかもしれないです(笑)

◆映画を観て、共感しかないというか、女性の気持ちの機微が丁寧に描かれているというのが第一印象でした。青山監督も原作者の小竹さんも男性ですが、女性の細かい部分が描かれているのがとても不思議で。女性の目線を意識して撮影されていたのか、あまり考えずに作品に対する思いで撮られていたのかが気になっていたのですが・・・。

青山真治監督:ひとつには、シナリオありきという部分があります。脚本家の池田千尋さんが入られているんですが、池田さんは、僕がこの作品に参加する前から参加されていました。なので、最初にプロデューサーと池田さんが作り上げた世界があって、そこに僕がリクエストしていく形で進行していったんです。だからまずは女性目線ありきで、構築していった部分は大きいと思います。僕自身、そんなに女性の機微が解っている人間であればもうちょっとモテてもいいかなという気はしますけどね(笑)。

◆実は一番印象に残っているのは、直実と人気俳優・時戸森則が出会った時、直実の視線がカメラで追われていたんですが、女性が初めて出会った男性に対して、まず顔をみて、ファッションをみて、手を見て結婚指輪がないかどうかを確認して、という一連の目線の流れに既視感を持ちました。

青山真治監督:ちなみに、脚本家だけじゃなくて、カメラマン(撮影)も女性なんです。だからそれも関係しているかもしれないですね。視線はもろに女性の視線ですからね(笑)

◆多部未華子さんに直実という女性を演じてもらう時に、何かお話をされたんですか?

青山真治監督:これがね・・・ここはこうして欲しいとか、こんな風に台詞を言ってねとか言えれば良かったですけど、喋ってないんですよ、ほとんど。現場でも喋っていないし、前もって話をしたわけでもない。だからシナリオにあることを彼女の解釈で行ったしか彼女はしてなんです。それが全て正解だった。だからそれに「いいですね!」言うだけ(笑)。

◆いい監督さんですね!(笑)。とはいえ、監督が思い描いていた直実像と多部さんが演じてみて改めて感じ取れた直実像みたいな部分はありましたか?

青山真治監督:観ていて、ご本人がその演技に納得できているのか、ということさえも解らないです(笑)。でもそんな中で、カットするかもしれないけど撮りたいからやらせて、と撮ったシーンもあるです。そういう場面でも、こちら不安になるようなリアクションはないですよ。多部さんは演技に迷いがないです。

◆音楽と原作があり、映画の最後に主題歌が流れますが、やはり作品をすっと最後にまとめてくれるような音楽だなと改めて感じました。主題歌を聴いてインスピレーションを受けた部分と脚本を読んで受けたインスピレーションとどちらが強く残っていましたか?

青山真治監督:あの楽曲はあえて聴かなかったんです。存在は知っていましが、それを聴いたら楽曲に引っ張られるだろうなと思ったので。それで聴かないままに撮影が始まって編集の途中くらいかな、ラストに主題歌を入れるなと思って聴いたのが初めてでした。それから少し音楽の乗せ方を考えながら編集をしました。だから主題歌の歌詞は映画の内容には反映していないんです。ただ、原作と楽曲がリンクしているので、当然フックになっている部分はたくさんあると思います。僕がインスピレーションを得たとしたら、小竹さんと話をして猫のシーンの重要性を確認できたこと、撮影が始まってそれぞれの役者さんたちのリアクション、シナリオを読んだ上での彼らのアプローチの全てが、重なってできていったと思います。原作や歌で何かヒントを得たというよりは、それぞれに出逢った人々、俳優なり原作者なりスタッフなり、そういう人たちから頂いたものでできている気がします。

◆この作品から、本音と建て前や、幸せそうに見えるものが実はそうではない、など誰もが抱える表と裏という感じが、登場人物の台詞からも感じられたのですが、監督は撮影中にそういうことを意識していたのでしょうか?

青山真治監督:シナリオを書いている時には、自己矛盾みたいなものを持ちながら人は生きていて、どこまでが本当でどこまでが嘘が解らないというような感じで生きているじゃないだろうか、といった台詞を散りばめていこうという意識がありました。この人はここではこう言っているけれど、たぶん本気じゃないし、明日になったら忘れているかもしれないみたいな。特に時戸という人物に関しては、そういう風にしていきました。それは彼が根っこのない人間だからそうして生きているというのではなくて、むしろ常に周りを試しているというか、でそれで何をしたいわけでもないという人物として存在したらどうかと。これは作り手側の都合ですが、そうやって挑発されていく直実、そして直実と繋がっている人たちも知らず知らずそれに触発されていく、そういう思考の連鎖みたいなものが起こればいいなと思っていました。

◆そういう意味では、多部さんはそのシナリオを理解していたからこそ直実像ができたのかなと。それを観て、私自身「自分もこのままでもいいのかな?」と思える部分があったように思います。

青山真治監督:明日子を演じた美村里江さんが、シナリオを読んで「こういうオバさんにはなりたくない」って思っていたらしいです。こんな人が近くにいるとすごく嫌だと思っていたらしいのですが、そういう人なんだと思って演じたらうまくいくかも知れない、と思ったそうんです。実際、美村さんの造形された明日子は素晴らしかったです。

◆岩田さんがとても時戸という人物に合っているなと思いました。役どころとしてはかなり難解な人間な気がしたのですが、岩田さんが演じた時戸はその難解な人物をすんなり受け入れられたんです。

青山真治監督:もしこの役が岩田くんにフィットしているとしたら、それもまた岩田くんが作り上げたものだと思います。僕は何も話してないので(笑)。岩田くんがチョイスしたやり方だと思います。そういう岩田くんの理想的な姿を作り上げてたんじゃないですか?

◆私がですか?そうかもしれない!(笑)私の理想通りの岩田くんがスクリーンに出てきた!と思ったのかもです。そして多部さん演じた直実の気持ちがすっごい理解できましたし。

青山真治監督:そうなると、あなたにとっては、かなり幸せな映画だったんですね。よかったよかった!(笑)

 

 

 

 

10/23(金)『空に住む』全国ロードショー

【監督・脚本】青山真治
【原作】小竹正人「空に住む」(講談社)
【出演】多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、
岩田剛典、鶴見辰吾、岩下尚史、高橋洋、大森南朋、永瀬正敏、柄本明

©2020 HIGH BROW CINEMA

https://soranisumu.jp/