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「地獄でございます」土田英生氏インタビュー

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土田英生(作・演出)

土田英生率いるMONOが約1年半ぶりの新作「地獄でございます」を持って、いよいよ福岡へやってきます。テレビや映画などでも活躍中の土田英生が“今、一番やりたいこと”を作り上げたという注目の舞台。芝居のこと、作家としての苦悩(?)、演劇に対する思い、福岡の演劇人へのメッセージなど、ちょっとだけディープに語っていただきました。

■地獄をモチーフにしようと思ったきっかけは?

もともと人間の本質というか、業のようなものを描きたいと思っていたんです。抽象的なシチュエーションの中でだったら、人間の本質がその中でよりいっそう普遍的なものが際立ってくるんじゃないかと思ったんですね。そういうシチュエーションを考えていた時に、子どもの頃に博物館で「地獄絵図」みたいなものを観た時のことを思い出したんですよ。

■脚本はスムーズに仕上がったんですか?

もともと地獄をモチーフにしようと思った時に、地獄そのものを書くんじゃなくて、その地獄をどう表現したらいいのかなということを考えていたんです。逆にそれが発見できた時、地獄をモチーフに芝居を書こうと思ったのかな。だからシチュエーションが地獄であることに苦労はなかったですね。

■これまでの作品との違いや具体的に変わっているところなどがあれば聞かせてください。

設定が全員死人っていうのはね、さすがに初めてですし、そういう意味ではちょっと抽象度は高いですね。ただ抽象度が高くなればなるほど、いくら悲劇的なところを舞台にしてもあまり悲劇にならないっていうのはありますね。死というものをリアルにやってしまったら、ホントに救いようのない悲劇になるんですけど、抽象的になればなるほど死ということ自体が抽象化されますので、そこの匙加減というのはちょっと難しいのかな、と思ってはいるんですけど。

■MONOとしては1年半ぶりの新作、そしてプロデュース公演などの取り組みを終えた後での劇団公演ですが、稽古や執筆に変化はありましたか?

そうですね、大きな変化があるかどうかというのは、ちょっと解らないんですけども、楽に作品を書くようにはなりましたね。楽に書くって言うのは簡単に書けるっていうのとは違うんですよ。常に書くことに苦労はしているんですけど、前はその“書けない苦しみ”というのは尋常じゃなかったんですね。アイディアが出てこないとにっちもさっちもいかなかったんですけど、最近割と肩の力を抜いて書くようになったんです。それはやっぱり外で色々仕事をして出来るようになったことだと思うんですね。

■書く期間が短くなったとか、ですか?

どういったらいいのかな・・・劇団だとどうしてもギリギリまで粘っちゃうんですよ。例えばこれ面白くないな、と思えば昨日脚本渡したけどやっぱり変更するよとか言ったりしてたし。その部分が全然なくなった訳じゃないんですけど、劇団外の仕事だとそうはいかないんですよ。決まった締め切りもありますし。じゃあどっちがいいのかって話なんですけど、どっちも良くないですね。締め切りに合わせて書いちゃって、納得してないのに出すのもダメだし。かといって劇団でのやり方もどこがデットラインか分からないから劇団員に迷惑をかけることもある。ただタイトな時間で書いたものが悪いのかというと、そうでもないんですよね。たぶんそういうことを外で仕事をしてみて知ったんだと思うんですよ。

■じゃあ、今回はそのよかった部分が生かされていると・・・

そうですね。台本が遅れていたとしても、すぐに書くことはできるんですよ。たとえば20分のシーンを書けって言われたら、いくらでも書くことはできる。書けるんですけど、それが面白くないので止まってますってメンバーに話すんです(笑)時間を稼ぐための本は書けるけど、今それはやりたくないってことをね。年齢的なこともあるでしょうけど、外部と仕事をして知識とか経験も増えて、そういった意味で少し肩の力が抜けてきたのかな、と思いますね。いろんなノウハウも分かってきているし。

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■今回福岡では博多と北九州で公演をされる訳ですけれども、MONOの尾方さんと金替さんは福岡県出身でいらっしゃいますよね。福岡で公演することについてお二人は何かおっしゃってましたか?

言わないですね〜(笑)ただ尾方くんはね、言わないんですけどスゴく福岡好きなんですよ。僕がある時、尾方君に「明太子好き?」って聞いたことがあって、その時の答えが「そりゃあ(もちろん)」でしたから(笑)しかもちょっと怒ったように言ってましたし(笑)それと以前福岡でワークショップをやった時に、参加者の一人に、僕が言った冗談が伝わらなかった人がいたんですね。で、「あ〜ちょっと伝わらなかったな」ってみんなで話てたんですよ。何故かというと実は関西でワークショップをやるときは、バシバシ叩いたりとかしてやってたんですよ。突っ込みみたいな感じでやると関西ではウケるので(笑)そういう感じで福岡のワークショップでやってたんですけど、たまたまその人が、そういうのに慣れてないので、ちょっと怒っちゃったんですよ。その後、休憩の時に謝りに行ったんですけどね(笑)関西のノリでやるとウケなかったな〜って。そしたら尾方君が「土地で決めない方がいいと思いますよ、関西だからとかって」ってちょっとムキになっちゃたりして(笑)僕は別に福岡の悪口をいったんじゃかったんですよ。ただこんなことがあったよって話だったんですけど(笑)だから尾方君の内に眠る郷土愛は、並々ならぬ思いがあると思いますね。でもうちの劇団のメンバーは、どこの出身だからってのをあんまり出さないんですけど、福岡でやることに何かしら思いはあると思いますね。

■5人しかいない劇団の中に2人も福岡出身の人がいると思うだけで、福岡のお客さんは無条件に親近感が沸くと思うんですよ。

そういう意味では、福岡はうちの劇団にはすごく馴染みのある土地なんですよ。でも僕が一番九州好きなくらいじゃないかと思ってますけど(笑)きっと知り合いの人とかも観にいらっしゃると思うので間違いなく尾方君は福岡で頑張りますよ。金替君は実はシャイなんで、出来れば知っている人には恥ずかしいんで観て欲しくないのかもしれないですね(笑)金替君は以前、劇団のブログを書いてたんですけど、ある時ピタッと書くのを止めたんで「お前ちゃんとブログ更新しろよ」って怒ったんですよ。そしたら金替君がなんて言ったと思います?「あれね、読んでる人がいたんです」って言ったんですよ(爆笑)それがわかって書くのが怖くなったって(笑)ちょっと役者にはあるまじきモチベーションの持ち方をしてやってる人みたいなんで(笑)逆にこの福岡がマイナスになるんじゃないかって心配してるんですけどね。

■じゃあ、そんな金替さんのシャイな姿を観れることを楽しみにしたいですね(笑)

金替くんがどんな感じでやってるか(笑)奥へ行こう、奥へ行こうとするんじゃないかってとこをね、観ていただきたいですね(笑)

■まあ、それも楽しみつつ、ですね(笑)地方公演も多い今回の作品ですが、土田さんの作品は“言葉”がわりと印象的ですよね。今回はどこかの方言で書かれたんですか?

今回は共通語ですね。やっぱり地獄という抽象的なシチュエーションですので、あんまりどこかの土地の方言を強く出しても、その地獄はどこにあるんだって話になってしましますからね(笑)そこは共通語を通して使っているんですが、登場人物それぞれの話し方はちょっとずつ変えようと思っていますね。

■今いろんなメディアで注目を浴びて大活躍をされている土田さんですが、劇団とは土田さんにとってどんな存在ですか?

いや〜大活躍ってうれしい言葉ですね〜(笑)
劇団というのは僕にとって常に確認をする場所なんですよ。自分自身のことを含めてね。で、自分がそれまで何を学んできたか、どう変化したかというのを確認できるのは劇団とやったときですし、あと自分を初心に帰らせてくれる場所でもありますね。それと同時に、僕ら小劇場といわれる劇団は芝居を好きにやってきてるんですよね。もちろん人気がでるといいなあとか色んなことを思いながらやってたんですけど、それでも最初から好きにやってきているんですよ。それ以外でやるときってやっぱり自分たちの好きにはやらしてもらえないんですよね。これはニュアンスがすごく難しいんですけど、好きにやれない部分がお金に変わるんですよね。そうは言っても、限られた中でも好きにはやらせてもらっているんですけど、やっぱりそれぞれには事情があってお金を頂くということはやっぱり何かの対価としていただくわけですよ。対価は、ただ書けばいいってものではなくて、相手の求めるものをクリアしないといけないんです。それが一番最初になるんだと思うんですよ。劇団というのは、そういうものから無縁でいられるので、常に好きなことが出来る場所ですし、外で色んな仕事をさせていただいて楽しいこともたくさんあるんですけど、フラストレーションを感じることもあるので、それを常にぶつける場所かな(笑)でも僕は自分の劇団をいろんな人に観ていただくことが好きなんです。こういうことが本当はやりたいんですよ、っていう僕自身のプレゼンテーションをする場所でもあるんです。

■劇団というのは、土田さんにとっては大きな存在なんですね。

そうですね、劇団がなかったらなかなか作品が書けないでしょうね。外でやるものも含めてね。今は僕の作品を色んなところの方が上演をしてくださることも増えてきてたんですけど、その作品というのは劇団に書いた作品が圧倒的に多いんですよ。MONOで書いたのもに上演依頼が来るんです。劇団に書いたときは台本の上がりも遅かったりもして、それは自分の劇団だからっていう甘えだって言われることもありますけど、やっぱり丁寧にその時感じていることを書いていたんじゃないかと思うんですよね。だからそういうことも含めて、劇団がないと自分も前に進めないんじゃないかと思いますね。

■他のメンバーの方々も外部のお仕事をされてきて、だんだん変わってきていると思うんですけど、それをまとめる役割の土田さんに苦労はありますか?

う〜ん、大変さ、みたいなものはあんまり感じないですけれど、みんな適応能力があるんでしょうね。メンバーが外で得てきたものを直接的にぶつけてくることはあんまりないんですよね。まず、MONOのやり方に則って始めてくれるので、その中で、あれ?この人今までこんなことやってなかったのになと思うことはあるんですよ。知らない間にこんなこと身につけてたんだなって思うことがね。そういうものがMONOの稽古をやりながら見えてくる感じなので、そんなにまとめることに苦労はないですね。

■土田さん自身も、そんなメンバーを見ながら作品や演出の幅を広げることができるんですね。

そうですね。あ、こんなことも出来るんだなと思うとやっぱり手が増えますからね。僕は役者の手が増えることには大歓迎です。

■それも踏まえて、今の土田さんにとっての「地獄」ってなんですか?

・・・・書くことかな(笑)書くことっていうか、じっとしてることが嫌なんですよ(笑)だって書いている間ってじっとしてないといけないじゃないですか。だからそれが一番ツライかな(笑)

■それは作品を生み出す時が「地獄」ってことですか?

うーん、地獄なのは耐えることかな。僕は作品を書くことって耐えることだと思うんですよ。よく言うんですけど、何時間かあったら作品を書けるのってその時間の最後の方なんですよ。最初は絶対書けないんですよ。だから、その最初の書けない時間に耐えることができれば、最後に絶対書けるんですよ。それはね、百も承知なんです(笑)だけど、最初の書けない時間の1時間半くらいをじっとしてなくちゃならないと、耐えきれなくなって止めちゃうんです(笑)そうするとまた最初からになるじゃないですか。そんなことを繰り返してるのが僕にとっては地獄ですね。そこを耐えきれれば、あ!こうすればいいんだ!とか絶対に出てくるんです。だから3時間も考えてたらちゃんと書けるんですよ。ただ1時間半ごとに立ち上がっちゃうから、1日中やっても書けないことがあるんです。ホントに地獄でございます(笑)

■そんな度々「地獄」に行ってしまう土田さんにとって、演劇ってなんですか?

うわー。根本的なところに切り込んできますね(笑)それはもう自己救済できるものですね。僕自身がこうやってたくさん喋るので、楽しそうにやってらして悩みがないですね、とか言われるんですけど(苦笑)今はもう40歳手前になってちょっとは落ち着いてバランスも取れるようになってきましたけど、若い頃はすごく気持ちが不安定だったりして。実は自己嫌悪も結構ひどいんですよ。人前に出ないといられないんですけど、出たことによってモーレツにそれを反省させられる構造になってるんです。これは小ちゃい頃にそれをやって怒られたからだろうと思うんですけど(笑)だから出た分、後悔するんですけど、じゃあ出ないでじっとしておくとそれもまた不満でつい出て行っちゃうんです(笑)この繰り返しをずっとしてきて、たまにホントに虚無感みたいなものに襲われてたんですよ。そういうことで悩んでいた大学生の頃に、演劇と出会ったんです。というか大学で無理矢理先輩に参加させれられて、辞めたくてしょうがないのにやらされてたんですけど(笑)その時に主役をもらったんです。ものすごく緊張して、そうなるともう虚無感とか言ってられないわけです。意外と小さな悩みだったんだなとその時に思ったんです(笑)そでに出るだけで、ものすごく緊張しちゃって。で、やり終わったら長年泣いたことなんか無かったのに、涙なんか出ちゃって。その時に一生演劇続けようって思ったんです。どんな形でもいいから絶対続けようと。それ以来、演劇をやめようと思ったことはホントに一度もないですね。今はテレビの仕事や他の仕事もさせてもらって、楽しいんですけど、その中から演劇を取られると思うとちょっと怖いですね。今まで言われたことはないですけど、演劇をやっちゃダメって言われると不安になる気がするんです。そういう自分なりの思い込みが演劇にはありますね。演劇に出会った18歳の時に、何だか啓示を受けたような気持ちになったんですね。

■福岡で演劇をやっている人も含めて、土田さんに憧れて観に来られる人に何か一言お願いします。

うーん、答えづらいな(笑)偉そうに言えないんですが、若い人でも先輩でも現役でいるうちはみんなライバルなのでね(笑)そうですね・・・強いて言うなら僕らは地方にいるわけですよ。福岡でやっている人ももちろん。そういう立場にいる時に、やっぱり「志」というものだけはスゴく大事だと思うんです。例えば「志」が“東京で認められよう”とかいうことぐらいだったら、僕は東京へ行った方がいいと思うんです。残念ながら東京の方が面白いものもいっぱいあるし、マーケットも大きいし、批評にもさらされる。自分を磨く場も多いので、東京で認められたいなら東京へ行った方がいいんですよ。ただ地方にいると変な青田買いもされないですし、じっくりと自分の創りたいものを熟成できるというメリットはあるんです。でもそうなって閉じちゃうと何も知らずに終わっていくので「志」というのは、僕は、ちょっと頭がオカシイ人と思われてもいいから、絶対手の届かない人と勝負して欲しいし、誰もモデルがいないんであれば“こんな芝居を作るんだ”ということでもいいと思う。その時に、東京だとか芸能界でどうしたいだとか、そういうことは思っていて欲しくないですよね。そういう手の届かない人といつも自分で比べていることができれば、それこそ東京にいたってどこにいたって変わりませんから、それなら地方にいてじっくりモノ作りをしたほうがいいんじゃないかと。そしてその方がずっと続けていられるんじゃないかと僕は思いますね。例えば「志」が低くて、東京でこんな風になりたいとか思っていると、どうなるかというと隣の劇団に追い越されちゃうと、あー俺たちはもうダメだ!とか思って挫折しちゃうんですけど、「志」の先が手の届かない人だと、なかなか友達はそこに行かないですから(笑)友達がどこへ行こうが、自分はもっと上にに行くからと思っていればね。ただ節目節目に、5年毎くらいに自分を見直さないと勘違いした人間で終わりますから(笑)僕は21歳の時からそう思って続けて来たんですけど、ちゃんと確認しながら今までやってきましたから(笑)

■最後に、今回の芝居の意気込みをお願いします!

今回の芝居は、ガツガツしていない面白さが出ていると思います。それに諦めちゃダメですけど、MONOをやるときは無駄な願いは持たないことは大事ですよね。これで一発当ててやろうとかね(笑)僕自身もそうですけど、劇団自体もそういう部分は取れていると思うのでいい作品になると思います。一番新しい作品というのは、自分たちにとっても楽しい作品ですから、いま僕が一番やりたいことが「地獄でございます」なので、ぜひ観に来てください!
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MONO第34回公演「地獄でございます」
【ぽんプラザホール】
【北九州芸術劇場/小劇場】

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撮影:清水俊洋

【ぽんプラザホール】
■公演日/
3月6日(火)20:00・7日(水)19:00
【北九州芸術劇場/小劇場】
■公演日/
3月10日(土)19:00・11日(日)14:00
■作・演出/土田英生
■出演/水沼健、奥村恭彦、尾方宣久、金替康博、土田英生
■料金/一般 3,000円 ※当日券は500円増、学生 2,500円 
※前売・当日とも(全席指定)
〈電子チケットぴあ Pコード〉〈福岡公演〉373-276〈北九州公演〉368−179
〈ローソンチケット Lコード〉〈北九州公演〉86090

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