シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.32  「マッドマックス」

ただいま我が劇団、ハイバイの「ヒッキー・カンクーントルネード」は全国10都市のツアー中で、その出発日に東京駅に行ったけど新幹線のチケットが使えなくて「おい制作ふざけんな」と思いながら駅員さんに尋ねたら、出発日は翌日だった。自分が間違えていただけだった。朝の7時から東京駅で目的を失ったので、「マッドマックス」を見に行った。
冒頭の、主人公が「立つ」「見る」「歩く」全てに「ドゥーン!」とか「ギュワウィィイイーーン!!」って効果音がついてて、なんかもう「アホや~」と乗るしかなくなる。舞台はきっと核戦争後の地球なんだと思うが、油と水のためならなんでもする野蛮な世界で、「乗り物崇拝」な悪党達と、そこから逃げ出す全員めっちゃ可愛くてスタイルが良いスーパーモデル達と、それを助けるあんまり喋らない主人公。

悪党はいくつかのグループに分かれてるんだけど、なぜそれぞれのリーダーの体がやばい。なんなの、どういうことなのあれは。メインボスの「ジョー」は、背中にイボガエルばりにぶくぶくがあって、それをプロテクターみたいなので覆ってるんだけど、最終的にはそれがアダになって召されちゃったっぽいし、別の団体のリーダーも、足がもうめちゃくちゃになってた。脚本家目線で見ると、「全て、脚本家が書き過ぎちゃったのを全くコンプライアンスかけないでいってみました」といったところか。

「この男、背中がガマガエルみたいだったらエグくない!?」とか「足がゾウみたいになってるんだ!だから乗り物の必要性がめちゃ高いんだなきっと。そんで乗り物とどれだけ一心同体かで、そのグループでの立ち位置が決まるから…」などと、ゲラゲラ笑いながら企画を話し、それをありのまま、実写まで持っていったのだ。「こいつは死なないだろう」と思った登場人物たちが、あまりにもあっさり死ぬ辺りも、この企画話での勢いを感じてならない。正しいことなのだ。

日本だと、まずこうはいかないだろう。かつて「このシーンでは男性より女性の方が性的興奮が強すぎると思われますので、書き換えてください」と謎の規制をかけられたことのある僕としては、この自由度はとてもうらやましい限りだ。あの規制はなんだったのだろうか。あのテレビ局の、あの時期の番組は全て、あのコンプライアンス担当によって、「常に女性より男性の方が性的興奮が強い世界」が描かれ続けていたのだろうか。とにかく、そうやって知らず知らずのうちに「これはやっちゃだめかな」とか「これは不快に思われるかな」とブレーキをかけると、なんとなく事なかれ主義となってしまい、角の取れた、ぬるっとしたものになってしまう。そういう視点から見るとマッドマックスは、少年が興奮するままに書いた世界の終わりの風景がありのままに描かれていて、とても清々しい。

日本にも三池崇監督とか園子温監督とかいるから、だれかあのお二人に100億円ぐらいポンと渡してくれないかしら。
映画を見た後、「ヒッキー」ツアーのメンバーから「明日は銀のスプレー吹いて、全員集合だね」というメッセージが来た。これも劇中に出て来るアイテムなのだが、これに関しては是非、劇場でご覧頂きたい。銀のスプレー欲しい。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。7〜8月平成27年度公共ホール演劇ネットワーク事業 ハイバイ「ヒッキー・カンクーントルネード」作・演出。NHK岐阜発地域ドラマ「ガッタンガッタンそれでもゴ〜」脚本。 www.nhk.or.jp/gifu/gattan/
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