シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.22 「ゼロ・グラビティ」

超話題の映画「ゼロ・グラビティ」を観た。
こ、こまった。楽しめなかったのだ。Twitterでもみんな面白がっている。福岡にもよく公演をしに行っている「イキウメ」の前川くんも「最高。もうほんと最高」と絶賛しているのにも関わらず、なんだか楽しめなかったのだ。
いや、ほんとよく出来てると思う。どうやって撮ってるんだってぐらい、無重力の中、船内をウロウロするのとか、映画史的に考えてもすごいことなんだと思う。俳優さんなんて文句のつけようもない。特にジョージ・クルーニーはほんとすげえ。だけど、とりあえずサンドラ・ブロックさんが宇宙空間にクルクルしながら放り出され、天才的に落ち着いた演技で男も濡らすジョージ・クルーニーに助けられ、酸素が残り1%を切ったところでもジョージの「宇宙服の中に酸素がちょっとあるよ」の鶴の一声で切り抜け、なんとか見つけた衛星に噴射一発で命中を志すもギリギリ外れちゃってて、衛星にいくつかあるはしごの最後の1個につかまり、その後もヒモに絡まって裸一貫(宇宙服は着てるけど)で大気圏突入しそうになっても、最後のヒモ1本で助かる。なんか、毎度毎度、「最後の1個、最後の1本」が続いて、そこが怪しくて仕方なくなってしまったのだ。最終的には小指の爪先一本で惑星を破壊するのも驚きだ。ネタバレを防ぐためにちょっとだけ嘘をついてみましたが。
これほどあちこちで絶賛の声しか聞かない作品、今回ばかりは「そうでもなくない?」と言ってる仲間がいない気がしていたら、なんとかみつけた。ハイバイの公演にも出てもらっている俳優の師岡広明と、岩瀬亮だ。なぜこの2人の名前を挙げたかと言うと、寂しかったからだ。「なに文句言ってんだ、岩井!」という「岩井!」の部分を、少しでも分散させたいという気持ち、それだけではない。彼らは俳優だ。孤独の中、脚本と言う虚構に向き合い、撮影現場でも本番前にみんな、こちらの演技よりもアングルや音の調子を気にしてる冷静な空気の中、自分の信じた感覚を貫いて時には号泣し、時には号泣できなかったりと言う、精神的フルチンに身を投じなければならない職業だ。だからこういった「孤独だが、私は感じたのだ」ということを、身をもって体験して欲しいという気持ちが強い。師岡広明そして岩瀬亮。岩瀬くんは特に「ワンパターン」という言葉を使っていたと思う。僕はそこまで思わないけど、岩瀬くんはそこまで思っていたようだ。みなさん。
さて、みなさまにもこういったことがあると思う。「ずいぶんみんなが面白いと言ってるんだけど、自分は楽しめなかったよ」という映画。しかし映画に限らず、演劇、絵、音楽、多くの表現は、観る人の体調とか、心の状態でどれだけでも様子を変える。だから「楽しめなかったけど、自分の調子が悪いのかしら」と、作品のせいではなく自分のせいにして落ち着かせたりもするのだが、僕はそういう時、「自分の心の状態のせいかどうか」を調べるために観る映画がいくつかある。「モテキ」「ディパーテッド」などなど、自分が過去に観て「これ、ちょー面白い!」と思った作品だ。本当に自分の状態が悪ければ、そういった作品でも冷めて観てしまう。逆にかつて面白かった作品を変わらず楽しめれば、「やっぱりグラビティめ!」となれる。
今回試した結果、「やっっぱり!!グラビティイイイめえええ!」となれました。みなさまも試してください。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。 「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年5月24日公開の映画「青天の霹靂」出演中。「ゴッドタン キス我慢選手権THE MOVIE」DVD販売中!
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