舞台をはじめTVドラマ等でも活躍中の女優・池谷のぶえさんのコラム。本誌と併せてお楽しみください!

vol.22

2020年というなんだかキリがいい数字に触発されてか、急に「引っ越しするならいまなのではないか?」という気持ちが芽生え、年明けから始動。あれよあれよとお家が決まり、明日はついに新居の鍵を受け取りに行きます。
が、しかし。寂しいのです…無性に寂しいのです。引っ越すことが。なんてったって、いまの家は、生まれて初めて一人暮らしをし、20年も住んでいた家なわけです。ひとりの赤ちゃんが成人しちゃう年月ですよ。ミルクからお酒ですよ。「バブ!バブー!」から「酒!酒ー!」ですよ。そしてその寂しさと、更年期とがセッションしたとき、人の身体には何が起こるかわかりますか? 言葉を記憶することができなくなるのです!映像の台本の、たった2行のセリフが2日かけても全く覚えられないのです。これはいよいよ来るときがきたか…今後セリフを全部カンペに書いてもらうわけにもいかない…そんなことが許されるのはよっぽどの大御所か、よっぽどのひょうきん者しか許されないであろう…さあ、もうこの仕事はできない身体になってしまった…どこに就職しよう…いや待て、新居は、20代終わりの貧乏な頃に住み始めた今の家賃の倍以上はかかる…どこに就職して暮らしていけばいいのだ…こんな不安ばかりが渦巻くものですから、ますます2行のセリフも入ってこなくなります。絶望的になりながら、試しに更年期用の鎮静剤を飲んで10時間くらい寝てみたら、すっかり回復してました。更年期かーーーい!! もちろん、生活環境が変わる不安とかもあったのでしょうけど、更年期かーーーい!! すごいな更年期、こんな症状も出るんですね。バラエティに富んでるなぁ。もうこうなったら、なんだって更年期のせいにして行こうと思います。ぜんぶ更年期が悪いんだ。
しかし、次に20年前を振り返る時は、70歳近くになるわけです。何をしてるんでしょうね、70歳の自分。とりあえず更年期は脱してるでしょうから、先のような恐怖体験はないでしょうけど、あちこち痛かったり、動かなくなってたり、しているんでしょうね。その時にこのコラムなんか見たら、「『めずらしく体調のいい日に』とか言っちゃってるし! 体調のいい日なんてないし!」とかブーブー言ってるんでしょうね。もしくは、もうこの世にいないかもしれないですし。こればっかりはわかりません。だからね、ちょっとやっときたいことがあったら、やっていかねばなりませんね。それで、引っ越しなわけですが。
まあただ、まだ何も荷造りできちゃいません。こんな時、結婚していたら旦那さんなり奥さんなりが少しでも進めてくれたりするのに…。一生添い遂げたいなんて贅沢はいいませんから、引っ越し前後の期間だけ引っ越し婚をしてくれる人がいたらいいのに…。

 

いけたにのぶえ/1971年生まれ、茨城県出身。俳優。幻の劇団「猫ニャー」出身。舞台を中心に活動中。

◎シアタービューフクオカvol.83掲載(2020.2発行)