映画「凶悪」でブレイクし、「彼女がその名を知らない鳥たち」(17)、そして本作を挟んで「孤狼の血」(18年5月12日公開)と快進撃を続ける白石和彌監督。今春、人気アイドルグループ「NGT48」から卒業することを発表した北原里英を主演に、「凶悪」の監督、スタッフ、キャストが結集した最新作「サニー/32」。

映画は開幕早々、北原演じる中学校教師・藤井赤理が24歳の誕生日に拉致監禁されてしまうという、衝撃的な展開を用意する。犯人は二人組で、彼らは赤理のことを“サニー”と呼んだ。“サニー”とは何か? ’03年に日本中を騒然とさせた事件の加害者で、しかも「犯罪史上、最も可愛い殺人犯」とネット上で神格化されてしまった当時11歳の少女の通り名であった。あれから14年目に動き出した、“サニー”をめぐる新たなる事件の結末とは一体―。

本作でメガホンを取った白石和彌監督と主演の北原里英に話を聞いた。

◆『サニー/32』というタイトルについて

白石和彌監督:脚本の高橋さんがその語呂が気に入っていて、提案を受けたのですが僕もいいなと思いました。佐世保の小学生の事件がネバダ事件となっていて、それは着ていたパーカーに「NEVADA」と書いてあったから、そう呼ばれたんですけど、そういう感じが欲しいなと。なぜ右手が3で左手が2だというのも、不思議な感じがあっていいなと。そのキャッチーさを優先しただけなので、そんなに深い意味はないんです。

◆現代の歪んだ狂気のようなものを感じましたが、脚本を作られる段階でなにか意図していることがあったら教えてください。

白石和彌監督:「ネバダ事件」はとても凄惨な事件なんですけど、それ以降のネットでの持ち上げ方とか、今に至るまで書き込みがあったりとか、二十歳の誕生日おめでとうみたいな時にまた盛り上がったりとか、やはりちょっと歪んでいると思うんです。その歪みは、誰かが一度覗いて、表にさらけ出さないと何も伝わらないだろうなというのは、題材を選んだ時から表現したいと思っていたことのひとつです。小学生が事件を起こして、その後の親たちの物語にするというアイディアもあったんですけど、ネットの状況を描いていくんだったら、14年後の彼女たちの物語にした方が、色んな事が伝わるだろうと思いました。他にもインターネットの問題や、それとインターネットが普及してからの現代人間はコミュニケーションの取り方が以前とは明らかに変わっていて、その付き合い方がすごく難しいと思っていました。もちろん普通の人付き合いもそうなんですが、SNSやインターネットの中での付き合いって、顔も見えないから本当に難しいんです。もちろんアイドル映画なので北原さんを一番良く撮るということも重要ですし、ただ、そういう奥深さを入れておいた方が映画としての厚みがでるだろうなと思って作りました。

◆北原里英さんは今回主演で、ましてや念願の白石組。藤井赤理という役を演じる際に監督とどのような相談をされましたか?またどういう女性だと理解して演じられたのでしょう?

北原里英:脚本を読んだ段階で、自分に出来るのかすごく不安だったので、撮影に入る前に監督にお会いした時に、あまりお芝居の経験もないし、映画の現場にも慣れていないので、役作りも含め何か準備していくことがありますか?と伺ったら「そのまま来てもらえればいいです。ただちょっと寒いので、寒さには慣れておいてください」という感じだったので、自分の中で藤井赤理を作って現場に入ったというよりは、意気込みだけ持って現場に入りました。

◆白石監督の映画のどういったところが好きですか?

北原里英:明るいキラキラした青春映画よりも、全体的に暗いトーンの重たい映画が好きで、「凶悪」を見た時に、おもしろすぎて衝撃を受けました。トラウマになりそうなシーンもたくさんありましたが、圧倒されてすごい映画だと思いました。それで「凶悪」のような映画に出たいと言ったのが、この映画の始まりでした。改めて色んな作品を拝見すると白石監督の作品は、人間味が溢れている作品だと思いました。ただの悪人として描くのではなく、その中に人間だからこその姿が描かれているところなど、人を魅力的に撮る監督さんだなと思って、とても好きです。

白石和彌監督:「凶悪」を観て、オファーをいただいたわけですから、キラキラした映画は撮れないですよね(笑)。だから僕なりのアイドル映画で撮ろうと思いました。この作品は、北原さんと一緒でないと生まれない映画だったので、いい出会いができたと思います。

◆現場で監督から演出を受けて、この役が出来上がったという感じですか?

北原里英:細かく演出をされるというよりは、自分の中でこんな感じかな?と考えていたものを、現場でやってみて、それが違ったら言ってくださるし、問題なければそのまま自由にやらせてくださる、という感じでした。

◆役柄としてはいかがでしたか?難しかったですか?

北原里英:もちろん理解できない部分も多くありました。そこを理解しようと頑張ったというよりは、藤井赤理にこちらに近寄ってもらった感覚です。門脇麦さん演じる第二のサニーとの会話で「友達を殺しちゃう気持ちが解るよ」という台詞がありますが、私にはそれがどうしてもわからなくて。でも無理に理解しようとはせずに思うままに演じました。

◆藤井赤理を演じる上で、印象に残っているシーン、共演者の方とのエピソードがありますか?

北原里英:最初に白石監督にお会いした時に、せっかく北原さんといっしょにやるのだから、アイドル映画にしたいと思っているんだよね、と仰っていただいたのですが、私は白石監督の大ファンだったので、どちらかというと、白石監督の世界に入りたいという願望がありました。
脚本を読んだ時は、アイドル映画だとは思いませんでしたが、完成した作品を観た時は、アイドル映画だととても感じました。アイドルという言葉には虚像や偶像という意味もあります。なので「職業:アイドル」というアイドル映画ではなく、映画の中でサニーがネットを通じてどんどん神格化されていく。そういう意味でのアイドル映画だったのではないかと思いました。
瀧さん、リリーさんは、今回、怪しく怖いキャラクターから、次第に弱い部分が現れてくる。むしろそこに愛おしすら感じられるなと思いました。現場でもお二人はすごく優しいおじさんで、一緒に過ごしていて、日に日に愛おしさが増していきました(笑)

◆ネット動画を使用することによって、現代のリアルな不気味さを感じる部分もありましたが、そのように表現しようと思われたきっかけはありますか?

白石和彌監督:いま何か調べようと思ったらインターネットを開きますし、火災や事故があってもまず撮影する人が多いし、それをSNSにあげることも普通になっている時代です。それを鑑みると、現代の一番リアルなものや切実なものって、インターネットの中にこそある感じがしますよね。最強のドキュメンタリーカメラが携帯電話みたいなことは、数年前から感じていました。御嶽山が噴火した時もそうですが、ああいう局地的な場面に遭遇するといまの人は動画を撮るんだと感じましたし、むしろ一般の人の感覚が目の前で観ているものよりも、インターネットを通じて見る方が、切実に感じる時代が来ているんだと、ここ数年ずっと思っていました。
この作品は企画した時は、そういう感じがもう少し今よりは遠い感じはありましたけど、今は、さらにそれが切実に感じるというのがあります。
もう一つ、ネットの中でショールームみたいなことになっているのを、僕は全然知らなかったんです。NGT48のコンサートを観に行った時に、北原さんがショールームをやっていて「あれ何?」って聞いたら「ショールームです」と教えてもらったので、そのアイディアはいいなと思いましたが、そのまま使う訳にはいかないから(笑)、それっぽいのを取り入れたんです。撮影直前まで、今現在、そして今後、ネットの世界とリアルな人間の関係がどうなっていくのかというのを、考え得る範囲で実現していったつもりではあります。

◆藤井赤理の役を演じる上で、自分から赤理に切り替わる瞬間みたいなものを感じましたか?

北原里英:「キタコレ!」シーンの日は、自分の人生の中で一番集中力が高かったと思います。撮影が終わった瞬間に、ブチっと集中力が切れる音が自分の中でしたほどでした。実際にその日を境に、自分自身も変わったと思いますし、今回はほぼ順撮りで撮っていただいたので、お芝居をしやすい流れを作っていただけたのも大きかったかもしれません。人間って小さなきっかけで変わっていくのだなというのをリアルに体感する日々でした。

◆追い込まれていって覚醒するシーンは、どのように演じられたのでしょう?

北原里英:最初に脚本を読んだ時に、一番不安だったのはそのシーンでした。そのシーンだけは一日だけ練習する日を作っていただいて、助監督さんといっしょに稽古をやったのですが、その段階でもまったく想像がつかず解りませんでした。でも撮影に入って、何日間もみんなといっしょに過ごして、やられっぱなしの日々が続くと、自然とそういうシチュエーションになった時に、それまで理解できていなかったことが解るようになっていて、出来るようになっていました。周りの環境やキャストさんスタッフさんと過ごした日々に、助けていただきあのシーンが完成したなと感じています。

◆「キタコレ!」のシーンを観て、スカッとしました(笑)。あのシーンの北原さんの振り切った演技は本当に素晴らしいと感じましたが、監督は北原さんをどんな女優さんだと思われていますか?

白石和彌監督:「キタコレ!」のシーンは1日で撮ったんですけど、結構な分量があるので、大変だったし遅くまでかかりました。そうなるとそこまで演出する時間もないんですよね。後は北原さんに頑張ってもらうしかないし、映画って撮影している時もそうなんですけど、最終的に監督の手を離れて、役者に任せるしかないんです。それで映画が成功するかしないかが決まるというシーンがいくつかあって、この映画は間違いなくあのシーンでした。あのシーンで、北原さんが自分の集中力が切れたのが解ったというくらい、僕にも役に入り込んでいたのが解ったので、途中からはお任せしました。その集中力の入り方も落ち方もそうですけど、アイドルだから、女優だからということを通り越して、一人の表現者としてやり切ってくれたなと思います。だからもうどんな役でも北原さんはやってくれるという確信はあります。

◆北原さんはこの役を経て、女優として次はどんな役をやってみたいとかありますか?

北原里英:今回は、白石監督にものすごく辛い環境を用意していただいたので、この先、何があってもそこまで辛く感じないのではないかなと思います(笑)。それに撮影する環境にも助けてもらって出来たとも思っています。でも今後女優をやっていくには、普通の女の子もやれなくてはと思うんです。特殊な環境だからできたのだ、と思われないように、普通の女の子の役を演じられるようになりたいと思います。

◆最後にこれから映画をご覧になる方に一言お願いします。

白石和彌監督:藤井赤理のハチャメチャな冒険物語でありエンターテイメントに仕上がったと。ベースには未成年の犯罪事件というのがあり、そういうことも含めて社会が歪んでいると思うんです。そういう人が例えば近くにいたら?自分の娘がある日そうなったら?そこで僕に何か出来ることがあるのかな?と、この映画を撮りながら考えていました。それは主題歌にも込めましたし、北原さんに僕が思っていることを全部背負ってもらって、藤井赤理として、演じていただきました。そのメッセージを、少しでも感じていただけたら、より楽しく映画を観ていただけると思います。

北原里英:ネット社会に生きている人たちに、ぜひ観ていただいて、ネットでは超えられない人と人との体温のあるぶつかり合い、みたいなものを感じてもらえたらうれしいなと思います。

 

『サニー/32』2/17(土)T・ジョイ博多、ほかにて公開中

【監督】白石和彌
【出演】北原里英、ピエール瀧、門脇麦、リリー・フランキー、駿河太郎、音尾琢真、山崎銀之丞、カトウシンスケ、奥村佳恵、大津尋葵、加部亜門、松永拓野、蔵下穂波、蒼波純

http://movie-32.jp/

2018『サニー/32』製作委員会