舞台をはじめTVやCM等でも活躍中の竹井亮介さんのコラムが連載スタート!本誌と併せてお楽しみください!


vol.2
この季節、花粉症の私はマスクをして出かけます。インフルエンザの季節から考えると、数ヶ月に及ぶマスク生活。暖房の効いた電車に乗ると、顔の半分以上を覆うマスクのために、普段から暑がりの私なんかはシャレにならないほどの汗をかく始末。およそ15平方センチメートルのマスクが、こんなに鬱陶しいなんて…。
マスク、いや!もう、ほんとに、いや!!

先日、電車に乗っていたら、マスク姿の女性が目の前の座席に座ってて、なんだか気になってしまったんです。あまりジロジロ見ては失礼かと思ったので、チラチラと視線を送ってみることにしました。もちろん目の部分一帯だけなんですよ、見えているのは。おそらく、見えてない部分は想像で補ったのでしょう。気づけば、少しファニーなお顔だちの、完全に好みのタイプの女性に、脳内で仕立てあげていました。15平方センチメートルほどのマスクによって隠された部分が、これほどまでに夢があったなんて!まさに、15平方センチメートルの神秘!

万が一、先方が私のマスクで隠されてる部分に神秘を感じ、好みのタイプに仕立てあげてくれていたら、それはもう、両想いと言ってもいいんじゃね?そんなことすら思ってました。
おお、マスク姫よ!電車を降りるまでに、そのベールに包まれた神秘のお顔を見せておくれ!
とはいえ、マスクをしている人が電車の中でマスクを外すところはあまり見かけないし、私だってそうそうマスクを外したりはしません。この電車には15分ほどしか乗らないので、半ば諦めていました。
ところが、です。その時は、ふいに訪れました。
マスク姫が、飲み物を飲もうと、カバンからペットボトルを取り出したのです。えっ!マスクしてたら飲めないよー!どうすんの?マスクを下にずらして飲むの?マスクの下側を上げて飲むの?でもそれだと鼻一帯だけがマスクで隠れて、ちょっとおもしろい状態になっちゃうよ?でも、そういうのも嫌いじゃないよ〜!私の頭の中では、そんな調子づいた声がこだましていました。するとマスク姫は、なんの迷いもなく左耳から右耳へと驚くほどスムーズに、美しい所作でマスクを完全に外してみせたのです。
おそらく私の半生で、もっとも早く願いが叶った瞬間でした。同時に、私の愚かさが露呈した瞬間でもありました。

マスク姫よ、貴女は少しばかり美しすぎた!
美しいお顔だちでしたが、期待していたそれではなかったのです。そりゃそうですよ。46年間生きてきて、想像した通りになったことなんてありませんもの。15平方センチメートルの神秘だのマスク姫だの言ってた自分を、コテンパンにしてやりたいです。
あぁ、人生って難しいですね…。

●たけい りょうすけ/早稲田大学在学中は、劇団「木霊」で活動。卒業後は様々な舞台を経験し、1999年、コントユニット親族代表を結成。ぽっちゃりとした見ためを活かした朗らかなキャラクターを演じると、場を和ませ、画面が一気にあたたか味を帯びる。その安定感は、各方面の監督からも信頼が厚い。

◎シアタービューフクオカvol.77掲載(2019.2発行)