『TAP THE LAST SHOW』水谷豊監督×岸部一徳×HIDEBOHインタビュー

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ショウビジネスの光と影、成功と挫折、華やかなスポットライトと受け継がれる魂。水谷豊が40年思い続けた夢が、ひとつの映画となった。

本作で初監督を務めた水谷豊、監督たっての希望で劇場オーナー・毛利喜一郎を演じた岸部一徳、劇中のタップダンスを監修した現役タップダンサーのHIDEBOHにインタビュー。

◆この映画を作るきっかけは?

水谷豊監督:気がついたらその思いが生まれていた、というのが正直なところです。タップをテーマにして、タップダンサーの生活と共にタップダンスのショーまでを描くことを思い始めたんです。なぜそう思ったのかと考えた時に思い出したのが、チャップリンでした。子供の頃、好きだったチャップリンが、まるでタップを踊っているように見えていたということと、後に観たハリウッドのフレッド・アステアやジーン・ケリーの作品を、後にリバイバルで目にした時に、全部がひとつの同じ世界に見えたんです。それが僕の中で、いつかタップダンスの映画を作りたいと思うようになったきっかけですね。

◆撮影中に苦労したことや、タップダンスをテーマにした映画を製作したことで気づいたことは?

水谷豊監督:苦労は何もなかったんです。ただ、一般の方はタップというとタップダンスを思い浮かべると思うんですけど、まさかあれだけの多くの曲に対応できるダンスだとは、イメージしていなかったのではないかと思います。HIDEBOHさんに参加して頂いて、素晴らしい、僕のイメージ以上のショーにしてくれたなと思っています。

◆HIDEBOHさんは、水谷監督からのリクエストをどのように形にしていこうと考えられていましたか?

HIDEBOH:実は、監督が手書きで書かれた明確な演出書が、我々のバイブルとしてあったんです。起承転結が描かれていて、かなり細かくイメージされていました。そこにジャンルを問わず世界の音楽を織り交ぜて、そこまで構成されていました。ですから私達はその演出の中で自由に振りを作らせていただいて、楽しみながら作っていきました。自分たちでは到底思いつかないような、シーンを作らせていただきました。僕はタップダンスのことはわかりますが、タップを使ったシーンのイメージまでは思い描けなかったんです。監督の演出によって、タップダンスの域を超えて行っているというか、この映画でそういう経験をさせていただきました。

◆水谷監督は、どのようなポイントで俳優とダンサーをキャスティングをされましたか?

水谷豊監督:最後まで迷ったのはそこでした。メインの役をタップダンスができる役者さんにやってもらうのか、もしくは芝居はやったことがないけれど本物のタップダンサーにやってもらうのかを悩んでたんです。100人以上オーディションでタップダンスを見せてもらいましたが、正直いうと明確な差は見た目以外に違いがよくわからなかったんです。あるオーディションの時に、同じ俳優さんを見ていて、僕はA判定をつけたのに、隣りにいるHIDEBOHさんを見たらC判定になっている。それをみて「俺は何を見てるんだろう?」と思ってしまって(笑)。その時に、HIDEBOHさんが仰っていたのは、どれくらいタップの経験があって、どれくらいの期間でどのレベルまでたどり着けるのかが解るそうなんです。そこから僕は採点しなくなりました(笑)。そこで最終オーディションの日に、HIDEBOHさんのお弟子さんたちがオーディションに参加して下さいました。彼らのタップを見た時に、僕が思い描いていたものだ!と思って、そこで迷いは吹っ切れました。それがMAKOTO役、RYUICHI役をやってくれた清水夏生くんとHAMACHIさんでした。

◆岸部さん、HIDEBOHさんから見た水谷監督はいかがでしたか?

岸部一徳:とても明解、明確な監督です。長い構想の中で、映像的なことも含めて、水谷さんの頭の中に具体的なものがあったんじゃないかと思います。そこが明確にあるので、シーンを撮る時に、同時にカット割りも考えているのかなと思いながらやっていました。だから演じる僕も監督に対しての迷いは全然なかったですね。どうしようかな、とか、大丈夫かな?とか、そういう素振りすらなかったです。演じる側からすると、それは安心感であり信頼感でもありました。何十本も撮っているベテラン監督みたいな……それはちょっと言い過ぎかな(笑)そんな感じでした。

HIDEBOH:ダンスのシーンもそうでしたけど、全部明確で、迷いが一切ないのが解るんですね。なので、私達は渡さんという主役の方がどこにいたかは解らなかったですね(笑)。監督としてずっと見てましたから、撮影はされているんだけど、いつ渡さんが現れたのかは全然わからなくて、マジックみたいな感じでした(笑)。でも映画が出来上がったら、ちゃんと渡さんが出演されていて、そこが不思議でした。

◆監督と俳優を切り替えるのは大変だったのでは?

水谷豊監督:切り替えはしてなかったですね。ただ、渡がショーを観ているシーンは、全部撮り終わった後にアップを撮る指示をするのを忘れてたと思い出して、カメラマンに「俺はいいから、渡のアップをふたつ撮っておいて」って思わず言った後に我に返って恥ずかしくなりました(笑)。「僕のアップを撮って」と言えなくて、俺はいいからってつい言ってしまったのは覚えていますね。

◆監督をやって初めて見えてきたものはありますか?

水谷豊監督:スタッフの才能ですね。俳優の時も、素晴らしいスタッフだなとは思っていましたが、そこまでスタッフとお付き合いをすることはなかったんです。撮影前のロケハンから始まって、美術、衣裳など全ての打ち合わせをするんです。それも初めての経験で、それをやってみて気づいたのは、いかに才能を持ったスタッフが集まっているのか、ということです。反対にスタッフ側として役者さんを見ていると、役者さんも大変だなと。朝入って、撮影の準備が整っている間、雑談しながら待つのですが、雑談の最中も、その日やることをずっと考えているのが解るんですよ。でもその集中力を一日中続けている役者さんもまた、大変だなとも思いました。

◆この映画で伝えたかったことは?

水谷豊監督:今回はタップダンスがテーマなので、タップダンサーですけど、役者も含めパフォーマーとしていつかスポットライトを浴びたいと思いながら続けるんです。だけど、そこへは簡単にはいけない。生活もあるので仕事もしなくてはならない、だからバイトをやらなくてはならないというのが若い時には多かれ少なかれいろんな方が経験することなんです。なので、ダンサーとしての生活を描きながらいつかスポットライトを浴びる夢を見る若者を描きたいと思いました。もうひとつは、映画を撮る一年前に、岸部一徳さんに声を掛けさせていただきました。なので、毛利喜一郎という役は岸部一徳さんが演じる前提で作っているんです。役があるから一徳さんにお願いするのではなく、一徳さんが出演をOKして下さったので、あの役ができました。一徳さんが演じた毛利という役に、何歳になっても、もう一度華々しい夢は見たいものなんだ、という思いを託しました。
そしてもうひとつ。30代の頃、僕はブロードウェイでダンスに別世界に連れて行かれて涙が止まらなくなったという経験があります。そういう映画を作れないだろうかと思ってこの作品を作りました。なので、この作品には本当にたくさんの思いが込められています。

T・ジョイ博多、ほかにて公開中!

【監督】水谷豊
【出演】水谷 豊、北乃きい、清水夏生、六平直政/前田美波里、岸部一徳

http://www.tap-movie.jp/

 

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