シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.58「恋は雨上がりのように」

大泉洋、小松菜奈主演の『恋は雨上がりのように』である。
見たのはずいぶん前のこと。ヘタしたら去年(2018年)の暮れじゃないだろうか。その頃ワタクシは海の上におりまして、フランスに『ワレワレのモロモロ』を作りに行く最中だったと思われる。
飛行機の中の過ごし方が本当に難しくて、足がおっきくなってく気がするし、時計見ちゃうと全然時間が進まないし。で、仕方なく「邦画でも見てやるか」というような横柄な態度で、でも「大泉洋」と「小松菜奈」という名前には凄まじく惹かれて見始めたわけです。

以前、劇団ひとり監督『青天の霹靂』で大泉さんとは一緒になって、素敵な俳優さんだなあとは思っていて、撮影の合間に風間杜夫さんらとともに「どれだけゲテモノを食べたことがあるか」という話になり、そこで大泉さんが放った「ゆむし」という食べ物、いや、生き物を携帯で調べ、そのゲテモノぶりに携帯を放り投げてしまった思い出がございます。(調べるのは自己責任でどうぞ)
小松さんは、大根仁監督『バクマン。』で一緒になり、あだ名がやはり「こまつな」だったなどという会話をしたことや、岩井が脚本を手伝わせてもらった中島哲也監督『来る』でのめちゃ素晴らしいダークヒロインを演じきったことも記憶に新しく。もうほんと、こんなこと言うのも失礼なくらい、いつの間にか素晴らしい女優さんになってまあ!!
そんなことを考えながら見始めた『恋は雨上がりのように』は、本当に素晴らしかった。
何だろう、「何もしていない」という言葉は褒め言葉になりにくいかもしれないけど、余計なものが何一つない、監督と俳優がとてもシンプルに人間たちの心模様を描くことに徹し切った感のある作品でした。脇を固める俳優さんたちもすげーかっこいいほどに「ただ、やる」という風情。
なかなか表現しづらいので例えるならば、映画も含むエンターテイメントというものは、やはりプロデューサーやテレビ局という何かこう、大きなワードを使う人々によって立ち上がったり、動き始めるわけです。「CGが」「現代日本に」「若者に刺さる」「F層がなんちゃら」といったワードで動き始めるので、映画を見ていても「ここで泣かせる!」とか「ここで監督がこの若手俳優を追い詰めた!」とか「こんな俳優がこんなバカらしいことやっちゃってます!」とか、そういうスポーツ新聞の見出しになりそうな大味な瞬間がどうしてもこぼれがちで、特に日本の映画だとそういった事象が露見し、辟易させられることが多いわけです。

んが、この「恋は雨上がりのように」は、そういったことが全くなく、ただただ、こまつな演じる高校生と、ファミレス勤務の大泉さんと、その周りを取り巻く心ある人々や、心ある人々の心ない瞬間が丁寧に丁寧に描かれ、その積み重ねによって、ドラマが作り上げられているのです。
いやはや、本当に素晴らしかった。主演のお二人にどこかで会う機会があったら、真っ先に言おう。
ちなみにこまつなの母を演じていた吉田羊とは古くからの友人なのですが、「お母さん、めちゃ素晴らしかったよ!」とメールしたところ、
「お、まじか。」
と返事が来ました。まじだ。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。

http://hi-bye.net/

◎シアタービューフクオカ vol.82掲載(2019.12発行)