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〈渋谷すばる×二階堂ふみ〉を迎えて放つ、新たなる音楽映画『味園ユニバース』

歌以外、全部忘れた男(渋谷すばる)を拾って、“ポチ男”と名付けたカスミ(二階堂ふみ)。記憶の底から吐き出されるような彼の歌、そして共に過ごす日々は、ある日から止まったままだった彼女の時間を動かしていくーーー。

“歌い手”であることにこだわりを持つ渋谷すばる、気鋭の女優・二階堂ふみ、“大阪”にこだわるバンド「赤犬」。彼らを繋ぐ監督・山下敦弘が作り上げた、新たな音楽映画が誕生した。

 

■今回オリジナルの脚本ですが、どういったところからスタートしたのですか?また、脚本を作る時に、どこに重点を置かれたのですか?

プロデューサーから渋谷すばる主演で映画の企画を立てたい、そしてオリジナルでやりたいというところからスタートしました。なので、今回はオリジナルを意識して作りましたね。一言で言うと、渋谷すばるくんの歌の才能というか、歌の力を、映画でどう見せるか、だと考えていました。渋谷くんの歌を最初に聴いたときに「上手すぎだよな~」って思いました(笑)。でも渋谷くんを知るほどに、どこか陰がある、どこか尖った部分が見えてきたので、そこから渋谷くん演じる“茂雄”というキャラクターが出来てきました。それが最初でしたね。歌を軸にしたいということ、あと渋谷すばるが大阪出身ということは大きな軸となりました。僕自身も大阪に住んでいたことがあったので、そろそろ大阪という場所に、ちゃんと向き合って映画を撮ってみようかなと思えたんです。個人的なテーマでは、大阪で撮るということは大きかったですね。

■でも監督ご自身、大阪にはあまりいい思い出がなかったそうですが・・・(笑)

いい思い出がないというか、大阪にいた頃はお金もなかったし、新世界というドヤ街に住んでいたので(笑)。その頃を思い出したくなかったのかもしれないですね。2004年まで大阪に住んでいましたが、あの頃は住んでいたアパートもボロボロで、天井から水は降ってくるし、シャワーが出なかったり、水が飲めなかったり、そういう暮らしをしていたということもあったんです。ちょうど10年経って、やっと懐かしめるというか、大阪ってなんだかんだ言っておもしろかったし、自分が映画を作り始めた場所でもある。そういった気持ちとも少し距離ができたので、改めて大阪に戻ってみようかと。27歳の時に大阪を出て、38歳でこの映画を撮ったんです。10年振りに戻って、すごく楽しかったし、改めて大阪の魅力というか、おもしろい街だなと思いました。

■映画の舞台となった大阪・味園の魅力は?

東京にも、大きなキャバレーだった場所をライブハウスにしている場所もあるんですけど、味園は別格というか、カオスというかケバケバしいというか(笑)。味園自体が、こんなところあったんだ!というような場所なんですね。映画のラストシーンは、味園ビルにある「ユニバース」というライブハウスで撮っているんですけど、その味園ビル自体が、ちょっとおかしなビルなんですよ。今で言うとアミューズメントビルみたいなことなんでしょうけど、そもそもがグランドキャバレーだったのを改築して今の感じになっているんです。そのごった煮感が大阪っぽいよな~と思って。今回、「赤犬」に出演してもらいたくて連絡をとったら、ちょうどワンマンライブをやるから観に来たらと言われたので、僕と脚本家とプロデューサーで行ったのが、味園ユニバースだったんです。行ってみたら、その場所からイメージも湧いてきたので、脚本家とここをクライマックスにしようと話しましたね。タイトルになるとは思わなかったですけど(笑)実は仮タイトルだったんです。仮タイトルをそのまま使いました。

■渋谷さんメインの映画の企画だったものに、赤犬を入れようと思ったのはどうしてですか?

渋谷くんで、歌で、大阪舞台で・・・と考えた時に、大阪で音楽というと赤犬が頭に浮かんだので提案しました。でも正直なことを言うと、その案は通ると思わなかったんですよ(笑)。なんとも言えない雰囲気ですし。でもみんなが興味を持ってくれて。というのも僕が大学に入って一番最初に観たライブが「赤犬」だったんです。それから20年くらいちょこちょこ観ていて、自分の映画の音楽もやってもらったり、関係性があったこともありますが、僕が思う大阪の音楽のイメージが「赤犬」だったんですね。正直、渋谷くんと赤犬が交わるとどうなるのかはイメージできていなかったですけど、“大阪を描く”ということでいうと、その方が僕なりの大阪が描けるなと思って。

■二階堂ふみさんを相手役にキャスティングされた理由は?

今10代で力のある女優さん、映画女優って誰かなと思った時に、二階堂さんの名前がすぐに挙がったんです。実は、この映画のキャストを決める1ヶ月くらい前に、共通の知人の結婚パーティーで偶然に会ったんですよ。そこで少し話をして、その時に何かあったら呼んでくださいって彼女の方から言ってくれて。それも自分の中に残っていて。でも大阪が舞台の映画なので、ネイティブな大阪の女の子とか、それこそ無名でもいいから大阪に根付いている女優さんの方がいいのかな?とも考えたんですが、でもやっぱり力のある女優さんといっしょにやりたいなと思ったので、思い切ってお願いしました。でも関西弁は全く喋ったことがなかったので、大変そうでしたね。

■理想通りのカスミでしたか?

実は僕が最初にイメージしていたのは、もっと子供っぽいカスミだったんです。色気がないというか。でも彼女がやると少し色気が出るんですよね。ポチ男を見つめる目が、少し女っぽくなるんじゃないかというのが、最初とイメージが違うなと思ったところでした。けど、決して恋愛というだけの見え方だけではないので、結果それが良かったです。二階堂さんは演技の幅というか深さというか、それがある女優さんだったので、良かったなと思っています。「赤犬」はカスミが赤ちゃんの頃から知っているくらいの設定でした。亡くなったカスミの父親と赤犬は仲が良くて、ずっとカスミのことを小さい頃から観てきているという感じなので、一見、カスミが「赤犬」を引き連れているという構図に見えますが、本当は「赤犬」のメンバーがカスミを守っているというか、お父さん代わりになっているというか、そういうイメージが僕の中にあったので、カスミにアゴで使われているだけではない何かが出ればと思っていたんです。

■「しょーもな」という台詞がキーワードになっていますが、最初から構想にあったのですか?

「しょーもな」という言葉を口癖にしようというのは最初からありました。それは僕の実体験というか、大阪に住んでいる時の女友達の口癖が「しょーもな」だったんです(笑)。最初は、否定的な意味で言われていて傷ついていたんですけど、聞いていくと、いろんな意味をもった言葉なんだと思うようになった。照れ隠しの時もあるし、褒め言葉としてもあるし。自分の中の大阪の思い出のひとつとしてあったので使いたかった言葉だったんです。色んなニュアンスの「しょーもな」を言ってもらったんですけど、一番最後の「しょーもな」が一番いいんですよね。その辺の使い分けも二階堂さんはきちんとやってくれてスゴイなと思いました。

■二階堂ふみさんの女優さんとしてのポテンシャルの高さは、数々の映画で見ているので想像できますが、この映画で久しぶりに渋谷さんが芝居をする姿を見せていただきました。役者としての渋谷すばるさんを監督はどのように見られていますか?

正直言うと、渋谷くんがこれまでに芝居をしている作品を見ていなかったんです。ただ今回は、渋谷くんをイメージしながら映画を作っていったということもあったんです。最初は渋谷くんもすごく悩んでいて、歌や音楽に関しては理解できるけど、芝居のシーンでの悩みがいくつかあって、そこはクランクイン前にいっしょに話し合って解決していきましたが、クランクインまでにある程度、この茂雄という男を呑み込んでくれたら、あとはこちらのイメージというよりも、渋谷くんから出てきたものをどう撮っていくか、ということなのかなと思っていました。そこがオリジナルの強みというか、もちろんオリジナルでイメージを固めて撮る場合もありますが、原作があるとどうしてもそのイメージに引っ張られてしまって答え合わせのようになる場合もあるんです。でもこれに関してはオリジナルだし、しかも渋谷すばる原作、みたいなものだから、その安心感はありました。彼から出てきたもので撮ろうと最初から決めていましたから。
芝居がどうこうというよりは、その時々の彼の持つ空気感のようなものを撮っていったんです。一番驚いたのは、編集していって時系列に繋いでいった時に、ちゃんと記憶がなくなって、記憶が戻って、そこで複雑なものを抱えている、という表情になっていたことです。茂雄の記憶というのは、徐々に戻るんですよ。その変化もすごく絶妙にやってくれていて、特に目の表情の違いとかは、本当に凄いなと思いましたね。

■監督から見た役者・渋谷すばるは、どのように写りましたか?また一緒にやってみたいと思われますか?

今回は渋谷くんの本業である“歌”というもので作品が作れたので、彼もそこにむけて全力で100%出し切ってくれて、映画作品になったんですけど、彼自身が乗らないとここまでの作品は作れないですね。何でも出来る人ではないと思うんです。今回は渋谷くんをスタートにして作ったんですけど、本当はやれば何でもできちゃうとは思うんですけど、器用にできる人ではないので、そこにもうひとつ、彼が納得するものが乗らないと作る意味がないと思いますね。俳優は彼の本業ではないので、次に何かいっしょにやれることがあるならば、一度仕切り直してゼロから作れれば、とは思いますね。

■作品自体は、渋谷さんを軸に置いた音楽映画になっていますが、一方で大阪の街の匂いや生活の匂いがする作品ですよね。

そう見てもらえたのならうれしいですね。映画では実際にそこにいた通行人の人とかが映っていたりするんですけど(笑)。今回映画を作る前に、「赤犬」のメンバーになかなか会えなかったので手紙を書いたんです。「この作品は茂雄とカスミのドラマです。赤犬は背景なんです」と伝えたんです。もちろん重要な役どころではあるんですけど、基本は背景として居て欲しいと伝えたら、解っていただけて。というのも、僕の大阪での思い出の風景は、赤犬なので「赤犬=大阪」なんですね。今回は通天閣も、道頓堀のグリコの看板も阪神タイガースも出てないんですけど、「赤犬」が出ていると僕の中では大阪なんですよ。背景であり、大阪の景色である赤犬の前で二人は思いっきり芝居をしてもらう。そういうイメージでした。

■大阪の人の不器用な愛情表現のようなものが作品全体に漂っていますね。

大阪で人情みたいなものは、ベタで当たり前なんですけど、そういう人間臭さがある街だなと思っているんです。だからそういう人情みたいなものは、大阪を舞台にすると避けて通れないですよね。

 ■「しょーもな」という言葉も人情があるからこその言葉ですよね。

そうなんです。大阪の人って、文句言いながらやってくれるんですよ。昔、守口市というところで映画を撮ったことがあるんですが、その時、7万円で映画作るって言って(笑)。で、手伝ってくれるんですけど、みんな文句言うんですよ(笑)。アンタらのためにうちらはこんなに動いてやってるのに、とかね。でも、撮影当日はご飯を用意してくれていたり、車を出してくれたり本当にお世話してくれるんです。そういう人たちなんですよね。だからベースにそういう大阪の人柄みたいなものが今回の作品の中にもあるんです。カスミは口も悪いし、赤犬もめんどくさいと言いながらも、やってくれるというか。

■最後に映画「味園ユニバース」の見どころを監督自身の言葉でお願いします!

見どころの切り口は色々あるんですけど、これは、関ジャニ∞ファンや渋谷すばるファンに向けて言っているわけではなくて、渋谷すばるの魅力や才能や力というものを出し切れた映画ですので、ファンの人はもちろん観て欲しいんですけど、渋谷くんを知らない人とか、もしかしたら“アイドル”という存在に対して偏った見方をしている人たちにこそ観て欲しい映画ですね。たぶん、渋谷くんにもそういう想いはあったと思うし、僕もそういう気持ちで作りました。作品を作っている時はアイドルとかそういうことは関係なく、いい映画を作ろうという思いでいましたので、そういった人たちにも見てもらいたいですね。僕も渋谷くんも、音楽映画の難しさはちゃんとわかっているんです。もちろんライブの感動はライブに行かないと感じられないんですけど、そこに近づけるように、本当のライブに負けないようなものにすることを目指して作りました。最後のシーンは、映画館で観ている人もライブ会場にいるような気持ちになればいいなと。そういった意味では、ライブを体感してもらいたいですし、音楽を観に行くという気持ちで来ていただいても満足していただける作品になっています。ラストシーンは、観ている人全員が味園ユニバースにいる、という気持ちになっていただけると思います。なので、ぜひ映画館で観て欲しいですね。

 

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【STORY】
大阪。広場で行われていたバンド【赤犬】のライブに、ふらふらと現れた男(渋谷すばる)。マイクを奪い、声を放つや、会場は水をうったように 静まりかえる。圧巻の歌声! そのまま気を失った男だったが、目を覚ますと自分のことを何も覚えていないという。記憶喪失。傷だらけの顔。その正体と歌声に興味を持った【赤犬】マネージャーのカスミ(二階堂ふみ)は、彼を“ポチ男”と名付け、祖父と暮らす自分の家に住まわせながら、バンドのボーカルに迎えようとする。しかし、ポチ男の 記憶がフラッシュバックで蘇る――「俺は、危険かもしれない」。それぞれの中で止まっていた時間が、再び動き始める。

 

プリント

 『味園ユニバース』
2.14 sat.全国ロードショー

◎監督:山下敦弘
◎脚本:菅野友恵
◎出演:渋谷すばる、二階堂ふみ、鈴木紗理奈、赤犬 他
◎主題歌:渋谷すばる「記憶」「ココロオドレバ」(インフィニティ・レコーズ)
〈2015年・日本・103分〉 http://misono.gaga.ne.jp/
(C)2015『味園ユニバース』製作委員会