8/26公開『君の名は。』神木隆之介×上白石萌音×新海誠監督インタビュー
『秒速5センチメートル』(07年)、『言の葉の庭』(13年)など意欲的な作品を数多く作り出してきた気鋭のアニメーション監督・新海誠の最新作。 精緻な風景描写とすれ違う男女の物語を、美しい色彩と繊細な言葉によって紡ぎ出す“新海ワールド”は、世代や業界、国内外を問わず人々に大きな刺激と影響をおよぼしてきた。
待望の新作となる『君の名は。』は、夢の中で“入れ替わる”少年と少女の恋と奇跡の物語。世界の違う二人の隔たりと繋がりから生まれる「距離」のドラマを圧倒的な映像美とスケールで描き出す。そして、主題歌を含む音楽は、その唯一無二の世界観と旋律で熱狂的な支持を集めるロックバンド・RADWIMPS。誰もが経験したことのない、アニメーションの新領域。新たな“不朽の名作”が誕生!
声の出演として、三葉が夢の中で見た男の子・瀧役をつとめた神木隆之介、オーディションで三葉役を射止めた上白石萌音、新海誠監督にインタビュー。
■脚本の着想は?
新海誠監督
小野小町の、夢の中で愛しい人を見たという和歌が着想のきっかけのひとつでした。そこで、まだ出会う前の男女を夢の中で出会わせるというとこから物語の形を作っていき、“男女の入れ替わり”を入れようと考えました。入れ替わりもので、コメディーで、ということは最初の時点で決めたのですが、それだけだと2016年の映画として新鮮味がない。新しいものを観たという気持ちにはならないだろうと思って、そこに僕自身が生活していて感じる昨今の日本の状況の変化や起こった出来事、さらにこうであったらいいのにという願いを込めて物語を作っていきました。かといって、深刻なことを描くのではなく、エンターテイメントであること、コメディーであることをテーマに作りました。さらに予想させずに、かといって観てくださるお客さんを置いていかないストーリー運びに心血を注ぎましたね。
■神木さんは以前から監督作品のファンだそうですが、オファーを受けた感想と瀧という役をどのように感じられましたか?
神木隆之介
最初に声を聞かせてもらいたいと監督からお話を頂いた時は、信じられないくらいうれしかったですね。前作の「言の葉の庭」は何度も観ていて、早く次回作ができないかなと思っていたくらいです。まさか新作に携われるとは思っていなかったので、うれしさもありましたが何よりも驚きの方が大きかったです。瀧という役については、今回は男女の入れ替わりがあるので、瀧の中に三葉が入った時の声をどう表現したらいいか、どれくらいカラフルな声にしたらいいか、どんなテンションで話したらいいか、など監督と毎回相談しながら演じさせていただきました。
瀧という男の子は特殊な能力を持っているわけではなく、本当にごく普通の高校生なんです。でも人との関わり方や考えていることに、とても共感しながら演じることができたので、役作りを特に苦戦することはなかったです。共感できることが多かったので、自分の感覚と瀧の感覚を繋いでいくという感じで役作りをしました。
■監督作品のどんなところが好きなんですか?
神木
「秒速5センチメートル」という作品がすごく好きなんです。もちろん他の作品も大好きなのですが、監督の描く作品は、人間同士の距離感というのがとても繊細に描かれているんです。それがどうしようもなくもどかしい(笑)。距離が近くなったかと思えば、遠くなったり、どうしようもできない思いや、切なさがあり、キャラクターたちの心がどこか満たされていない。何かを求めてただひたすら走っているけど、それが何なのか、どうなっていきたいのかが解らないもどかしさがある。そういう部分が好きなんです。そういう話を(RADWIMPSの)野田さんにした時、「もどかしいのが好きなんだね」と言われました(笑)。
■上白石さんはオーディションを受けられてキャストに選ばれた時の感想はいかがでしたか?また三葉という役についてどう捉えましたか?
上白石萌音
オーディションに伺う前に、仮の台本とビデオコンテを頂いていて、それを観た時からこの作品と三葉という女の子のことが大好きになってしまいました。オーディション中は監督と台詞の掛け合いをしたんです(笑)。それもとても楽しい時間でした。かといってオーディションで手応えがあったかというと、そうでもなくて……。結果をいただくまでに3~4週間時間があったんです。最初の方は少しは希望を持っていましたけど、時間が経つにつれて自信もなくなっていって、最後は映画を観るのが楽しみだな~という気持ちでいたんです。そんな時に合格の連絡が来たので夢かと思いました (笑)。三葉として台詞を言えるんだ、あの美しい風景の中で生きられるんだと思ったら、本当にうれしくて、幸せでしたね。でもそれと同じくらい、この素敵な女の子を私が演じていいんだろうか、男女の入れ替わりを演じきれるんだろうか、という不安もたくさんありました。その不安を埋めるようにたくさん準備をしてアフレコに向かったのですが、始まる前に監督から「三葉を自分だと思って演じてください」と言っていただいたんです。それまではいかに三葉に近づけるか、と考えていたので、自分のままでいいんだと思った瞬間に気持ちが楽になり、リラックスしてアフレコに向かうことが出来ました。監督の一言に最後まで支えていただきました。
■監督はこの二人でなければと思った理由はどういったところですか?
新海監督
上白石萌音さんは、オーディションの日に、すでに僕の中では決めていました。当日に決めてしまったくらい、声を聞いた瞬間にお願いしたいなと思いましたね。声そのものの情報量がすごく多いですし、声の透明さの奥に真っ直ぐな感情が透けて見えるなと思いました。役者さんというのは、声だけでなく全身でお芝居をするので、声自体にそこまで情報量がなくても動きや表情で表現することができますが、アニメーションの場合は、もう少し声に個性が必要なんですね。そういう意味で、神木さんもそうなんですが、萌音さんは普通の人よりも声に情報量が多いと。かつ、三葉そのものみたいな雰囲気を僕は感じたんです。木があれば登りそうで、元気な田舎育ちで神社の階段で何か叫びそうな(笑)。なるほど三葉ってこんな子なんだって思わせてくれたんです。それもあってほとんど即断でした。
神木さんは、僕からやっていただけませんか?とお願いしに行きました。この作品を象徴してくれるのは神木さんしかいない、と思いました。男女入れ替わりの話なので、普通の高校生としての瀧も必要ですけど、女の子になった時の瀧も必要なんですよ。なのでかわいらしさと凜々しさが並び立っていないといけない。それを存在感として体現している役者さんは男性だと僕は神木さん以外思いつかないし、神木さんならば絶対にいいものにしてくれると思いました。初めてお会いして、声を聞かせていただいたら間違いない、とそこで確信したので、その時にお願いできませんか?という話をしました。
■監督の作品は美しい風景描写も魅力的ですが、画づくりで大切にしていらっしゃることはありますか?
新海監督
アニメーションって、まずはキャラクターですよね。取り囲んでいる風景や、情景、人々などを含めて、そのキャラクターになるんだと僕は思っているんです。ですので、僕の作品のキャラクターはロングのカットが多くて、後ろ姿で風景の中に佇んでいるみたいなシーンが多いんです。それは彼らを取り囲んでいる全てがキャラクター像になると思っているので、そういうものを感じさせる風景を描きたいと思うし、美しい場所にキャラクターがいたら、キャラクターも美しいと思う。だから風景描写を美しいものにしたいという気持ちが強いんだと思います。
■今回は監督たっての希望で、映画の音楽をRADWIMPSにお願いされたそうですがその理由は?また野田さんにどんなリクエストされたことはありますか?
新海監督
実は単純に好きだったということはあります(笑)。プロデューサーに音楽どうしたい?と聞かれたので、好きなのはRADWIMPSだって答えたんです。僕はプロデューサーが好きな音楽の傾向を聞いていると思っていたんですよ。そもそもRADWIMPSにアニメーションの音楽をお願いするという発想もなかったので。そしたらプロデューサーが野田さんに繋いでくださったんです。その時に(RADWIMPSに音楽を作っていただくことの)可能性がゼロではないのかと考えた瞬間に、もう彼らとやれる、みたいな気持ちになっていました(笑)。野田洋次郎さんにお目にかかったときは、お互いにすでにやるつもりだったと思います。
野田さんには、ある部分では音楽でキャラクターの心情を語るような映画にしたいと最初にお話をしたと思います。BGMではなく、台詞に取って代わるような音楽。台詞があって音楽があって、台詞がある。ある種ミュージカルのように見えてもいい。それくらい音楽が過剰な作品にしたいというお話をしたと思います。でも具体的に僕がなにか出来るわけではないので、そういうイメージでの話しかできなくて、なので脚本をお渡しして後は野田さんに委ねました。その脚本の応答として、洋次郎さんが「前前前世」「スパークル」という曲を最初に書いてくださったんです。それは脚本が誰かに宛てたラブレターだとしたら、あるいは作品がラブレターだとしたら、こんなにうれしい返信をもらったことがないくらい最高の返信でした。本当にうれしいラブレターの返信でしたね(笑)。
■その音楽も入って、全編を通して映画をご覧になっていかがでしたか?
神木
ゾッとしました。それくらい感動的でした。作品中にRADWIMPSの歌が4曲入っているのですが、それぞれの歌が映画全体の起承転結を現しているなとも感じました。一番最初のオープニングの曲では何かが始まる予感、なにか胸騒ぎがするような感じがありますし、「前前前世」は今、物語が動き出したんだな、というような感じがありました。それぞれにテーマがきちんと伝わる曲だなとすごく感動しましたし、だからこそ歌詞と映画の物語と、そしてメロディーが重なって感動するんだと思います。
上白石
私もRADWIMPSが大好きだったので、なんて素敵な曲なんだろうって。もちろん映画のために書かれているので、映画のための音楽なのですが、音楽のための映画でもあるような気がして、ふたつが同じくらいの大きさをもって、観ている人に訴えかけるような感じがしました。あるシーンでは三葉や瀧が言わないことを、(野田)洋次郎さんの声が伝えてくださったり、こういう気持ちなんだなというのを歌詞から知ったこともたくさんあります。他の映画で聴くよりも歌詞がダイレクトに伝わって来ましたし、(歌詞も)台詞だなと。とても素敵な曲ばかりで早くCDが欲しいと思いました。
新海監督
(野田)洋次郎さんの歌詞に教えてもらったこともたくさんありました。「スパークル」という曲の中に、“美しくもがくよ”という歌詞があるんですけど、その言葉を聞いて、瀧と三葉は美しくもがいているんだと教えてもらって、「君の名は。」の小説を書いたときに、章のタイトルに「美しくもがく」とつけさせてもらったりもしました。色んなことを交換し合ってきたような感覚がありますね。
■監督は、これまでの作品との違いを意識することはありますか?
新海監督
どちらかというと、自然にこういう作品になったという感覚なんですけど、キャラクターアニメーションに近くなったという感じはあります。キャラクターデザインをしていただいた田中将賀さんとの出会いが大きかったかもしれません。僕たちが作るキャラクターが、こんなに躍動感を持って生き生きするんだという感覚を持たせてくれた方でもあるんです。彼との出会いが僕にひとつ大きな武器を持たせてくれたという感じはあります。それで今までとは少し違うものが作れるかなと思ったのかもしれないですね。たくさんの人と出会ったことで、もらったものが多かった。今回の作品ではそんなことを感じていました。
8/26(金)TOHOシネマズ天神、ほかにて全国ロードショー
【原作・脚本・監督】新海誠
【作画監督】安藤雅司
【キャラクターデザイン】田中将賀
【音楽】RADWIMPS
【声の出演】神木隆之介 上白石萌音 成田凌 悠木碧 島﨑信長 石川界人 谷花音
長澤まさみ 市原悦子
Ⓒ2016「君の名は。」製作委員会