シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.34  「ブレイキング・バッド」

また映画じゃないのを書いてしまうが、『ブレイキング・バッド』だ。
「何をいまさら」と言われるのを承知で書くが、ほんとに面白い。
『24』的な、アメリカのテレビドラマなのだが、どハマりした。物語はシンプル。大学で科学を教えているおじさんが肺がんになり、その治療費を捻出するために、麻薬作りに手を出したために、ものすんごく大変な目に遭う。というものだ。

それにしてもアメリカのテレビドラマと言うものは、どこから制作費が出ているのだろうか。日本とは人口が違うからスポンサー料だけでもど偉い金額になるんだ、といった話を聞くのだが、この『ブレイキング・バッド』の初回の視聴率は1%だったという。2億人のうちの2%なのだ。日本でいったら深夜番組の視聴率と同じだ。人口もそれほど変わらない。そんな視聴率でスポンサーがついて、あんなに毎回ド派手に爆発して、体半分吹き飛ぶ特殊メイクとかする金がどこにあるのだろうか。爆発なんてほんとお金かかるんだから。こないだちょっと出させてもらった映像の仕事で「予算がないから爆発シーンは一発で行きます!」って助監督が叫んでたからね?これはどれくらい確かなことか分からないけど、いわゆる土に埋めて地面がボーンって爆発して砂煙が上がる、ってやつ、一発20万円くらいだってよ?人一人吹き飛ぶくらいの爆弾で20万なんだから、『ブレイキング』で家が吹っ飛んだり、車が大爆発したりするのはいくらすんのよ?どういう予算の仕組みなの?俳優ノーギャラ?といった感想は、見終わってしばらくしてから湧くもので、ハマっている最中は、この主人公のおじちゃんに肩入れしてヒヤヒヤしっぱなしだった。麻薬取引に行っていたアリバイを奥さんに隠すために、わざとコンビニをパンツ一丁になってうろついて保護されたり、仲間に寄り付いた美少女が邪魔だからってゲボ吐いて窒息しそうな少女をしっかり見殺しにしたり、こう書くと「どんな話だよ!」と思われるかもしれないが、いたってシリアスにコトは進むのだ。

そしてこれまた、俳優が揃いも揃って素晴らしい。主人公のおじちゃんもさることながら、相棒の若者、ジェシーの、いつ切れてもおかしくなさそうなおでこの血管を見ているだけでも、人生の谷をいくつか越えた気持ちになる。主人公の妻の妹、マリーの、時間を持て余すと高級モデルルームを見に行って「友だち皆シリコンバレーに住んでてさ~」的な嘘の身の上話をしてチヤホヤされ、そこでさらに盗み癖がある、なんて、こんな現代的なキャラ、アメリカのドラマに出て来るとは思わなかったから、もうウハウハな気持ちだった。

真剣に人間模様を見つめ続けるもよし、ド派手なアクションや科学的なトリックを解こうと必死に見るのもよし、マリーの万引き癖について真剣に考えるもよし、脚本がコンペ形式という、「そりゃあすげえプロットが上がって来るだろうね」なアメリカドラマの集大成でございます。他のなんにも見たことないけどさ。全部で6シーズンあるんだけど、とんでもないところから伏線が回収されたりする、凄まじいまでの脚本の精度と力強さに、なんか、日本のドラマってつまんないね、って思うこと請け合いです。日本のも見てないんだけどさ。

 

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。2016年2月13〜14日ハイバイ「夫婦」@北九州芸術劇場 小劇場の作・演出・出演。NHK 「ダメ田十勇士」出演中。

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