シアタービューフクオカで絶賛連載中「舌の根も乾かぬうちに…」福岡県出身、TVや映画等で活躍中の俳優・野間口徹さんのコラムweb連動スタート!本誌と併せてお楽しみください。(過去掲載分も随時アップ予定)

nomaguchi

eps.7
 石橋を何度も叩いて渡り、急がなくても周り、将を射んとせずとも馬を射てしまうほど臆病かつ小心者の私ですが、一度だけ、無計画かつ大胆な一人旅に出た事がございます。大学生の頃の話です。
 3年目の夏休み。人見知りの性格を治そうと思ったかどうかは定かではありませんが、ふと、そういうリハビリ的な名目で一人旅に出ました。400ccのアメリカンバイクで。いや、あえて「単車で」と言いましょう。深い意味は無いです。目的地は決めません。適当にその日に行き着いた所で、適当にテントを張り寝る。そういうルールの旅です。大学のある長野県伊那市からスタートし、木曽を越え和歌山で一泊。翌日には奈良を通り四国に入っておりました。その間、銭湯の番台に座るお母さんに「いくらですか?」と聞いただけ。そうです、察しの良い方は既にお気付きでしょう。なんのリハビリにもなってない!むしろ大学にいた方が人と喋っている!流石に自覚していたので、次の四国では結構人と喋りました。同じようにバイクで旅をしている女子2人組と写真を取り合い「良いですよ」「撮りまーす」の二言。アイスクリンの売り子さんに「美味しいですね」道後温泉の周りにいる風俗店の呼び込みの人に「結構です」と。せめて最初の女子には「ハイ、チーズ」くらい言えば良かったとは思いますが、かなり上出来な方でした。
 しかし、善戦はそこで終わりました。九州に入り、寝ているテントに爆竹を放り込まれてからは、誰の事も信用できなくなり、夜に眠る事が怖くなり、昼間、コインランドリーの中で眠り、日が暮れてから移動開始するという、もう観光ですらない旅路。途中寄った実家では、旅の唯一の証拠を残すはずの、何十もの風景を撮ったインスタントカメラを母親に洗濯されてしまうという最悪のアクシデント。 次への気力を取り戻す元気もないまま山陰地方から京都、新潟、東北、ぐるっと回って関東、富士山を見ながら山梨を抜け長野県へ戻るという旅の行程を、僅か数日で、写真も撮らず、ただひたすらに無言で、街の銭湯だけは入り、駅やバスターミナルのベンチで寝ながら消化したのでした。まさに消化。我慢。苦役。残ったのは極度の疲労と、異常なまでの日焼けだけでした。未だにあの頃の自分の心境が全く分かりません。「短期留学してくる」とか言っちゃうタイプのノリだったのかも知れません。しかしそれ以降、さらに心を閉ざす方向へ向かった事は、言うまでもありません。

 そんな私が、最近頻繁に周りの人に言われるのが「社交的になった」「明るくなった」。どうやら40歳にして、やっとあの頃のリハビリが効いてきたようです。人生に無駄なことなど無いのだなぁと、つくづく噛み締めておる次第です。そして無駄なことを、更にしなければなぁ、とも。

 

のまぐちとおる/1973年生まれ、福岡県出身。俳優。
コントユニット「親族代表」と、劇団「ピチチ5」に所属。7月スタート「幼獣マメシバ 望郷篇 ドラマ版」(BSフジ、TVQ九州放送 他)、映画「ホットロード」(8月16日公開)に出演。来年1月には「親族代表」ツアー公演(東京・福岡・広島・大阪)を予定。