シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.35  「友だちのパパが好き」

「スティーブ・ジョブズ」を観て来た。アップル好きだから。行くわよそりゃ。
が、なんだか、すげー台詞が多くて、ジョブズとマネージャーのやりとりが、いわゆる「対立してるけどお洒落にやり取りするぜ」感が漂い過ぎて、途中からもう、うるさく感じる。元々舞台だったのか?とでも言いたくなる様な、舞台装置を意地でも変えないぞというか、いわゆる「ジョブズのプレゼン」ではなく、プレゼンを行う直前の楽屋でのやりとりを集めた、謎の映画。プレゼン見せてくれた方が良いわ。ということで、この映画に関しては以上。

山内ケンジ監督の「友だちのパパが好き」を観て来た。
シックだわ~。山内さんの演劇プロデュース・ユニット「城山羊の会」でも同じ様に思うのだが、この監督の作品に出て来る俳優さんは、みんなすごく魅力的だ。しっかりと日常に根ざした上での狂気、エロス、とんちきさ、「正常、とはなんなのか」という問いかけをずっとしてくるような演出が静かにずっと続く。

城山羊の会でも常連の吹越満、岸井ゆきの、石橋けい、はド安定で狂っていて素敵。吹越満演じる男の、引いてみたらダメダメなんだけど、その日常レベルでの行動の一つひとつは何ら間違っていない、という、個人の日常と社会の関係そのものを表せてしまっている懐の広さは素晴らしいですわ。
岸井ゆきのはもう、老女俳優な貫禄だし、「や、フツーだし」と、ほんとフツーにやってくれる。フツーにやれるって、ほんと大事なことなんすよ。なんだかもう、俳優として退屈そうにさえ見える。もっとヒドイ役やってるところ見てみたい。
この吹越岸井ペアには、過去にPARCOで「ヒッキー・ソトニデテミターノ」という作品を作った時に出てもらったが、その時もとても頼りになった。どんな演出がつけられようと、人間でいることをやめないでいてくれる。だからこちらも思い切った演出ができる。有り難い存在だ。
山内さんの映画でも演劇でも、「エロのおさえに」とでもいわんばかりに、ふと、おっぱいを見せてくれる石橋けい。この人がやる「エロ以外閉じ切っている女」の圧迫感は、毎回楽しい。溜め息まじりに喋るたび、なんだか笑えてしまう。何を抱えているんだろうか、この女優は。
今作で初めて見た安藤輪子も不思議な女優だ。ただただストレートに信じてやっている、といえばそれまでなのだが、若い人特有の腰の軽さがない。終盤に包丁を振るう腰の入り方も、なかなかえげつなくて、面白い。

個人的にめちゃんこ笑ったのは、宮崎吐夢のセックス後の謝罪と感動の表現に、笑ってしまった。切なさが飛び散っていた。「ごめんなさい、でも素晴らしかった、でもすみませんこんな早くに、、でも素晴らしかった、、」みたいなことを肩で息をしながら囁き続けるのだが、こういう瞬間にこそ、些細な、本当に日常に隠れている些細な生活の光というものが膨張するのを目撃する様な、スーパー名場面だったと思う。やっぱり映画っていいなあ、と思ったのでした。

相変わらず、演劇でも映画でも楽しみなのは、この山内ケンジさんなのでした。(文中、敬省略でやんす)

 

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。2016年5月7日(土)・8日(日)ハイバイ「おとこたち」@西鉄ホール 作・演出・出演。

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