シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.50「タクシー運転手〜約束は海を越えて〜」

 『タクシー運転手〜約束は海を越えて〜』を観た。すごいんだこれが。主演はソン・ガンホ。1980年、ソウルのおっさんタクシー運転手が光州まで外人ジャーナリストを乗せていく。光州では戒厳令が敷かれていて、政府軍が学生デモを武力で制圧しようとしている。自分が乗せたジャーナリストが撮った写真を世界に発信するために、タクシー運転手は光州からソウルまで決死でドライブする・・・。
 『新感染』でも感じたのだけど韓国映画のキャラクター設定のうまさ、事件が起きる時の生々しさと説得力はすごい。例えば主人公は妻を亡くしていて、小学生の娘を一人で育てている。そして家賃を滞納してお金に困っているから、光州までの危ないドライブを引き受ける。が、娘を家に一人で残しているから一旦はジャーナリストを見捨てようとしたりする。その時の葛藤や苦渋の元となるものは、前半にびっしりと伏線として張り巡らされている。例えば廃車寸前の車は前半からちょっと調子が悪くて、後半でめっちゃスピード出したい時に・・・みたいに。その一回一回の「どうなるー!んぐー!!」という感情を、ソン・ガンホがやると全部本当になる。(彼は『スノーピアサー』でもむちゃくちゃオジかっこよかった。)すごい。

 実は去年から1年半くらいかけて『来る』という映画の脚本を中島哲也監督と書いていた。ある日、『ぼぎわんが、来る』という小説を(めちゃ面白い)東宝の川村元気さんが送ってきて、「中島哲也さんが初めてホラー映画を作るから一緒にやりましょう」と言われたのだった。
 僕は小説が読めない。脚本を読むのも苦手だ。登場人物が2人以上になると今誰が喋っているのかがわからなくなる。だから断ろうと思っていたのだけど、『告白』をはじめ、大好きな作品がいくつもある中島監督だったのと、会った瞬間にマネージャーの三好が監督を好きになってしまって、アレヨアレヨという間に企画が進んでしまった。この脚本作りは興味深くて、小説を元に僕が取材したいことを提案し、対象者にあったり、あるいは資料を集めてもらったりして、その内容を元に皆で集まってお喋りした。何が主人公のストレスなのか、何が主人公にとっての恐怖なのか、などを雑談し、宿題を持ち帰り、短いシーンをいくつも渡す。するとそれを膨らませた、監督の第1稿が来る。「岩井くん、ここもっと感じ悪くしてよ。嫌なセリフ描くの得意でしょう?」みたいなことを言われて「あんたに言われたくないわ!」と思いながら僕がいくつかの状況を書き足して、それを監督が取捨選択し、また宿題が来て、集まって話したりする。っていうのを1年くらいやっていた。監督の書いて来た台本はとんでもない圧で、それに書き足したりするのは、すごくプレッシャーだった。だけど、色々とすごく勉強になった。
 『タクシー運転手』についても、その場に自分がいたらどう振る舞っていただろうということをずっと考えているし、それをリアルな脚本に落とすには何があるといいのか、ということを考えている。
みんな『来る』見てね。12月公開だよ!

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。

http://hi-bye.net/

◎シアタービューフクオカ vol.74掲載(2018.8発行)