シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.31  「オープン・ユア・アイズ」

なぜか今まで忘れていたのだけど、自分の人生を思いっきりえぐられるような思いをした映画があった。アレハンドロ・アメナバールの「オープン・ユア・アイズ」だ。エドゥアルド・ノリエガとペネロペ・クルスが主演のサイコサスペンス風のスペイン映画。この映画のペネロペ・クルスが可愛すぎて、トム・クルーズが「バニラ・スカイ」としてペネロペ続投でリメイクしちゃったので有名な映画だ。
超金持ちで美形の主人公の男が、恋人のソフィア(ペネロペ)を失ったショックで事故り、顔面をゴッソリ負傷し、気を失う。男が目を覚ますと、なぜか元通りの美しい顔。恋人のソフィア(ペネロペ)とも仲睦まじくやっている。が、やがて現れる怪しげな男に「お前は夢を見ている」と言われ…。
これが、種を明かしてしまうともったいなのでここには書かないが、最終的には主人公の男が「幸福な夢の中」か「過酷な現実か」を選択する場面に至る。
そこで主人公の取った行動が凄まじくて、僕は一人で雄叫びをあげ、部屋から飛び降りかけたのを覚えている。2階だったけど。しかしこれがまた良くある話で、映画とは観ている者のコンディションでいかようにも変化する。

当時僕は劇団をやる前で、完全に自分の人生に迷っていて、さらには何年かつき合っていた彼女に振られ、さらにさらにその頃作っていた演劇が凄まじく上手く行かずにいて、毎晩ネットで人が殺される動画などを見ていた、という、精神的に絶不調の時期だったのだ。そこへ来て、僕をふった彼女にそっくりの「ペネロペ・クルス」が登場なのだ。もちろん、ペネロペ・クルスが彼女そっくりに見えたのは、その時の僕の精神状態のおかげであったことは言うまでもない。ペネロペがおっぱい見えたときなんか、なぜか泣きかけたのも僕の素敵な精神状態のおかげだ。

主人公(=僕)が事故にあってペネロペ(=彼女)を失う。夢か現実か分からない世界をさまよい歩くうちに、その世界の創造主に出会い、選択を迫られる。
そして主人公(僕)は、「彼女のいない現実」を選ぶために、夢の中で「自殺」をする。この場面で僕は叫んだ。彼女も失い、人生も迷い放題、演劇もひどいことになっている。これほどまでに生きる意味を見いだせない現実を、それでも選ぶために「死ぬ」という不条理。そりゃあ精神的に追いつめられてたら、簡単にショートする。頭の中が弾けたようになり、万能感と絶望が入れ替わり立ち代わり襲いかかったものです。

瀕死の状態だったけど、「これを解明しないと、僕は終わる」と思い込み、必死に繰り返し再生しながら、大筋や台詞や、ややこしい時間軸をノートに書いた。なんとなく理解しかけた頃に、監督のアメナバールが「この映画のメッセージは?」というインタビューに答えている記事を目にした。アメナバールは「世の中、見た目で人を判断するけど、そんなのダメだよね。」といった返答をしていて、愕然とした。え?そんな単純な話じゃなかったでしょ!?
こういった元も子もない質問をする記者も記者だが、アメナバールもダメだと思う。せっかく死ぬ様な思いまでしたのにさ。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。7〜8月平成27年度公共ホール演劇ネットワーク事業 ハイバイ「ヒッキー・カンクーントルネード」作・演出。アルカスSASEBO 8/22・23ほか全10都市。文芸春秋「文學界」7月号に小説「俳優してみませんか講座」を掲載中。
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