シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.23 「機動戦士ガンダムⅢ―めぐりあい宇宙(そら)―」

最近は映画を観ている時間がないので、過去に観たものから…と思い浮かんだのは「機動戦士ガンダムⅢ―めぐりあい宇宙―」だ。「宇宙」と書いて「そら」と読む。初代ガンダムの三部作の完結編なのだが、ちょっといったん映画自体の話からはそれて、演劇の話から。
僕はイキウメが好きだ。あ、劇団のイキウメね。
前川知大くんって同い年の作演なんだけど、今時の演劇には珍しい、地球を乗っ取りに来た宇宙人の話であったり、死後の世界から誰かが来ちゃったり、座敷童的な話だったりと、SFやオカルトと呼ばれる様な入り口?門構え?をしている。一方、僕が自分の劇団ハイバイでやってることと言えば、自分が引きこもってて対人恐怖でプルプルしてるとか、自分の家族がしょーもない、みたいな話を書いている。なので比べてみれば演劇としては真逆のポジションなんだけど、僕はイキウメが凄く好きで、それは全くSFだからとかオカルトだからとかではなく、例えば先に書いた宇宙人が乗っ取りにくる話「散歩する侵略者」は、宇宙人が地球を侵略する前の下調べとして3人ほど地球に乗り込み、地球人達の持つ価値観や思考を司る「概念」を自分たちに取り込んで行く。取り込まれると、その概念は持ち主の人間から失われるっていう設定がミソでして、これが凄い。
「禁止」とかって概念を奪われた人間はその概念を失って、さっきまで宇宙人相手に「ここから先は立ち入り禁止なんだ」と言ってたとしても、唐突に言葉を失い、立ち尽くして宇宙人がそこを通って行くのを見るしかなくなる。概念を取り込んだ宇宙人は宇宙人で「なるほど、こういう感覚か」と、どんどん地球の、しかも日本人的な人間らしさを手に入れて行く。完全に倦怠していた夫婦生活に辟易していたが、ある時を境に「良き夫」となった夫が、実はそれが宇宙人に乗っ取られたが故、と明かされた妻が「おかしいと思った。だって、私の旦那はあなたみたいにいい人じゃないもの」と「いっそのこと、『愛』の概念を奪っていって」と言う。宇宙人は要望通り、妻が今苦しんでいる「愛」という概念をその場で奪う。そして取り込んだ瞬間、宇宙人はガタガタと震え始め、あふれる涙を拭いもせずに 「これが…愛か…」と絞り出す。岩井号泣。こんなことを成立させてしまうイキウメが、前川くんが本当に凄いと思う。オカルトだとかSFだとかということはどうでも良くて「人の心の可能性」に希望を持とうとしていることに、僕は強く魅かれる。
この「散歩する侵略者」を見てそれこそボーロボロ泣きながら、当時あまり知り合いでもない前川くんに話しかけに言った時のことをよく覚えている。若干引き気味に「あ、ありがとう」と返して来た前川くんに僕が言ったのが「ガンダム…好きじゃないすか?」前川くん「あ、まあ、、」
そう。ガンダム。あれもモビルスーツがガンガン肉弾戦するだとかミノフスキー粒子がどうこうと言われているが、主人公のアムロが宇宙に浮かび、敵対しているはずのモビルアーマー「エルメス」に乗るララアと、直感的につながる。あの瞬間。心の持つ可能性。あーいうの作りたいなーー。もう嫌だなあ、ちょっと汚いおじさんばっかり出て来て泣いてひっぱたかれたりするんじゃなくて。
きっと次もそういうのなんだろうけどさー。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。 「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。5月24日公開の映画「青天の霹靂」出演中。脚本を担当し好評だった、テレビ東京「終電ごはん」DVD化決定。7月にハイバイ新作で福岡上陸予定!!
http://hi-bye.net/