シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.38  「君の名は。」

新海誠監督の『君の名は。』が凄く良かった。

と、マネジャーのMが言っていた。
僕は目下、色々と書き物の仕事が重なっているため、プールにも行けないし、秋葉原に買いもしないメモリの値段を調べに行けていないし、つまりは映画を観に行くこともかなわずにいる。そんな中、リオオリンピックの閉会式はみた。面白かった。

さて、『君の名は。』は高校生の男女の主人公が出会えなかったり、出会えたりする恋愛の話で、絵が凄いのと、監督のやりたいことがアニメとして表現されている純度が異様に高く、強烈にジェラシーを感じた。と、Mが騒いでいた。とにかく号泣しまくったらしい。
Mはつい最近まで韓国に行っていたのだが、なぜか旅先でこっぴどい失恋をして、首が回らなくなるという肉体的なダメージを受けて帰って来た。携帯の検索履歴は今も「復讐」「訴訟」というワードでいっぱいだそうだ。

でもこの人(M)の恋愛は成立しづらいと常々僕は思っている。恋愛をしている自分に恋愛している、というタイプなのだ。恋愛の対象となる人物が、実際にはどういう人間なのか、Mとまともにコミュニケーションを取っているのかも、どれだけMから話を聞いてもグレーなままである。「才能」という本人の人格とは全く別の「イメージ」に惚れがちなMは、コミュニケーションを取らない相手のほとんどを「妄想」で補完している。つまり「この人黙ってるけど、俳優として才能あるし、かっこいいなあ〜」で満ち足りている時期があり、その後まともに話す機会があって、その妄想で補っていた、相手の「黙って」いた部分が明らかになった時、「裏切られた」レベルの怒りがMにわき起こり、傷つけ合う。その危うい痛がゆいような傷つけ合いのなかで、色合いとしてはきわめて「赤黒」い、躁状態の恋愛をしている。今回の相手とも、ここまで酷いことをしたんだから相手もきっと許さないだろう、みたいなキワキワのところまでいきながら、結局別れないということで安心するみたいなことを何十回もくり返していたらしい。普通だったら致死量レベルのダメージも、何度かくり返すと耐性ができて、「もっとちゃんと痛みを感じるところまで!」、みたいに進んでしまうので、どんどん被害が大きくなっていく。もはや恋愛というより、チキンレースだ。それで結局のところ別れたらしい。が、Mが生きているのは確認したが、相手がどこでどうしてるのかを知るのが怖い。

僕はどっちかが痛みを我慢する関係はフェアじゃないと思っていて、っていうかそんな痛い思いをしてまで頑張るほど恋愛に興味がなくなっているので、Mの恋愛のことに関心がないのだけど、いちいち全身全霊で上がったり下がったりしている様子は近くにいるので分かる。(地下鉄で号泣して来たんです、とかいって稽古場に来たりするから)僕とSkypeをする時に、部屋に誰もいないのに後ろを振り返って恋人がいるふりをしたりしないで済むように、早く情緒が安定すれば良いのにと思っている。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。
西川美和子監督「永い言い訳」、三浦大輔監督「何者」に出演中。ハイバイの次回公演は12月、東京都内で!

http://hi-bye.net/

 

◎シアタービューフクオカ vol.62掲載(2016.9発行)