シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。岩井氏出演映画公開にあわせ、ひと足お先にWeb更新!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.19 「ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE」

「キス我慢選手権」は、もちろん見たことがあった。そう、「神回」と言われる、みひろと劇団ひとりのやつだ。単純にキスを我慢しているが、それでいて恋人同士の設定を続ける、ちょっとしたエチュードの様な物だ。「キスしたい、でもしちゃうとイチャイチャが終わっちゃう」という空気が続いていたが、段々と、それどころではなくなっていく。みひろの設定が、すでに死んだものとなり人造人間としてよみがえり、生きていた頃のことを、まさに2人が体験したことのように思い出し、号泣しながら「でもキスはできないんだ!!」というところまで登り詰める。

テレビ越しにも、現場での「誰も制御できないし、何より制御したくない」といった空気が感じられた。設定のどこかまでは台本に書いてあるとは思うけど、かれこれ10分ほど続けられている、この、いつからかこの世に2人きりにでもなったようなやりとりは、絶対に台本にあるものではなかった。僕はゲラゲラ笑いながら涙を流していた。これは、ただのバラエティー番組じゃない。そんな存在の企画に呼ばれる気持ちというのを、誰かご存知か。「嬉しい」という気持ちは、はるか何万光年も後方にすっ飛び、台本まで渡されちゃった時には、その台詞ボリュームと責任ボリュームに恐れおののき、岸田戯曲賞受賞も全く無反応で過ごすはめになった。同時期にG2プロデュースの最終公演「デキルカギリ」とも重なって、当時「なんか、2つ同時だと逆に覚えやすいかも」と、絶対嘘なことを吹いていた。それくらいしんどかったのだろう。

そして、撮影が終わってから聞いたから良かったものの、プロデューサーから「みひろさんのはやりきった感があった。そして岩井さんを見つけたことで映画化の踏ん切りがついた」などという言葉は、お尻の穴から体の中の大体のものが出るくらいの衝撃で、ありがた迷惑にもほどがあるのだ。でも撮影は近づき、いつかそのギロチンの日と言うものは来るもんで、地獄の撮影は終了した。1泊2日だけど、精神的には40歳くらい年取った。なんせ台本はあるけど、相手(ひとりさん)が何を言ってくるか全く分からないのだ。現場でも、「この人のこの台詞は一体どこから湧いてくるのだろう」と感心してしまうくらい、ひとりさんは設定も何も知らないはずなのに、その場で一番熱くて、その場を一番押し進める言葉や行動をとる。なんじゃこりゃ。でもそんな悠長なことを言っていたらシーンを進められない。必死に殺し屋だ。テレビ版で殺されたはずだけど、男岩井演じる信太郎は、ギリギリにもほどがある立ち振る舞いで、なんとか物語に参加させてもらった。恐ろしい経験だった。でもあんなに自分のキャパシティーを超えなくてはできっこないことを、誰かにやらせてもらえる機会なんて今後、一生ないんじゃないかと思った。

みんな、見てくれ。「ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE」。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。 「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。ハイバイ10周年記念全国ツアー「て」が無事に終了。9月にハイバイ「月光のつつしみ」を控えている。6月28日公開「ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE」に出演中。http://hi-bye.net/

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©2013「キス我慢選手権 THE MOVIE」製作委員会

6月28日(金)よりTOHOシネマズ天神ほか全国ロードショー!
http://tvf-web.com/cinema3923