シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.39  「シン・ゴジラ」

「シン・ゴジラ」である。
一番「うっひょー!」となったのは、中盤での、大量に砲撃やら爆撃やらを喰らわされたゴジラの、たった一撃の「ブモー!」ってな業火攻撃で東京が一瞬にして「真ん中分け」な焼け野原になるところ。首相やら防衛省の面々やらが考えに考え、手続きにつぐ手続きを経て、さらには強国アメリカの力まで借り、いわば「地球サイドの叡智の結晶」とも言える「総攻撃」をすべて涼しい顔(基本的には険しい顔なので、涼しいときも険しいが。)で受け止め、たったの一撃で焼き尽くす、あの途方もない感じ。「キレる」とはああいうことを言うのだろう。失恋して部屋の壁なぐって小指骨折してた自分なんか「キレ」とは程遠い。

これを見た時期、僕はやっかいな仕事が続き、ストレスマックスな状態だった。夜も眠れず、仕事相手の顔が浮かんでは、およそ「仕事」とは言えないことを言ってのける。それがずーっと頭の中でリピートされるので、眠れるどころか、起きていたって、しんどい。まあ、演劇でもテレビでも、どこにでもいる、「自分が知らない面白さ」を、平気で「つまらない」と決め、「見たことがある」ものにしたがる人種だ。型にはめる前に、お前のセンスを疑え。あー腹立つ。

そういう時期だったせいもあって、この、ゴジラが東京を焼き尽くすシーンを延々と見たかった。日本ごときが地球外生命体に戦いを挑んで勝てっこない。人間ごときがやれることなんて、たかが知れている、ということを、徹底的にやって欲しかった。東京が全滅し、日本も殆ど焼かれる、くらいまでして欲しかった。

それにしても、このサイズの映画をやるのに、「日本がちゃんと勝ち切らない」とか、前半のあのガチガチの台詞内容とか、よくぞやったなあ!と思う。絶対に言って来るのだ。広告代理店とか、テレビ局とか、映画会社とか。「分かりにくい」ってやつだ。「視聴者が求めてない」とかだ。そういうい輩のせいで、どんどん「見たことあるもの」がコピーされていく。やれ「おっぱい出すな」とか「いくらめちゃくちゃな逃走犯でも、車に乗るときはシートベルトしろ」とか、そういう「どこかの視聴者が怖い」というちっちゃい恐怖だけで、平気で新しい価値の誕生を消そうとする。

若き脚本家も含め、俳優だって、絵描きさんにしてもなんでもいい。「作り手」の方々、くれぐれも誰かに「あなたの表現が必要だ」的なことを言われても、鵜呑みにしてはいけない。その人のいう「必要なもの」は、決して「あなたの表現」ではなく、「あなたの表現からその人が感じたもの」なのだ。全く別のものなのだ。話は大いにそれたけど、とにかく、こんな了見の狭っ苦しい時代に、よくあの規模であんな映画を作れたと思う。

「日本が勝ち切らない」という点に関してだけど、結局ゴジラは氷付けにされ、あれは氷付けにするためにまた莫大な代償を、ほぼ未来永劫、日本も、地球も、払い続けなくちゃいけない。一見勝利の様に見えて、全く勝利じゃない、あの後味の重さ。
「これで安心です。コントロール出来てます」って言ってるけど、「コントロール出来てないから起きたんだろうが」という総突っ込みを受け続けてるものが、日本にもあるから、全く他人事じゃなく、見ていられる。まあ、あの映画を見て「日本が勝った」と、公の場で言い切ってたのが日本の首相と言うのも、映画の中の皮肉の様だ。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。
西川美和子監督「永い言い訳」、三浦大輔監督「何者」に出演中。ハイバイの次回公演は12月、東京都内で!

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◎シアタービューフクオカ vol.63掲載(2016.11発行)