シアタービューフクオカで絶賛連載中「舌の根も乾かぬうちに…」福岡県出身、TVや映画等で活躍中の俳優・野間口徹さんのコラム。本誌と併せてお楽しみください!

nomaguchi

eps.10

 中学校一年生の時でした。眼鏡を装着し始めたのは。つまり、かれこれもう30年、眼鏡と共に生きております。最初は、今みたいにオシャレ眼鏡も殆ど流通していない時代でしたから、それはそれは嫌でした。少しでも素敵なものを着けたくて、度が進んだと偽り、眼鏡を買い替えさせました。
最初はいわゆる普通の銀縁眼鏡。高校進学してからは、大江千里風の黒縁眼鏡。大学進学後は、大好きな映画俳優に憧れ丸眼鏡。大江千里風もかなりパンチの効いた外見でしたが、丸眼鏡に至っては、本来意図していた「ジャン=レノ」とは全く言われず「ジョン=レノン」「ガンジー」と言われる始末。どんな眼鏡にしようが、僕のパーソナルな部分が前に出る形でした。それがこの仕事を始めて暫くして変化したのです。
 ある日のオーディション。いつものように会場に行って待機していると、スタッフさんから「今回は眼鏡無しで行きますか?」との提案。快諾して眼鏡を外してレンズの前に立つと、なぜか皆さん絶句。「…?何か…?」「うーん…ま、いえ、大丈夫です」僕は違和感を残したまま帰宅しました。帰宅とほぼ同時のタイミングで不合格の知らせ。この辺りからでした。「僕は眼鏡にかけられているのではないか」という恐怖を感じ始めたのは。
 数ヶ月後、ドラマの衣裳合わせで監督さんから再び同じ言葉「ちょっと眼鏡を外してみようか」。軽い緊張を感じつつ外す。眼鏡無しの、本当の意味での僕自身、野間口むき出しの状態を眺めて監督が言う。「野間口さんじゃなくなっちゃうんだよなぁ…」。いやいやいやいや!これが野間口ですから!完全オリジナルの野間口ですから!という叫びは、もちろん口をつく事はなく「分かりました」と再装着。再装着後の、監督以下スタッフさんのホッとした顔は、今でも脳裏に焼き付いている。何か邪悪なものが、やっと再び封印されたかのような顔だった。
 これだけではまだ終わらない。とある舞台で、前半は眼鏡有り、後半は眼鏡無しで出演していた。そこそこ喋ってもいた。ちゃんと僕だと認識されていたと思っていた。だがしかし、両親が観劇後に第一声で僕に放った一言が「アンタ後半どこに出とった?」だったのだ!ああ!嗚呼!両親ですら!我が子の事を眼鏡でしか認識していないのだ!恐怖!もしかしたら、共演していた方々も「後半、野間口いねえなぁ」とか思ってたんじゃないだろうか!それにしてもマズい、このままでは完全に眼鏡に乗っ取られてしまう。眼鏡を取るには…コンタクトだ!ははは!これで忌まわしき眼鏡ともおさらばだ!…しかし…2週間経っても、1ヶ月が過ぎても異物感が無くならない。あらゆるタイプを我が眼球が拒否する。眼鏡に寄生されているのだ。もはや眼鏡が僕なのだ。この先ずっとなのだ。
 お別れのとき、棺の中に眼鏡だけが入っているビジョンしか…今は…見えません…

のまぐちとおる/1973年生まれ、福岡出身。俳優。コントユニット「親族代表」と、劇団「ピチチ5」に所属。1月放送予定「ミラクル9」(テレビ朝日系)、 「%ラボ」(KBCテレビ他)に出演の他、1月2日より「親族代表」ツアー公演(東京・福岡・広島・大阪)が始まる。