DDシアター 土田英生×川口大樹 対談

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DDシアターとは、公演団体にドラマドクター(DD)としての表現(脚本・演出)に対するアドバイザーを選定してもらい、創作の過程でドラマドクターから様々な表現に関する助言をもらいながら一つの公演を作り上げるというもの。今回のドラマドクターは、演劇界でも、映像でも活躍するMONO主宰の土田英生氏。アドバイスをもらうのは、福岡で活動する万能グローブガラパゴスダイナモス作・演出の川口大樹氏。そのお二人にDDシアターについて語っていただきました。

川口
ドラマドクターのオファーを受けてどう思われましたか?

土田
いい企画だと思ったんですけど「ドクター」という名前がなんか偉そうじゃないですか? 普通はドクターの言うこと絶対でしょ。医者だから(笑)。そういう絶対的な存在になるのは嫌だな、と思ったんです。なんだか偉そうに入り込むのも嫌だし…。しゃしゃり出て偉そうにここが違うよとか、そういう風にはなりたくないと思いましたね。でもね、それじゃ断れるのか、というと断れない(笑)何故かというと「遠州の葬儀屋」も一緒にやっているしね(笑)。だからまあ、知り合った人が僕を指名してくれて、それで何かの助けになるなら使ってくれってくらいな感じだったんです。川口くんが要望してくれるのであれば、やるけどっていう。積極的に僕が「よ〜し、川口を鍛えてやるぜ!」みたいな風に思われるのは絶対嫌なんです。ちょっとそこには引っかかりがあったけど、相談相手になれればいいかなくらいな感じですね。

川口
とりあえず、一回脚本を読んでもらったじゃないですか。「惑星クレイジー」とかを。どうでしたか?

土田
面白かったよ。言葉の選び方とかがすごい面白くて、笑いに長けてるなと思ったし。会話で笑わせるって、たとえば突っ込みの言葉ひとつにしてもベタ過ぎちゃダメだし、引っかからなすぎても笑えないし、どんな言葉選びをするか、みたいなことはスゴく大事だと思うんですよ。そういうセンスはスゴくあるなと思いましたね。この場面でこういう言葉を選ぶと面白いよね、って共感することも多かったし、笑いに関しては共通項も感じたんだけど、でももうそれが出来てるんだから、そのまま突っ走ればいいじゃん、とも思ったね。わざわざ僕が何かを言うことも無いんじゃないかなと。

川口
土田さんの本もそうなんですけど、先生っぽいというか、一人の作家の先輩として土田さんって生々しいというか。。。

土田
それあんまり褒め言葉になってないよ(笑)

川口
本を書けないところの苦しみみたいなものとか作家としての苦しみみたいなものが、なんか生々しく感じたというか。そういう部分があるから土田さんにお願いしたいなと思ったんです。

土田
だからドラマドクターじゃなくても良かったんだと思うんですよ。ホントのことを言えば近所に住んでいれば台本持って遊びにくりゃ済む話だしさ。「本書けてる?」「いや〜それがねぇぇ」「ちょっと見せて」みたいな会話出来ればいい話でしょ。

川口
そうです、そんな感じ。

土田
だから僕はそういうつもりでいます。場所も離れているし、気軽にも出来ないから、こういう企画を使って、そういう関係を続けられるのであればいいかな、みたいなね。

川口
僕もそうありたかったなっていうのはあったんですよ。

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■川口さんは今回土田さんから何を得ようと思いますか?

川口
以前京都でお会いした時に話したんですけど、その時土田さんが、君は玄人っぽい、落ち着いた感じでいきたいのか、みたいな話をしましたよね?

土田
玄人っぽいというか、単純にエンターテイメントとして、とにかくオレら売れるぜ!っていう風にやりたいのか、もうちょっと着実に行きたいのか……。簡単に言うとメジャーメジャーになりたいのか、マイナーメジャーになりたいのかだと思うんだよ。僕は着実路線なんだよね。ずっとマイナーメジャーを目指して来ているつもりなんですよ。マイナーマイナーってのはまず駄目だよね。誰にも振り返ってもらえない。だけどね、格好悪いのはメジャーマイナーだと思うんだよ。メジャーを目指しててマイナーで、志向だけがメジャー志向で派手そうにやっているのに、面白くないし、お客さんも入ってないしみたいなのが一番悲惨。チケットの手売りだけはどんどんやって、なんとか見栄えだけ整えてるみたいな劇団が一番哀しいでしょ。僕は、MONOの芝居自体、何万人も入る芝居になる訳がないって最初から覚悟してたから、もう最初からマイナーメジャーを目指そうと。知る人ぞ知る集団でいること。例えばクラスで浮いてて、仲が悪かった二人が「お前MONO好きなんだ?」っていうのがきっかけでスゴい友達になるみたいな(笑)。「MONOが好きなやつなんて初めてみたよ」とか、そういう感じが理想だった(笑)。だからそっちの派手な路線に行きたいのか? まあ、だったら僕には相談をするなっていっただけなんだよ(笑)。もっと活躍している派手な人の方が適任だよって思う。

川口
僕はそんなことさえもはっきり意識していなかったから、その話を聞いた時にもピンと来なかったんです。僕の笑いはどちらかというとドリフ的な匂いが強いというか、そういうものが割と好きというか。出入りでバタバタとするような要素が多かったから、そうじゃない部分の土田さんが描く、大人がしょうもないことで喧嘩してそれが面白い、みたいなことに自分が興味を持ったこと自体が新鮮だったんです。その要素が欲しいなって自然に思ったんです。

土田
川口君も歳をとって来たのかもしれないね、すこーしだけ。

川口
それもあるかもしれないですね。あまりにも単純な笑いにはちょっと飽きて来たのかもしれないですね。これまでやって来た事じゃなくて、逆に違う笑いを取り入れることでもっと何か無いのかなって。

土田
でもね、心配しなくても自然と笑い減っちゃうんだよね。

川口
そういうもんなんですかね。

土田
やっぱり気づいていっちゃうんだよ。今、MONOの新作の稽古をしていても感じるんだけど、ああ、前はここに突っ込みが入ってたなって思う部分に、今は一切入ってないんだよ。だからその部分ではお客さんは笑わない。こんなこと言ったら偉そうに聞こえちゃうけど、とにかく笑いを取ろうと思ったら、笑いは取れると思うんだよ。ちょっと突っ込み台詞を入れれば、お客さんの笑いどころはつくれる。あまりにも寂しいとちょこちょこと演出で、そういうものを入れることはあるんだけど、歳と共にそのことに面白味を感じなくなって行く。岩松さんなんかみているとそう思う。僕は岩松さんのファンなんだけど、一般的に観たら今はかなり難解だと思われてるでしょ? でもあの人はすごく笑いのセンスがある人で、一般的に笑えるものも書けて……。で、岩松さんの刺激となるものを書き続けて来たんだと思うんだよ。それであそこまで行っているっていう。今ね、十八歳の人があれを観ても中々笑えないでしょ。だからそれは年齢とともに少しね、そうはなっていくと思うよ。

川口
それはそうかもしれないですね。昔の自分の書いた本を読むと、ちょっとこれ、ここまでしなくてもいいのにって思うことがありますね。

土田
そう。それがどんどん増えてくるのと、お客さんも残念ながら少しずつ歳をとっていくんだよね。そうすると前だったら、すぐに笑ってくれていたものが、すぐには笑ってくれなくなる。そうするとこの笑いはもうやめようかなってね。そういう感じにはなるね。

川口
それってある程度、年数ですか、それとも書いた本数ですか?

土田
何だろうね。お客さんの前に作品を晒した数かなあ。

川口
土田さんはどの辺から変わって来たんですか?

土田
僕の場合は劇団始めて5年くらいは全部練習期間だった気がしますね。だから10本くらいはやらないとね、そこからがスタートだなって感じはしてますね。これただの対談になってますけどいいですか?

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■ではちょっと質問を。コメディーって個性を出すのがスゴく難しいと思うんですよ。いろんなタイプのコメディーがありますが、それについてそれぞれどう思っていますか?

土田
ああ。川口くんはなんでお笑いが好きなの?

川口
僕は子どもの頃から演劇は観たことがなかったんですよ。演劇ってダサイって印象がスゴい強かったんです。嫌いだったんですけど、高校の演劇部にたまたま誘われて観に行った芝居が面白かったんです。笑えたんです。当時は演劇=笑いという概念が一切無かったから、その時に演劇って笑ってもいいんだなって思ったんですよ。その刷り込みがものすごく強くて、だから笑わない演劇というのが、高校生の頃とかは苦手だったんですね。そういうのを持ったまま自分の劇団とかやるようになってきたんです。最初に観たのが劇団☆新感線の「ドラゴンロック」とそとばこまちプロデュースで「漫画の夜」っていう、渡辺いっけいと生瀬勝久の二人芝居がシチュエーションコメディーで、それ観た時にすごい面白いなって思ったんですよ。コントでもないし、新喜劇的なものでもないし。パズルチックな構成と言うか、、、

土田
いわゆるシチュエーションコメディーっていう概念がその時はないけど、始めてその時に触れてってことだよね。

川口
そのときにすごくおもしろいなと思ったんですね。第一印象で。

土田
じゃあ、自分では笑いが全然無いものはやろうと思わないんだ?

川口
全くないものって言うのは、まだちょっと考えたことはないですね。

土田
一本やってみたら面白い気がするけどね。それはそうしろって勧めている訳ではなくて、笑いが無くてもいいや、みたいな作品を一本書いてみたら、もしかしたら全然違う世界が広がるかもしれない。俺も笑いは好きなんだけど、取立てて「コメディーです」って標榜しないのは、これが笑いだって言い切ることが途中で怖くなって来ちゃったんだよ。別の集団でコントもやってたから、その時はコントだから“笑い”って言ってやってたんだけど、笑いってずっと時代のエッジを行ってなきゃいけないみたいな部分があるでしょ? 古い笑いはやりたくない。それってすごいしんどいことだよね。だから純粋に笑いを作るより、演劇で笑いを取る方が楽だと思った。キャラクターがあるし。キャラクターが面白ければ、意外と疲れずに笑いを盛り込める、みたいなのがあったね。だからあえて僕が作る芝居は笑いじゃないって言っているだけで、今でも笑って欲しいと思っているし。それに、いかにも笑わそうっていうのはあんまり好きじゃなくて、笑えてしまったけど、あそこ笑っていいんですか?みたいな感じがいい。最近、40歳を超えてさらに“笑い”を堪えて観てくれてるお客さんが好き(笑)。芝居の雰囲気としてまじめにずっとやっていて、笑っちゃいけない空気にしておいて、わざとそこに変な台詞を入れるとするでしょ、深刻な喧嘩の中とかにね。そうすると、笑っちゃいけないのに笑える空気になる。あれが好きなんだよね。あそこ笑っていいのに、って後で言うのが好き(笑)。でもそうやって本を書くくせに、自分がそれを演じようとすると、ついつい笑いを取ろうとするんだよね。でも笑いって毒なんだよね。一番わかりやすいお客さんの反応だから。

川口
だからどんどん怖くなって来ちゃう。笑いがあることがよりどころになってくる、みたいな。脚本を書いてても芝居を実際にやってても。変な話、笑いが無い芝居をやろうとしたら、何をよりどころにしたらいいのか全然わかんないみたいな。

土田
たぶん、川口くんたちがね、今後ぶつかっていくであろう事は……今よりももっとものすごい評判の劇団になるでしょ? ガラバは絶対笑える、みたいになってくる。そうするとだよ、幕をあけるでしょ、役者が出て来ただけですぐお客さんは笑う。ホントに。いやいや、笑う場所はそこじゃ無いんだって。出て来て驚いて次の台詞を言うところが面白いんだよ、ってこちらは思っているのに、出て来ただけでお客さんが笑って、本当に笑わせたい所がかき消される。……これに苦悩するね(笑)。出て来ただけで笑いをとる劇団になって行くか、やっぱり中身で笑わせる事をやっていくかってところが、メジャーメジャーとメジャーマイナーの境目にもなっていて、僕の芝居だって昔はもっと笑いが多かったんですよ。最初は5分に一回くらいはどっと湧かせるって言って、芝居を作っていたんだけど、見事に全部笑ってくれるようになる。そうすると、最後の方に、ここは笑いの台詞じゃないんだってところまでお客さんは笑うんですよ。どう考えても笑えない状況でもね。そういうことがあったから、もう笑いは取らないっていって、それこそ、一回笑いを静めてやろうと思った。で、笑いのあまり無いものをやったんだよ。するともう一度笑い狙って思って芝居を創っても今度はお客さんが笑わなくなっちゃったんだよ。これホント、お客さんって悔しいね(笑)。お前らあんなに笑ってたじゃん!って思うんだけどさ(笑)ちょっとそういう笑いの無いことをやって、元に戻したのに、もうお客さんは笑わないの。そうすると僕らは再演を一生懸命して、受けたときの作品をやろうと必死になるんだよ(笑)。でもね、やっぱり前よりは笑わなくなってるの。お客さんがそこでバッと離れるんだよね。でも僕自身はそれで良かったと思ってるし、その事によって、より自分の興味に近いお客さんが増えて来たから、自分がホントに面白いと思ったところでお客さんも笑ってくれるしね。それで良かったと思っているんだけど、お笑いはやっぱり人気が出た所で寿命が来ちゃうよ。みんな笑いが嫌になるっていうのはそこでしょ。だから、今が一番楽しいんだよ。面白い事をやったら笑うし、面白くないとちょっとシーンともするし、あ〜あそこ受けなかったな、とか言っていられるのも今のうちだと思う。そのうち、何でも笑うな〜と思って悩むか、全然笑わなくなって笑うかどっちかの道を歩む事になる。

川口
なるほど。僕としてはあんまり出てくるだけで笑うとかはちょっと嫌ですね。

土田
だからそれをどうあがくかですよね。

■そうならない為のドクターじゃないんですか(笑)

土田
そうですね。。。じゃあ、僕の失敗を活かして、でも時々ほんとにしんみりさせる、しんみりって言うのは喜怒哀楽だけじゃなくて、心にささるとかの、ね。だから笑いの無いものが欲しいって言っていたのもそこだよね。そういうものがたまにちゃんと混じってると、別にそこは目的じゃないし、それを見せる為に笑いを持って行きますって風にするんじゃなくて、ただそういう事を描いていく事でお客さんは面白いところではちゃんと笑うし、面白くないところでは黙るっていう風になると思うんだけど。今のままだと、とにかく次の笑いはいつだ、みたいな構造になっているから、これでいくと最後は馬鹿笑いになる。口を閉じない観客が増えてしまう。最初からさあ笑うぞ、みたいな(笑)。そうなるとね、なんにも楽しくなくなっちゃうんだよ。何やっても笑われるもんだから、何にもやれなくなっちゃう。そうなってくると芝居もしんどいよね。それはドクターでもうまくいきませんでしたね(笑)

■上手くいかなかった事を教えてもらって、それは避けていくと(笑)

土田
そして、僕らを押しのけていったらいいんでね(笑)。
ただ、お客さんって、時間かかって戻ってくるもんだなっていうのもわかった。最近MONOのお客さんも前よりはちょっと笑ってくれるようになった気はするんですよね。まあそれは日によっても違ってきますからね。

■ドクターは演出もドクターをされるんですか?

土田
それが難しいところでね、せっかくだから劇団のメンバーとも親しくなりたいし、役者とも関わりたいけど、そこは川口くんという演出家がいて、椎木くんっていう座長さんがいてやってる劇団なんで、そこを飛び越して何かやるってことは一切無い。だからそういう部分で何か思うところがあるとすれば、それは個人個人にしか言わないと思います。それはね、僕が口出ししてはだめだと思うんですよ。役者は演出家をみないといけないし、劇団は椎木くん中心にまわらないといけないと思うから。だからその時は、ちょっと親しい人みたいなスタンスで、元劇団員扱い、信頼の置ける友人みたいな立場で(笑)。そんなポジションでいたいと思いますね。

川口
確かに土田さんに演出までみていただくと作品がぶれちゃいますよね。僕もぶれちゃうし、役者もぶれちゃう。

土田
扱いも難しいよね。そこまで口を出し始めたら、もう僕を劇団員にするしかないもんね(笑)。

■じゃあ基本的には本をってことですよね。

土田
僕は基本的に川口くんがやりたい事を聞いて、愚痴を聞く相手にはなろうと思ってるんですけど、創作以外にも劇団活動って疲れる事が多いんですよ。だからそういう外の部分では僕らの経験から堂々とアドバイスをさせていただきますし、その辺は伝えていきたいなと思いますね。

川口
それもあるとホントにうれしいですね。そんなこと言ってくれる人いないですから。

■じゃあ、最後に。。。

土田
最後にしめるとしたら、やっぱり僕は強いドラマドクターになりたくないですね。ドクターがイエスマンみたいな感じで(笑)。

 

 

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5周年記念プロジェクト第2弾
万能グローブ ガラパゴスダイナモス 第8回公演
ぽんプラザホールDDシアター参加作品
「ボスがイエスマン」

■公演日/3月12日(木)〜16日(月)★12日は土田氏を迎えてのアフタートークあり
■作・演出/川口大樹 ■ドラマドクター/土田英生(MONO 代表)
■出演/石橋整、椎木樹人、多田香織、どん太郎、松野尾亮 、横山祐香里、阿部周平、眞島左妃(グレコローマンスタイル) 他
■料金/1,800円 ※当日200円増 ペア券 3,000円 高校生以下500円
    5人割(限定先着200組)5,000円 (全席自由)
〈電子チケットぴあ Pコード〉392-440 ★Pコードクリックでチケット購入できます
〈ローソンチケット Lコード〉88358
 e+(イープラス)
 ピクニック(郵送販売)
■お問い合わせ/パブリックチャンネル 092-283-6155
 ※未就学児童のご入場はお断り致します。

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