シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.45「番外編:某ホラービデオシリーズ  その2 」

さて前回、「とあるホラービデオシリーズにめちゃハマった」という話を書いた。同級生同士の陰湿なヒエラレルキー合戦が行われ、実は恐怖映像を投稿してきた男子こそが、人間としての恐ろしさを見事に表してたというドキュメンタリーだった。なにゆえに彼は、映像に出て来た特定の女子をいじめていたという過去も棚に上げ、さらには女子の過去をでっち上げていたのか。その動機の不可解ささえも、「実は人間のいびつさこそが恐怖なのだ」という、ホラーの本質を捉えていた恐怖大作であり、それからというもの、僕はホラー映画の話題が出るたびに、そのシリーズの話をしていたのだ。
それから10年近くが経ったある日、劇団員の永井若葉とたまたま「ホラー」の話になった。永井との付き合いも10年近かった。ハイバイ黎明期から劇団員としてハイバイを支えて来た女優であり、その柔らかな物腰と天然ぶりでみんなから愛されている。こういう人にこそ、ホラーの話をしたくなるのは当然だ。そして僕は、そのドキュメンタリーの話をし始めた。大抵の人はそのシリーズを知らなかったので、そこからは僕がストーリーを話すという展開になる。僕が「まずね、制作会社に投稿映像が届くの。で、それ見たら、小学校の教室で、」と話し出すと、「え?パートいくつですか?」と永井が聞いてきた。虚をつかれはしたが、「えっと、スペシャル」とだけ答え話を続けたのだが、永井はなぜか半笑いで話を聞いている。先に書いた通り、永井は人が怖い話をしている時に半笑いで聞く様なではないはずなのだ。いつもなら雰囲気を察して「もうすでに怖い」という体で聞いてくれるはずなのだ。不思議に思いつつも僕が「そしたら、周りの子達が『っていうか、~~君がいじめてたよね?』って言い出すんだよ。」と、話のサビに差しかかった所で、永井が再び話し出した。「それ、わたし出てます」と。
「えっ?」
とだけ言って、僕は黙った。意味が分からなかった。「出てる」?どういうこと?あのドキュメンタリーに?混乱していると永井「その同級生達の集まりの中にいますよ。わたし。」と、嬉しそうだが申し訳ない、といった表情でいる永井。僕は記憶をまさぐった。確かに投稿者と6~7人の同級生達がテーブルを囲んでいる場面がある。あの中に永井が!?「え?なんで?」と聞くしかない男岩井。「あれ、わたしも出演者で呼ばれて。」と答える永井。「でもドキュメンタリーでしょ?あれ」と岩井。「ちがいます。エチュードみたいなので作って。それに『ミッちゃん』も出てますよ。」と笑う永井。『ミッちゃん』とは、僕と永井の共通の友人である。「嘘でしょ!?」僕はさらに唖然としたまま、永井の詳しい話を聞いた。僕がドキュメンタリーだと思っていたものは、非常に精巧に作られたフェイクドキュメンタリーだったのだ。家に帰った僕は、さっそくそのビデオを見た。同級生達がテーブルを囲んでいる場面、投稿者の2人隣くらいのところに、普通に座っている永井の姿が見えた。今より少しぽっちゃりしてニット帽をかぶっているが間違いなく永井だった。しかし、「ミッちゃん」はどう見てもいなかった。が、物語が核心に迫り、投稿者が「自殺した」と言っていた人物が登場し、腰を抜かした。その「自殺した」「いじめられていた」と言われていた女子こそが、知人であり一緒に芝居もしたことがある「ミッちゃん」だったのだ。テーブルを囲んだ人々の中の永井に気付かなかったのは仕方ないとも言えるが、このメインキャストが知り合いだと全く気付かなかった岩井。そして当然、その映像は「恐怖」ではなくなり、ただの「知り合いが二人も出てる映像」と化したのだった。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。

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◎シアタービューフクオカ vol.69掲載(2017.10発行)