シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.30  「アメリカン・スナイパー」

久しぶりのイーストウッド監督、「ミリオンダラーベイビー」で全身の血液を凍り付かされたトラウマから、遠ざけていたのかもしれない。それだけ恐ろしい監督でござる。
みなさんご存知の通り「アメリカン・スナイパー」は、実際にイラク戦争に従軍した伝説のスナイパー、クリス・カイルさんの自伝を原作にしてる。生涯で250人以上を狙撃したと言われる、スナイパーとしてのかっこよさ的なものも一応は描かれているが、それよりも、この戦争、なんなの?という側からの視点もしっかり描かれている。「石油資源のことを考えると、この戦争が終わらないのが、アメリカに取っては都合がいい。」そしてわざと敵を殲滅せずに逃がしてしまうことになったりなど。
特に彫り込んで描かれている様に感じるのが、主人公が戦場に行って帰るたびに深まるトラウマやPTSDの症状。たいていの映画だと、ここにフラッシュバックや、エフェクトを入れると思うんだけど、この映画、一切入れてなかった気が。それ、本当に凄いと思う。もう何回か見ないとダメだ。
結婚、妻の妊娠と同時に戦場へ向かった主人公は、帰国するたびに様子がおかしくなっていく。血圧がめちゃ上がり(戦場で安定するという皮肉)、寝ているところを起こされるとゴルゴ13の「俺の後ろに立つな」ばりに奥さんの首を絞めちゃったり。びっくらこいたのは、この映画がアメリカの戦争肯定派から絶賛されているということだ。つまり「戦争賛美」の映画として受け止められているというのだ。ネタバレになるので詳しく書けないのだが、自叙伝を原作にしてはいるが凄腕俳優達によってドラマ化されたこの映画は、ラストで国を挙げての葬式の場面になる。軍人達が葬儀を段取り、物々しい車両で霊柩車を囲んで走る。

主人公は終始「俺の仲間を傷つけようとする悪いやつはみんなぶっ倒す。(もうちょっと繊細だけど)」という姿勢を一貫していたが、上に書いた様に、「この戦争自体と、それをあえて終わらせずに継続しようとする意味」というものは、「勧善懲悪」では語りきれないものとして描かれている。その「結構、国益のためじゃないの?」という意味合いを含んだ戦争で散った命を、狂うギリギリのところで耐え続けた妻や家族の視点に覆い被さる様に「国のため」のものとして崇める。この光景が意味するものは、「これだけ高尚な命を奪ったのは誰だ?そう、やつらだ。」という論理にしかつながらない。延々と続く、「あいつが先にやった」「いや、そっちが先にやった」のリベンジ合戦の文脈だ。

暗い気分で映画館を出たが、そのアメリカ本国での反応を知ると、一緒に映画館を出た人達の中には、ロッキーやベストキッドでも見た後の様に、主人公をヒーロー扱いし、自分を同化して興奮している者もいるのかもしれない。そう思うとさらに冷たい気持ちになる。
だいたい、今現在の日本も、なんとかしてそのアメリカに追随しようとしているように思えてならない。「積極的平和」って聞こえは良いけど、アメリカがしていることも、この言葉で言い訳がつけられてしまうものなのだ。あんなことやってても、負の連鎖は終わらないよ。分かってると思うけど。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。5/21~30岩井秀人×快快「再生」@KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオを演出、7〜8月平成27年度公共ホール演劇ネットワーク事業 ハイバイ「ヒッキー・カンクーントルネード」作・演出。アルカスSASEBO 8/22・23ほか全10都市。
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