シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。最終回!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.60「ジブリ作品」

このコロナ騒動の中、岩井家も自粛生活をしている。「絶対に」ではなく「出来るだけ」外に出ないように、というだけで、ジワジワとストレスがたまるのが良くわかる。なのでほぼ毎日1回、妻と散歩やちょっとした買い物(コンビニとか)に出る。
中1になる我が娘も散歩に誘うのだが、全く誘いに乗らず。
この「一億総ひきこもり」状態を一番歓迎しているのは、我が娘なのかもしれない。「自称ひきこもり有段者」の僕もこの自粛ムードが始まったあたりでは「ふふふ、ようこそこれがひきこもりの世界だ。みんなも苦しむがいい。私はすでに何年間も経験したことがあるのだ」などと思っていたけど、最近はなんかもう嫌になっちゃっている。そしてそんな男を父として育った我が娘は5~6歳の頃に「一生家の中をウロウロして暮らしたい」と宣言している。あれから10年。学校には毎日楽しそうに通い、部活も一応運動部に所属し、かっちりと社会に適合していつつも、今回のような状況になると、本領を発揮し出した。
先日もいつものソファーにいつもの体勢で座り、「となりのトトロ」を見ていた。もう何度見たか分からないとのこと。「同じ作品を何度も見る」ということは、なんだかとてもいいことのように思える。あらゆる情報が物凄い勢いで過ぎ去っていく中で、わざわざ同じものを繰り返し見る、ということは、ものを作る者としては、「作品と会話が始まっている」ように感じる。

ジブリ作品、宮崎駿作品は、やはり面白い。面白いし、そうやって「何度も見て」しまうほど、感じ入った後の心に漂えるほど懐が深い。
個人的に一番衝撃を受けたのは、「千と千尋の神隠し」に出てくる「カオナシ」だ。のっぺらぼうのような仮面を被り、何かを尋ねられても「あ…」としか答えない。映画館で初めて見た時は思わず笑ったが、その後に何か引っかかるものがあった。「いるよな…こういう人…」と思いながら見ていくと、そうやってどっちつかずの「あ…」を連発していたカオナシが取り出した金の粒に他人が喜んだ瞬間、おぞましい量の金の粒をドバドバと相手に差し出し始めた。ここに来て、気づいた。
「わ、、これ、俺だ、、、」と。

僕は今でこそ舞台に立ったり人前で話すことを仕事にしているが、そもそもの一人コミュニケーション不全さ加減は、まさに「あ…」の連発だった。相手が何を求めているか、そもそも自分がどうしたいのか分からず、少しでも相手が求めているものがわかったら、精神がすり切れるまで、根こそぎそれを吐き出してしまう。そしてそれが受け入れられなかったら、キレる。
そこからはカオナシの一挙手一投足に目が離せなかった。こういった社会に存在する「困ったやつ」をアニメという形で人々にその精神構造までわかりやすく提示し、それでいて決して「悪」とはしない。ここがまた凄い。「困ったやつ」を提示するだけ提示して、最終的には迫害したまま終わる、ということで止まっている表現がほとんどを占めている。
トトロにしがみ付き空を飛ぶ空気感や、畑の中に四つん這いで入っていくだけで笑ってしまうような、そういった「質感フェチ」満載の時間を過ごしながら、そんなことを思ったのだった。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。

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◎シアタービューフクオカ vol.84(WEB版)掲載(2020.5発行)