シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.29  「演劇1」

いまさらだが、想田和弘監督『演劇1』を見た。この映画は、平田オリザ率いる青年団を半年以上、追い続けたドキュメントなのだ。

領収書を数えるオリザさん、演出の合間に「15分寝るから起こして」といって、即座に眠り、起こされた10秒後くらいにしっかり稽古を始めるオリザさん、髪の毛を切るオリザさん。特に髪型は変わってないが、床屋を出るオリザさん。そうこうしながらも次回作の戯曲を移動中も休憩中も書き続けるオリザさん、かつてこれほどまでにオリザさんを見られる映画があっただろうか。いや、ない。そりゃそうだ。

高校生相手にワークショップをし、戯曲の書き方を教える。「起承転結の中に、また起承転結がある。」と、少女漫画を例えに出して高校生達に興味を持たせながら、しっかりと戯曲のシステムを伝えていく。僕はこのワークショップを見たことがある。他にも、俳優に対するワークショップ、地方都市の劇場スタッフが見に来る、演劇と公共性に関するワークショップも見たことがある。僕がすごいと思うのは、このワークショップが、いつどこでやっても、全く同じ内容を全く同じ順序で話している、というところだ。完全にルーチン化されているのだ。そして、僕の様に何度か聞いている者でも飽きることもなく、さらに新たな発見をさせられてしまう。恐るべきことだ。この「自分が好きでやっていることを、さらに広く受け入れられるために」やっていることが、さらに、受け入れた人達の中で育ち、独自のモノとなって、新たな表現を産むタネとなる。この現象。
僕もゆくゆくは、自分の作品だけではなく、もっと色んな人が自分なりの表現を見つけられる様に仕向けられる立場につきたいと思っている。例えば芸術監督とかの。例えばね。そういう視点から見ると、とてつもない大天才な訳です。このオリザさんは。
だって、青年団や青年団がらみだけでも、前田司郎、松井周、多田淳之助、って出て来てる訳ですから。まあ前田君はあんまり関係ないかもだけど。地方でやっている劇場や劇団にも、オリザさんに影響を受けている人はとても多い。僕はこの『演劇1』を見ながら、これだけ多くの人達の心を引きつけながらも「心なんて、ない」と言ってのけるちっちゃい魔法使いおじさんのことを考え続けてしまうのだ。

僕の劇団、ハイバイは、ようやく東京外の公演が増えて、軌道に乗ったっちゃあ乗ったようにも見える。でもそれはただただ作品を見せているだけで、僕としては「僕が出来ることは誰でも出来る」と思っているので、劇場から「なんか作ってくれ〜」って言われた時は、そこに参加した人達に台本を書かせて、演出をさせ、出演させて、作品作りをしている。俳優も作家も、根本は「自分を知らせる」という作業だと思っている。いつかはもの凄い数の「私小説」ならぬ「私戯曲」の作家が現れてくれればと思うのだ。

実際の人生は、実際に生きている人達に必ず響く。そしていつか、オリザさんにも「私戯曲」を書いてもらえると面白いだろうなあ。1億円の借金を抱えた劇場を相続した物語とか。それを演劇で返していこうなんて物語は、あの人ならではのものだろうし。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。5/21~30岩井秀人×快快「再生」@KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオを演出、7〜8月平成27年度公共ホール演劇ネットワーク事業 ハイバイ「ヒッキー・カンクーントルネード」全国ツアーを演出。
http://hi-bye.net/