1988年にコスチューム・アーティストとして活動をスタートして以来、演劇やダンス、映画、テレビなど多分野にわたり、数々の作品を生み出しているひびのこづえ。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のセットや衣装、野田秀樹演出の舞台衣装を手がけていることでも有名。プリミティブな感覚を根底に感じさせつつも、想像を超えたダイナミックな形と色のコスチュームは、子どもから大人までを釘付けにし、その作品世界へと一瞬で誘う。

本展では、活動歴が30年を超えるひびののクリエーションの魅力を「みる・きる・つくる」をテーマに、20172018年に上演したダンス「不思議の国のアリス」の衣装を展覧会として初公開する他、著名な俳優陣が着用したNODAMAPの数々の舞台衣装、また、心おどる世界に1つのバッグやワンピースを紹介。展示に加え、実際に試着できる服やヘッドピースも並ぶほか、ミニワークショップコーナーも登場。

本展について、またコスチュームの制作秘話などを語ってくれた。

 

◆舞台衣裳を制作される時に、一番大切にされていることはどんなことですか?

ひびのこづえ:NODAMAPの衣裳については、野田秀樹さんの脚本って、特に昔の作品は観ていても難解な物語が多いでしょ(笑)。それを私は台本がすべてないところからスタートさせるので、本当に野田さんの限られた言葉を頼りに本を読み、何かヒントはないかなと拾いつつ手探りで彼が持っているイメージを掴んでいきます。展覧会の解説にも書いていますが、「カノン」という作品の時は脚本が1ページしか出来ていなかったんです。逆に無いから、ちょっと思いっきりやっちゃおうかな、みたいな時もあるし、脚本が無いなりにも野田さんがミーティングで発した言葉を拾い集めて、こんなイメージはどうかな?って提案する場合もあります。その時々で違いますが、常に自分のやりたいことをその中に入れようという気持ちはあります。

また野田さんは普通の人じゃないから(笑)、私のイメージを受け入れる力量がある方なんです。だから物語も荒唐無稽だし、時代があるようで時空をあっという間に超えながら美しい舞台を作る。だから時代設定をきちんと表現しなくてもいいというのもあり私も常に野田さんに刺激を与えられるようにしたいとトライはしています。

◆どの段階から衣裳のお話をされるんですか?

ひびのこづえ:舞台美術の打ち合わせをする時には同席させてもらっています。昔は、美術だけ先に、みたいな風潮が多かったですが、私はそれは意味が無いなと思っていて。やはり一緒に見えないものを見えるようにして行くには、最初のミーティングから参加させてもらった方が広がるし、その時に野田さんから出た言葉ってすごく大事で、次のミーティングではその言葉は出てこないんです。それに野田さんも脚本は書いているけど、どう演出をするかというところまでは、具体的になっていないから、その時にポツリと自分自身が言った言葉に、自分で気がついたりしている。だから会える機会があるなら、貪欲に会いたいなと思うけど、実際に会ってみると何を聞いていいか解らないんです(笑)。

展覧会を拝見していて、衣裳と俳優と美術も物語も全部でひとつの作品なんだなと改めて感じさせて頂きました。長い間衣裳を作られていて、素材が変わってきたり、モチーフが現代にマッチしているものなど、時代による素材の変化を創作されている時に感じられることはありますか?

ひびのこづえ:技術的に、布にインクジェットプリントができるとか、プリント技術が発展して、割と値段も安く作れるようになったというのが大きな変化かもしれませんね。舞台衣裳って量産じゃないので、昔は手描きしていたこともありましたから。実は野田さんは「キル」という作品の時くらいから布の魔力にハマっているんですよ。

◆野田さんの作品で、布が作りあげる世界や布が変えてしまう世界というか、一転する感じが観ていてハッとさせられます。

ひびのこづえ:あの軽い布は私が教えたって思っているんです(笑)。野田さんにこんな軽い布があるよ、って話していて、さらにここで買うと安いよ!とまで教えてあげたんです。

◆ひびのさんが衣裳を作られる時の、アイディアソースというか、どういうところから発想が生まれてくるんですか?

ひびのこづえ:野田さんの演劇だと言葉が解らないと難しいけど、言葉は理解できなくても、まずビジュアルから作品に入っていく人を救えるかなとか思っています。ダンス「不思議の国のアリス」は子ども向けの作品ですが、出演しているのが超一流のダンサーたちなんです。ダンスパフォーマンスだったら言葉はそんなに必要じゃ無いし、身体をもっと増殖させるような衣裳を作りたいと思っていました。そして、子どもが目を離せないような世界を作ってあげたいというところから、とにかく楽しいものを入れたい!と。
アリスに出てくるクイーンのスカートは、最後に浮いて飛んで行っちゃったらおもしろいなと思ったんです。最初はスカートが取れて女王が負けちゃうみたいなシーンで、スカートを飛ばして欲しいって演出家に頼んだくらい(笑)。実際は飛ばない演出になりましたが、とはいえ相当浮くので、ものすごくダイナミックに動きます。だからクイーンのスカートは外せるように作りました。それが宙を舞うと美しくなびいて、スカートが広がって裏が見えたりするので、観ている人も「うわぁ!!」って心を奪われちゃう。本当はアリスの上演中はこの衣裳はどこにも載せていないのです。デザイン画も載せていなかったのですが、ツアーも終わったし、何年か後にやれるかどうかは解らないから展示させて欲しいとお願いして今回特別に展示しています。

◆観ただけで心が奪われる感じがします!

ひびのこづえ:そんな悪巧みばっかりしています(笑)。チェシャ猫は頭と身体と手と足がすべてバラバラになるので、5人で踊るんです。5人でバラバラに着て、一緒に踊って合体する感じなので、すごく可愛いですよ。

◆ひびのさん、もう演出家ですよね!

ひびのこづえ:そうです!演出したい。ダンスは演出をしたいけど、さすがに振りとか細かいことをやるのは無理、だからすごいうるさい衣裳家です(笑)。きっと演出家には嫌われていると思いますよ。

◆舞台衣裳を作る時って、動きを考えてこういう素材にしようとか考えられるんですか?

ひびのこづえ:それはすごくあります。衣裳の勉強も洋服の勉強もしていないので、野田さんの舞台をやり始めた頃は、そういうことが解らずに、見た目で素材を選んだり、どうやったら軽く作れるかとかあまり知らなかったから、割と迷惑をかけましたね(笑)。さすがに最近は(動きを)気にはしているんだけど、俳優はみんな野田さんの動きや演出について行くだけで大変だし、動きやすい格好で稽古をしているから、衣裳を着た途端に「袖が長い、丈が長い」とか「踏んじゃう」とか「暑い」とか言うんです。そんな発言が平気で出てくるから、その度に落ち込みますね。素材も考えて作っているのに、これで暑かったら何を着せればいいの?って(笑)

◆舞台衣裳を作り始められるきっかけはどういったことからだったのですか?

ひびのこづえ:小劇団から声を掛けていただいて何作かは手掛けていたのですが、それは見よう見まねで作っていて。そしたら野田さんから日生劇場で上演する「から騒ぎ」という作品で声を掛けてもらって、多人数が出演していて本当に大舞台でした。その時に最初はビビって割と普通のデザインを描いて行ったんです。そしたら野田さんに「それはこづえさんらしくない」って言われて。さらに1週間で全部描き直して、そんなこと言うんだったらやっちゃうよ!みたいな感じでめっちゃ遊んでみたら「いいじゃん!」って言ってくれて。バブルの走りの頃だったからか、その衣裳を全部最後のシーンはモノトーンにしようとか言って、衣裳が倍ですよ(笑)。それも1つ1つ、めっちゃ手間が掛かっている。あれはすごかったですね。

◆すごく楽しく衣裳を作られているんですね!

ひびのこづえ:そんなことはないですよ!もう苦しくて苦しくて。考えている時は楽しいんだけど、フィッティングも嫌だし(笑)、野田さんに離縁状を出したこともあるし、もう私を降ろしてくださいって言ったこともありました。今はようやく野田さんに感謝する気持ちも生まれ(笑)でもいつも大変です。

◆NODA・MAPの新作『Q: A Night At The Kabuki』の衣裳も手掛けられますが、どんなイメージですか?

ひびのこづえ:にとっての今回のキーワードはやはり「QUEEN」ですね。QUEENのイメージで作ろうかなと思っているけど、でも時代設定は日本です。時代は平家と源氏の頃、そこにQUEENをプラスしていきたいなと。「ロミオとジュリエット」もイメージに入れて。。。ちょっと楽しいですね。

◆先ほど、ダンス公演をやりたいとお話されていましたが、こういう作品の衣裳を作りたいなとかイメージしていることはあるんですか?

ひびのこづえ:野田さんとずっと仕事をしていると言葉からイメージを沸かせることが大変なんです。その点、ダンスは言葉がいらないからストレス発散できる。身体のことだけ考えればいいし、ダンスってそういう意味では世界が作りやすいので、私が元々持っているものを、一番出しやすい世界かなと。そういう意味でダンスやパフォーマンスなどの言葉の無い世界にも挑戦してみたいなと思っちゃうんですよね。

◆今回の展覧会は「みる、きる、つくる」というタイトルですが、ひびのさんがこの展覧会でキーワードとして持っているのはどういうものですか?

ひびのこづえ:私の服は人に着てもらうために作っているので、本来は展覧会のような形で見せるのはあまり自分では好きじゃないし、素敵とは思えないんだけど、この展覧会では「みる、きる、つくる」というキーワードで、みんなも作ることを体験できるし、着てみるということも体験できる。アリスやNODA・ MAPの衣裳では、舞台を観ていた人がもう一回この衣裳を見て、こういう風に出来ていたんだなとか、体感に近いことが出来るかなと。そういう意味で、この展覧会が出来て良かった。記憶とオーバーラップして感じることができると思います。舞台写真も飾れたのが、よりよかったなと思っています。

 

 

ひびのこづえ展「みる・きる・つくる」
【三菱地所アルティアム】イムズ8F
◎会期:7月20日(土)〜8月25日(日)
◎開館時間:10:00 – 20:00
※会期中休館日なし

◎一般:400円  学生:300円 高校生以下無料 再入場可