シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.51「来る」

 わたくし岩井が共同脚本として関わらせていただいた映画「来る」が、今年の12月から上映されるとのこと。色々と思うところはあるが、「来る」はホラー映画という位置付けで公開されることになる。
 みんなは、ホラーが見れますか?好きですか?ホラー。僕はと言いますと、以前こちらに書かせてもらったように、人生で一番怖かったのは「呪いのビデオ」シリーズで、さらに怖かったのが、その作品に劇団員の永井若葉が出ていたこと。そして10年以上僕がそのことに気づかずに、折に触れ見返してはちゃんと怯えていたということ。とにかく、岩井は怖がりなのである。昔は兄妹たちに、実家の一階に取り残されるのを死ぬほど嫌がった。家族全員、寝室は二階にあった。寝る時間になると、兄が僕によくわからない用事を申しつけるのだ。僕が嫌がれば嫌がるほど、兄は面白がっていた。「お前、自分の箸、ちゃんと片付けてなかったから、見に行ってこいよ!」と、兄に言われれば、行くしかないのだ。まあ兄は怖がらせようというより、面白がりたいのだろう。こういうときの「行ってこい」と言う側、言われる側の気分のギャップったら、ない。言われる側からしてみたら、本当に地獄だなと思うのだ。
 こんなことを書いておいて、僕自身は人が怖がっているのを見て、面白がる「タイプ」ではあると思う。だから兄のことも微妙に責められない。やはり、それは作劇にも現れているが、不幸な人やひどい目にあった人を見たい、という欲求は間違いなく、ある。ただ、それが個人によってもたらされたものか、ほぼ災害といってもいいくらいの仕方がないところから降った不幸なのかで、感じ取り方を変えているようだ。何を見て人が面白がっているのか、というのもちゃんと考え始めると恐ろしいほど意味不明になることがある。YouTube上に「爆笑失敗動画」みたいなものが散在しているのだが、あれも時折「待ってくれ、これ全然爆笑でもなんでもない」と思うこともしばしばだ。僕は特に、スケボーとか自転車でひっくり返るとか、子供がブランコから落ちるとか、そういう肉体的な損傷の可能性があるものに対しては全く笑えない。あれを見て笑っている人がいると思うと、怖い。映像の中でも、殴られたり何かにぶつかったりして棒のように人が倒れたのを見て、その友達が笑っていたりする。恐ろしい。凄まじいドッキリも全く笑えない。真っ暗な部屋に入ってきた人に、突如、爆音を浴びせて驚かす、というのは、ドッキリじゃなくて、ほぼ「暴行」だと思う。あれを見て笑っている人の存在こそ「ホラー」な気がしている。
 さて、「来る」から始まった話が「来る」に全く触れることなく終わりを迎えているのだが、仕方がないのだ。中身を話すのももったいない作品なのだ。まさに「恐怖」というものについても考えられる作品だし、さすがの中島さんによる、「告白」で見せたスローモーションのシークエンスや、尖りきった映像美が物語にさらに生々しさを与えている。俳優さんがまたみんな素晴らしい。最近どんどん映画界のお宝となってきている小松菜奈さんの勢いがどこまで行くのだか、それも見どころであります。中島さんの映画は俳優がいつもいい。無駄な自由を俳優に与えないことで、シンプルだけど生命力に溢れたキャラクターたちが見えて来る。是非是非、皆さん観てください。ただのホラーではありません!

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。

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◎シアタービューフクオカ vol.75掲載(2018.10発行)