シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.40  「アニー・ホール」

ウディ・アレン「アニー・ホール」が好きだ。
監督、主演のウディ・アレン自身のユダヤ人としてのアイデンティティについても描かれている上に、氏の恋愛観から、性癖に関してまでがばかばかしくも誠実に描かれ、突如カメラ目線で政治批判を語り始めたりなど、表現の自由さ加減も楽しい。そういったウディ・アレンの「生活・政治・自分についての明るい批判世界」を、恋人を演じるダイアン・キートンが凄まじいルックスとそれに支えられた凄まじい愛嬌によって、一段と愛に溢れたものにしている。あの時代に二人を巡り会わせてくれてありがとう。神様。それ以外に神様に感謝することはございませんが。やっぱり、作家本人がその作品上に登場することで、作品の奥行きがズーンと広がる。

ただいま私岩井が取り組んでいる、ハイバイ「ワレワレのモロモロ」という公演は、俳優達が自分の身に起きたことを台本として書き、自分の役を自分で演じる、という形での上演となっている。ちょうど昨日、初日を迎え、大好評でござい。
僕自身が自分の身に起きたことを演劇にしてスタートしたもんで、「これ、誰でも出来るんじゃない?」と思って初めて見たことだが、やはりこのやり方には、「ただフィクションをやって作品として面白がってもらう」以上の何かがある気がしてならない。
荒川良々さんが父親のことを描き、それを自分で演じる。夜遅くに帰ってきた荒くれ父ちゃんは、大声で自分が帰って来たことを家中に叫んで知らせる。眠っている妻を起こし、息子である良々さんをさらに大声で呼ぶ。寝ぼけたまま父の元へ現れた良々少年に父は、「靴下ば脱がせろ」と言う。寝転んだまま靴下を息子に脱がせてもらい、「あー気持ちよか」と唸ったあと父は、「よし、もう寝ろ」とのたまう。この台本を読んだとき、僕は自分の父を思い出した。夜中に帰って来ては子供達を怒鳴り起こし、意味不明の説教をしていた忌わしき我が父。良々さんも、相当父親に圧力を受けて育ったのだろう。が、立ち稽古が始まると、その印象に変化が。夜中に叩き起こされた母親が、父から手みやげを渡されるというちょっとした場面で、演出をしている良々さんが「お母さんは嬉しそうにしてください」と一言。寝ぼけ眼でいる良々少年に、父が無理矢理太巻きを食べさせようとする時も「お母さんは『形だけでいいから』って、ニコニコしながら父ちゃんを見ててください」とのこと。

少年期、母から父に対する呪詛の様な言葉を聞いてきた私岩井には、それがなかなか理解出来なかったが、良々さんが演出をしながら発した「あの、母は父のことすっごい好きなんで」と言う一言で、全てが腑に落ちる。一見、お互いが怒鳴り散らしているような夫婦だが、その先で「しょーもないね!あんたは!」と、笑顔で受け止めている根っこが見えるのだ。
いつもなら僕の人生の一場面を作り込むのがハイバイの作品作りなのだけど、今回の「ワレワレのモロモロ」のように、いくつもの家族を垣間みると、いかに自分の家族が奇妙だったかが分かる。それと同時に、どこにも「普通の家族」などというものが存在しないことも分かる。
いまのところのお客さんの感想も、「自分の家族を思い出した」といった、いつものハイバイの感想に近い、観客が自分自身の経験や体験を思い返す機能を感じさせるものになっている。
この演劇の方法は、ほんと面白い。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。
コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」2月18日〜3月12日@東京芸術劇場シアターウエストにて。

http://hi-bye.net/

 

◎シアタービューフクオカ vol.64掲載(2017.1発行)