生真面目すぎるその性格が災いし、上司の逆鱗に触れ、“蚤とり業”に左遷されてしまったエリート藩士・小林寛之進。たったひとつの失言で、ある日突然左遷されてしまった。その侍の仕事は、お客の飼い猫の蚤をとるサービス業。しかし、その実態は……。これは、江戸の浮き世を懸命に生きた侍が、本物の“愛”と“人情”に出会った物語。
エリート藩士・小林寛之進を演じたのは、シリアスからコメディーまで幅広く演じ分ける俳優・阿部寛。監督は『後妻業の女』でメガホンをとった映像の魔術師・鶴橋康夫。鶴橋監督が約40年間、映画化を熱望した『のみとり侍』が、満を持して公開です!

本作への想いや主演・阿部寛との関係など鶴橋康夫監督にインタビュー。

 

◆脚本は監督ご自身が手掛けられていますが、ご苦労などはありましたか?

鶴橋康夫監督:この物語は難物なんです。実は一生撮れないと思っていました。それこそ深海から触手を伸ばした猛毒のクラゲみたいな感じで僕自身が絡めとられて、何十年もついてくる(笑)。小松重男さんは新潟生まれで、僕も新潟で、柴田藩とか村上藩とか出てくるというのも惹かれた理由のひとつです。その猛毒は何だ?というと、やはりこの作品が不条理劇だからです。それに加えて、とてもストイックで、好色ものなんだけど、よくよく読んでいくと、小松重男さんという原作者自身が見果てぬ夢を江戸時代に見ていてる部分が見えてくる。「武士とは一体何だ?」と。それを“のみとり”という不思議な職業にさせて、江戸の風俗というよりも人間の心の中に棲んでいる闇みたいなものを掘り起こす探険をしていたんです。
実は当時、他の作品で脚本をお願いしていた作家が、なかなか脚本を書けないからアイディアを出してやろうと本屋で偶然見つけたのが「蚤とり侍」だったんです。それを読んでみたら、こんなにバカバカしいことを書いている人がいるんだと驚きました。どこまでが本当でどこからが嘘かが解らないくらい(笑)。そこから40年です。確かに脚本を書く作業は大変です。今回も僕は29稿書きましたから(笑)。それが予測できたから、作家さんにお願いするのは申し訳ないなと。でも僕にはそれは苦痛でもなかった。
藩士であれ侍であれ、人間は一人では生きていけない。幸せになる瞬間を、やや悲劇にまぶしてみる。「人間は一人では生きられないよな」ということを観てくださる方が感じてくれるなら29稿は全然大変なことではないですね(笑)

◆主演の阿部寛さんについて。

鶴橋康夫監督:阿部寛さんは大学の後輩なので、可愛くてしょうがないのですが、本格的に一緒にやるのは初めてでした。内容が内容なだけに、ダメかなと思ってオファーしたら、OKしてくれたんです。彼がOKしてくれたからこそ、約40年温めたこの作品を作ることができました。俳優としての阿部寛は、実に良かった。含羞を知っている男であり、含羞の人で有り、愛の人でもありますね。

◆鶴橋組常連の俳優さんたちもたくさん出演されています。現場の雰囲気はいかがでしたか?

鶴橋康夫監督:とても幸せな現場でした。どの俳優さんも長い付き合いですし、豊川悦司さんに至っては、演出家としても頼りにしています。出演者との関係は、熱くも寒くもなっていない。信頼だけです。彼らは僕がイメージしていた通りの芝居をしてくれています。彼ら一人ずつについて、三日三晩語ることができますよ(笑)。今回初めてご一緒したのは、桂文枝さんと前田敦子さん、斎藤工さんです。初めてご一緒した方も、僕の想像を遙かに超えた芝居をしてくれました。

◆約40年越しの企画が実現した今のお気持ちは?

鶴橋康夫監督:罪悪感だけです(笑)長年温めていたと言っている割には、観に来たらコレか!と思われたらどうしようという想いが(笑)。実は、小松重男さんに最終的な許可を頂こうと思って尋ねたらお亡くなりになられていたんです。小松重男さんという時代物の小説家に対する僕の敬愛、これほどこの作品に絡め取られていた監督が一人いましたよ、ということをお伝えしたかったんですけど。。。小松重男さんに観て頂きたかったですね。

 

 

 


5/18(金)TOHOシネマズ天神 ほかにて全国ロードショー

【監督・脚本】鶴橋康夫
【原作】小松重男「蚤とり侍」(光文社文庫刊)
【出演】阿部寛
寺島しのぶ、豊川悦司、斎藤工、風間杜夫、大竹しのぶ、前田敦子、松重豊、桂文枝

©2018「のみとり侍」製作委員会

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